Thinking TODAY
[ 2010.6.17 ]
業績回復基調の中に潜む日本企業の課題
経営コンサルティング本部 主席研究員 五月女政義
サブプライムローンの破綻に端を発したグローバルレベルの金融・経済危機から1年半以上が経過し、日本企業の業績は回復基調となりつつある。先ごろ、日本経済新聞で発表された2010年3月期の上場企業(金融を除く全産業)の決算集計を見ると、大規模なリストラと新興国需要の回復に支えられ、経常利益は前年比23.8%の増益となった。一方、売上高は前年比11.4%の減収で、増益を果たしたとはいうものの、経常利益の絶対額は危機前の4割強という水準にとどまっている。
業種別の売上高を見ても、主要24業種のうち、売上高が前年を上回ったのは医薬品と小売業の2業種だけで、ほかの22業種が減収、そのうち12業種は2けたの減収を余儀なくされている。また、石油、電気機器、自動車・部品の3業種が経常黒字に転換を果たしたものの、海運、空運が赤字転落もしくは赤字幅拡大という状況になっている。
2010年3月期の業績が総じて減収増益の縮小均衡であったのに対して、2011年3月期の業績予想では、先進国需要の底打ちと新興国需要の順調な成長に期待して、金融を除く全産業で売上高は6.2%増、経常利益は35.4%増という増収増益を見込んでいる。
日本企業は長年にわたって売り上げの拡大が利益に直結する収益モデル(言い換えると売り上げの拡大に依存した収益モデル)を前提として経営が行われてきた。しかしながら、一昨年の金融・経済危機を契機として、売り上げの中身そのものが構造的に変化を遂げる可能性があり、従来の収益モデルを抜本的に見直すことが必要な時期にきている。
第一に、今後、国内市場の成長に大きな期待をかけるのは困難なため、内需型企業といえども成長を実現するためにはグローバル展開を志向せざるをえないこと。従来のグローバルスタンダード型の製品のみならず、今後は、生産と消費の同時性といった特性からグローバル展開の難易度が高いといわれてきたサービス業や非製造業を含めて、新たな海外展開モデルを作り上げていかなければならない時期にきている。逆説的に言えば、従来、国ごとに分断されたローカルビジネスが主役とならざるをえなかった領域にこそ、潜在的なビジネスチャンスが残っているということである。
第二に、新興国需要の拡大に大きな期待が寄せられているが、「成長市場」と個々の企業が「勝てる(儲かる)市場」は異なる概念であるということ。日本企業が日本市場の特殊性や商慣行、日本人独自の嗜好性などを障壁として、海外企業の攻勢から身を守ってきたように、現地企業や先行グローバル企業は新規参入者に対して厳しい対抗措置を講じてくるものと予想される。先住企業に対していかに差別化するかが明確にならないかぎり、結局、価格競争に陥り、売り上げは増えても儲からないという落とし穴に陥ることになる。
第三に、すでにグローバル展開を行ってきた企業においても、エリアポートフォリオが大きく変化すること。従来は先進国市場で利益を稼ぎ、新興国市場で高成長を果たすというポートフォリオマネジメントが機能してきたが、今後は新興国市場で高成長を実現し、かつ高収益を上げるというパターンに転換していかなければならない。伸びしろの大半を新興国市場が占めるなかで、付加価値構造が異なる新興国で稼げるグローバル生産レイアウトとバリューチェーンの機能配置が必要不可欠となる。
以上のように、日本企業は業績が回復基調とはいうものの、次なる成長と高収益化を両立するためには多くの課題を抱えており、国内×既存業種/業界を対象とした従来の延長線上のビジネスモデルは限界に近づきつつある。過去1年半の間、足元の対症療法的なリストラ対応に追われてきた企業と、構造改革を行いつつも景気回復後を視野に入れて次なる成長と新たな収益モデルの創出に向けて布石を打ってきた企業とでは、今後大きな格差が生じることになるだろう。

