Thinking TODAY

[ 2012.2.3 ]

グローバル・サプライチェーン
【AFTER3.11 日本の産業力・企業力】

戦略コンサルティング本部 参与 奥田章順

東日本大震災では各地でサプライチェーンが寸断され、自動車、半導体、化学製品など多くの産業で生産活動が滞り、その影響は日本国内だけではなく広く海外にも及んだ。このことは東北地方をはじめとする日本の製造業が、世界の生産活動において依然、重要な役割を果たしていることを示したが、一方でサプライチェーンに潜むリスクが明らかになった。そして生産活動のグローバル化が進展する現在、前記のことはグローバル・サプライチェーンにもあてはまることである。実際、2011年11月にタイのバンコクで発生した洪水では多くの日本企業が被害を受け、自動車、カメラ、ハードディスクなどの生産が止まるなど深刻な影響が発生している。日本企業は東日本大震災でサプライチェーンのリスクとその対応策について多くを学んだが、その成果をグローバルに展開するには、まだ時間がかかることとなろう。今後も産業や市場のグローバル化はいっそう進むことになり、その際、リスクに強いグローバル・サプライチェーンを構築することが、日本の産業力や企業力の強化に直接結びつくことになる。

東日本大震災からの教訓を生かすことの重要性

東日本大震災ではサプライチェーンのノード(工場や事業所)を結ぶ「経路」については、道路、港湾、空港、鉄道の輸送など、いずれもインフラの復旧は比較的早かった。しかし、ノードでの生産活動の復旧には時間がかかった。この理由として、災害発生時には大手企業もサプライチェーンの全体像を把握することができず、幾つかのボトルネックがあったことが指摘された。一方で国内企業は、業界横断的な復旧活動や他地域との連携を図ったり、海外調達による対応策を取ったりするなど多くのことをこの震災から学んだ。

わが国の産業力、企業力強化という視点からは、基本的に日本の産業界、企業だけが経験した東日本大震災の教訓を将来にわたり最大限生かすことが非常に重要となってくる。とくに今回の大地震のように広域かつ甚大、同時多発的な災害が発生した際の対策を、日本発(東北発)の標準として世界に発信することは、サプライチェーンの問題で揺らいだ日本企業の信頼の回復にとっても有効となる。

協調型のグローバル・サプライチェーンの構築

東日本大震災やバンコクの洪水では、早期に生産活動を復旧させる現実的な方策として、被災を受けなかった地域から調達が困難となった素材や部品などを調達することが有効な解決策の一つとなった。そして、この種のグローバル調達においては、サプライヤーに部品などを発注する際、品質・コスト・納期(QCD)だけではなく、製造方法やノウハウの開示まで求めるケースが見られる。この場合、災害などで特定の部品の生産が止まっても、その部品の製造方法・ノウハウを被災していない他の地域の企業に移管して対応することが可能となる。逆に被災した地域のサプライヤーは仕事を失うリスクがあるが、サプライヤーを使うインテグレーターとしては有効な対応策となる。

一方、グローバル・インテグレーターの強力なマネジメントは、国内産業に重要な課題を突きつけている。それは、グローバル・サプライヤーのニーズに応えるため、国内企業の海外調達や海外移転が増加すれば、産業の空洞化や雇用喪失が進むことが危惧される点である。1990年代半ばにアメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)が「テクノロジー・ハイウエー」と呼び指摘したように、日本では国内の異なる産業が有機的に結びつき、そのことで高い競争力を構築してきた。この特性を勘案すれば、わが国としてはインテグレーターが一方的にマネジメントしてリスクに対処するのではなく、企業間、地域間の協力を基礎とした協調型の仕組みを国内に展開することが重要となる。この仕組みでは、サプライチェーン全体で主導権を握り製品・サービス・情報の流れをコントロールするチャネルキャプテンがサプライチェーンのリスク管理を行う「サプライチェーン・ガバナンス」の考え方が重要となる。そして、国内の複数地域をネットワーク化することで国内の産業空洞化への対処も可能となる。また、こうした地域間の協調型の仕組みの構築方法は海外にも適用可能と考えられ、グローバル・サプライチェーン全体のリスク対策として有効となると考えられる。

サプライチェーンのリスクへの協調型の対処イメージ

その他の【AFTER3.11 日本の産業力・企業力】コラムを読む

Close