Thinking TODAY

[ 2009.6.2 ]

企業決算:世界同時不況で露呈した低付加価値な収益構造

経営コンサルティング本部 主席研究員 五月女政義

サブプライムローンの破綻に端を発し、グローバルレベルの金融・経済の混乱は、わが国の企業経営に激 震をもたらした。上場企業の3月期決算の集計結果を見ると、09年3月期の売上高は前年同期比で、全 産業(除く金融業)が7.3%減、製造業が10.9%減、非製造業が1.2%減。経常利益は全産業(金融保険 業は除く)で63.9%減、製造業が83.7%減、非製造業が27.7%減と壊滅的な打撃を受けている。新聞紙 上でも連日、大幅減益、赤字幅拡大、経営破綻の文字が並んでいる。

日本企業は過去10年の間に、99年3月期と02年3月期の2回、急激な景気後退に見舞われ業績悪化 を余儀なくされた。しかし今回の激震は、これまでの2回を上回る大幅な落ち込みを示しており、10年3月 期も度以降も減収減益となる見込みである。景気の低迷が長期化した場合、かつてない多くの企業が 窮地に陥る可能性がある。

売上高および経常利益の前年伸張率推移


日本企業は過去2回の大規模なリストラを経た後、5年以上にわたって好景気を背景として業績を伸ば してきた。有利子負債の削減と内部留保の充実が進んだ結果、自己資本比率が大幅に改善し企業体 力が強化される一方、製造業を中心に生産性の向上により経常利益率も改善、損益分岐点比率が大 幅に引き下げられてきたはずであった。

では、なぜ10%前後の売り上げの落ち込みに対して、経常利益、とくに製造業の経常利益が一気に落ち 込んでしまったのだろうか。なぜ前年度まで最高益を謳歌していた企業が、一気に赤字に転落するという 構図になってしまうのだろうか。

昨年来の世界同時不況で、日本企業は次のようなトリプルパンチに見舞われている。

1.景気悪化に伴う世界的な需要の量的減少
2.需給バランス悪化による販売価格の下落
3.円高による販売価格の目減り

前述したように、日本企業の損益分岐点比率は確かに改善された。しかし、それはあくまで「一定の販売 価格」を前提としたものである。こうした意味で量的な変動に対する耐性はついたものの、その前提となって いる販売価格の下落が重なるとひとたまりもないという、低付加価値な収益構造を露呈した格好となった 。

実際に過去10年間の売上高付加価値率の推移を見ると、非製造業は横ばいからここ数年、若干低下 傾向で推移しているのに対して、製造業はほぼ一貫して低下しており、10年間で約4ポイント下落してい る。こうした意味で日本企業はB/S(バランスシート)面の改善によって企業体力は強化されたものの、P/L (損益計算書)面、とくに付加価値という視点からの収益構造は極めて脆弱だということである。今回の急 激な業績の悪化は、旧来型の収益モデルが、環境の激変により一気に崩壊した結果といわざるをえない 。

こうした環境変化を単なる一過性の現象として捉えている企業に未来はない。為替の影響を受けず業績 への影響が相対的に小さい内需型産業も、国内市場の成熟化に伴う需要の減少や、成長の限界という 課題に直面している。多くの企業が足元の現象面での変化に振り回され、短期的な対症療法に終始し ているが、環境が激変するなかで生き残っていくには、国・産業・業界の枠を超えた非連続的な変化や、 リスクの顕在化と連鎖反応を想定しておくことが必要である。

不確実性が高まるなか、企業経営はかつて経験したことがない領域に突入している。国境や地域、業界 ・市場のボーダーレス化、クロスオーバーが進展しているにもかかわらず、多くの日本企業はいまだに伝統的 な業界バリューチェーンと競争ルールを前提として事業展開を行っている。成長余力の喪失と収益モデルの 崩壊という構造的な問題に対し、どのような打ち手を打つかということが、経営にとっての本質的な命題で ある。

もはや既存の枠組み、今までと同じビジネスのやり方で、成長や高収益化を追求していくのは限界にきて いる。顧客価値を起点として、

1.バリューチェーンの同一ポジションにおける水平統合
2.バリューチェーンの川上機能統合
3.バリューチェーンの川下機能統合
4.異なるバリューチェーンの融合による新カテゴリー創出
5.異なるバリューチェーンの川下への展開によるマルチユース
6.既存のバリューチェーンの機能を海外で横展開するグローバルバリューチェーン構築
7.全く異なる新規バリューチェーン参入

という7つの切り口から、自らのバリューチェーンの立ち位置を見直し、新たなビジネスモデルを構築しなけれ ば、低付加価値ゾーンからの脱却は困難である。

環境が激変し不確実性が高い時代だからこそ、長期的な視点に立ち、経営の目線をより高度化すること により抜本的な経営革新を推進しなければ、生き残ることすら困難となるだろう。

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