連載コラム

[ 2011.11.30 ]

不確実性の高い時代を生き抜くためのソリューション活用方法
IFRS強制適用延期の経営インパクト
(2) 経営基盤強化に向けた業務面からのアプローチ

ビジネスソリューション本部 研究員 田中理史

本コラムでは「収益認識」のテーマに関する分析を起点として、IFRS適用までの猶予期間を活用して業務の見直しに着手している事例を紹介する。

そもそもIFRSでは「物品の所有に伴う重要なリスクと経済価値の双方が移転された時点で収益を認識する」とされている。このため、「出荷基準」による売上の計上は輸送中の毀損リスクが客先に移転していない(例えば、輸送中に商品が壊れた場合には、売主が買主に代替品を再送しなければならない)といった理由から認められない可能性があると言われている。
すなわち、IFRS適用においては、取引上の「リスク」と「経済価値」の移転タイミングが顧客と明確にされており、そのタイミングをもって収益を認識する必要がある。この実現には、少なくとも以下の3点が明らかになっている必要があると考えられる。

a.  自社の取引パターン(商流)が明確に整理されている。

b.  各取引パターンにおいて、「リスク」と「経済価値」の移転タイミングが明確になっている。

c.  IFRSの要件を満たさない取引パターン(収益認識基準を変更しなければならない取引)が明確になっている。

一方、日本企業は従前よりJ-SOX対応に取り組んでおり、上記の「a」「b」の要件を適正に遂行していると考えられている。しかし、IFRS基準に照らして「リスク」と「経済価値」の移転タイミングを再検討した場合、必ずしも十分に遂行されていないことがある。このような状況において、当初は消極的対応によってIFRS適用を目指してきた企業であっても、IFRS適用までの猶予期間を活用して自社の業務を根本的に再検討する動きが始まっている。このような猶予期間の活用の背景として、市場環境が上向くまでの間に経営戦略の実行基盤である業務やITを再構築することにより、今後の持続的成長に向けた準備を優先することが考えられる。以下、企業の取り組み事例を示す。

ある企業では、経理部が中心となってIFRS適用に向けた影響分析プロジェクトを進めてきたが、「リスク」と「経済価値」に着目して自社の取引パターンを整理する中で現在の経理部が把握している情報のみでは十分でないことが明らかになった。そこで経理部では調査シートを作成し、販売部門担当者にアンケート形式で回答してもらうことにより、自社の取引パターンの棚卸しを開始した。
調査の過程で、販売部門担当者のみが把握している顧客固有の取引条件が多数存在することが分かり、全ての取引において既存の条件を維持しながらIFRS基準での収益認識を行うためには業務上の負荷が膨大になることも明らかになってきた。このため、この企業では業務プロセスの再構築や必要に応じて顧客との契約条件の見直しも視野に含めている。
また、機械の保守サービスなどの役務提供を中心とするある企業では、業態ならでは課題も明らかになっている。機械が故障した場合には緊急での修理を求められる場合も多く、仮価格での取り引きややむを得ず注文書等の書類交付も後回しとして役務の提供が行われるケースが存在する。場合によっては価格が曖昧になったり、無償サービスの一環として認識されたりすることによる債権の未回収が発生することもある。

IFRSではこうしたケースにおいても原則に照らし合わせて「リスク」と「経済価値」が移転したタイミングで収益を認識する必要がある。このため、この企業では業態特有のこの問題に対して担当会計士と適正な収益認識プロセスを検討することはもちろんのこと、IFRS適用をきっかけとして顧客との間で契約条件を明確にすること、例えばオンコールで保守を行わなければならないような商品の場合は、売買契約時にオンコールに関する約定(どこまでの役務をオンコール保守契約の範囲内とするか、どういった作業に対して追加料金を徴収するか等)を記載しておくことや、自社担当者の業務も適切な顧客折衝を前提としたプロセス(例えば有償対応になることの事前説明や、役務提供完了時に有償対応にて作業を了解したことへの認印を受領する等)へと変革させることにより、ガバナンスを強化するとともに顧客との事後的な調整コストも削減することを検討している。

IFRS「収益認識」要件への対応は、経理部門だけでなく、販売部門担当者にも大きな負荷を要するものの一つとして取り上げられることが多いが、事例として取り上げた企業のように猶予期間を活用して自社業務の課題に取り組むことにより、販売担当者にしか分からない属人化した業務の見直しや業務プロセスの再構築が可能となり、業務負荷削減やガバナンスの強化を実現することができる。こうした取り組みは当然のことながらIFRS適用時の負荷削減にも寄与する。

次回、第3回目のコラムではではシステム面に関する取り組み事例を紹介する。

 

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