Thinking TODAY

[ 2009.7.2 ]

TOP500:スパコン世界ランキングに見る「あすの日本」

マネジメントサービスセンター シニアコンサルタント 市吉伸行

スーパーコンピューター(スパコン)の最新の世界ランキング「TOP500」が、6月23日に発表された。毎年2回発表される世界ランキングで、昨年11月に引き続き1位と2位を独占したのは、米国エネルギー省に納入されているIBMのスパコンである。いずれも1秒間に1000兆回強の演算ができる性能をもつ。日本からは、3月にリニューアルされた地球シミュレータ(22位)、宇宙航空研究開発機構のスパコン(28位)など15システム(うち国内ベンダーのみの構成は7システム)がランクインしたが、設置システム数としてはトップの米国、欧州各国、中国に次ぐ7位だった。米国とトップを競った1990年代を思い起こすと、日本勢の後退は顕著である。図に示すとおり、日本での主要ベンダーは大手3社が固定しているのに対して、米国はトップが時代とともに入れ替わっており、ダイナミズムがあるのが大きな違いだ。

NECは先月、世界最速の「京速スパコン」(1秒間に1京(1兆の1万倍)回の浮動小数点演算が可能)を目指す次世代スパコン開発プロジェクトの製造段階への不参加(事実上の途中撤退)を表明した。次世代スパコンは、NEC が設計・開発するベクトル部と、富士通の設計・開発するスカラー部から構成される複合型だった。しかしNEC が撤退した後は、スカラー部のみで性能実現を目指すことになる。巨額の国策プロジェクトの途中での撤退は、大きなニュースとして各紙で取り上げられ、費用負担や契約形態の問題などが指摘されている。だが、スパコン技術・市場を知る専門家たちは比較的冷静に受け止めているように思う。

スパコンの心臓部であるCPU(演算処理装置)には、スカラー型とベクトル型の2種類があり、ベクトル型は高性能を追求するうえで優れているが、スパコン以外の用途がなく、市場が限られている。スカラー型はPCやサーバで使われ、大量生産される汎用製品であり、1個あたりの価格が低く、技術開発成果は大きな市場に生かすことができる。富士通も従来、ベクトル型スパコンを開発し、NECよりも市場シェアが高かった時代もあるが、2002年にスカラー型に転換した。ベクトル型スパコンは「特別製」だけあって、気象予測などの重要分野で性能的に優れているが、市場原理的には今後さらに苦しくなることが必至であろう。世界最速スパコンの開発に心を燃やしていたNECのトップ技術者たちは落胆しているに違いないが、ベクトル型にせよ、スカラー型にせよ、ますます規模が大きくなるスパコンにおいては、電力消費をどう抑えるか、何千、何万という演算装置をどう接続し、それらを協調させて大きな問題をいかに効率よく計算するかなど、技術的な挑戦テーマには事欠かない。

国策で独自仕様の世界最高レベルのスパコンを開発することが、スパコン市場、ひいては汎用コンピュータ市場での競争力を高めることにつながった(少なくともそう思われた)幸せな時代は去った。今後、スパコン開発・導入に大きな国家予算を投入することの意義は、国家的意義をもつ重要なシミュレーション計算(地球温暖化、大地震の広域的影響評価など)の実施や、計算科学技術(材料開発や生命科学などさまざまな分野でのシミュレーション)による科学・産業のインフラ強化の2点にあると考える。日本は「科学インフラ」が強いとされているが(「Thinking Today」6月8日記事)、将来「スパコン分野での地位低下が科学インフラ低下の先行指標だった」と振り返ることにならぬよう、ベンダー支援という色でなく、国家が自分自身のためという意思をもって推進することが必要だ。「あすの日本」は年金確保など守りの分野だけでなく、科学・教育など、未来への投資によってこそ開ける。今回の危機を転じ、個々のスパコン開発プロジェクトに留まらない骨太の目標と長期計画を策定していくべきではないか。


グラフ

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