第12回 総括

金融イノベーション事業本部金融事業グループ  鈴木健二郎

 本コラムでは、企業価値を支える技術力(特許など)やブランド力(商標など)といった知財を活用した「ビジネスの勝ち方」について、事例を交えて解説してきた。事例は、他社を積極的に巻き込む「オープン戦略」と他社を排除する「クローズ戦略」の中から、勝ちパターンを形成するのに特徴的なものを取り上げた。その結果、ビジネス環境に応じてオープン戦略とクローズ戦略を使い分けたり、両戦略を併用したりしている事例が多く、単純には分類しがたいことが分かった。

 そこで、競争優位を確立する段階ごとに本コラムの事例を整理して、「競争優位を生み出すメカニズム」と「競争優位を持続させるメカニズム」について考察した。

【競争優位を生み出すメカニズム】

 競争優位を生み出すメカニズムは、「①自社優位な空間に他社を集める」、「②ルールメーカーとして他社を支配する」、「③他社を市場から徹底的に排除する」の3つに分類できる。

 「①自社優位な空間に他社を集める」は、知財を開放して意図的に参入障壁を下げ、広くコミュニティを形成する方法で、オープン戦略の考え方が生きるメカニズムだ。この手法は、市場を自ら作り出して、拡大を促すプロセスでしばしば活用される。EVのパイオニアであるテスラモーターズは、汎用電池を連結したバッテリーパック技術の特許を広く開放し、他社を積極的に呼び込んで自社優位なEV市場の確立を図った。背景には、あえて他社が自社技術を使用できるように仕向け、自社を超える技術開発をしないように促すねらいがある(第3回)。品質水準が安定した露光装置で革命を起こし、市場覇者となったASMLが、部品メーカーと技術ノウハウを共有し、他社の要求を広く把握できる仕組みを構築した例も、同様のメカニズムである(第2回)

 「②ルールメーカーとして他社を支配する」メカニズムでは、製品に必須となるコア技術を自社が押さえ、これに従わなければ市場に参入できないという絶対服従の世界を形成する。他社を招き入れている部分ではオープン戦略が生きているが、参加ルールの根幹を内部にしまい込んでいる部分はクローズ戦略そのものだ。この手法は、市場が広範囲に形成されている世界で活用されることが多い。標準化戦略により、他社が自社の技術を使用しなければ達成できない品質基準を確立した根本特殊化学は、敵から攻撃を受けない状況を作り出した(第4回)。デファクト化により他製品との互換性や接続性を生み出し、他社は自社製品に合わせた商品開発をせざるを得ない環境を作り出したマブチモーターも、この代表例である(第5回)

 「③他社を市場から徹底的に排除する」手法は、知財を武器にして敵のいない空間を作り出す手法で、クローズ戦略の最たるものであり、多くの場合ニッチな市場で選択される。特許により合法的に市場を独占し、敵が入る隙間を与えないワコムは、競合不在の世界を作り出すことで、自社の独り勝ちパターンを確立した例だ(第9回)

【競争優位を持続させるメカニズム】

 競争優位を獲得した後、これを持続するのは至難の業である。優位性を持続させるメカニズムには、「①優位性の好循環を生み出す」、「②非対称性により模倣を防止し続ける」、「③もうける仕組みを多様化する」の3つの方法がある。

 「①優位性の好循環を生み出す」とは、知財を製品市場に浸透させ、顧客に自社製品が選ばれ続ける仕掛けを作る方法で、これにはオープン戦略がものをいう。“生み出す”メカニズムの「①自社優位な空間に他社を集める」では、市場形成期に自社の呼びかけで参加者を増やすことに主眼があったが、ここでは市場形成後に競合が増えても、自社が勝ち続ける仕組みを仕込むところがポイントだ。テスラは、EVのエコシステムの知財をおさえ、自社製EVの規格に対応した充電インフラでも利益を上げ続けられる仕組みを作り上げた。同社が、ユーザーに車から充電器まで自社製品を広く利用させ、顧客に選ばれ続ける関係を形成している点も見逃せない(第3回)。P&Gは、自社の消臭芳香剤の特許・技術を使用した製品に、ブランド力のある商標「ファブリーズ」を付けるなど、顧客からの選択優位性を高め続ける工夫を怠らない(第8回)

 「②非対称性により模倣を防止し続ける」とは、知財により防御を固め、自社製品の特長が他社には侵されない仕組みを構築する手法で、クローズ戦略を生かす典型例といえる。コカ・コーラの極秘レシピの例に見るように、商品の根幹となる原料の仕様を一切外部に公表しない手法はイメージしやすい(第7回)。特定の知財にビジネスの基礎を置くニッチトップ企業にとって、このメカニズムが築けるかどうかは死活問題であり、先述のワコムの用意周到な特許出願と継続的な権利行使戦略は大いに参考になる(第9回)

 「③もうける仕組みを多様化する」とは、同業に限らず、異業界にも自社知財を広く浸透させて他社や顧客と共有し、収益の源泉とする手法で、マーケティングと知財のオープン戦略を巧みに組み合わせることが求められる。もっとも分かりやすい例は、ライセンスビジネスである。第6回では、日米の自動車メーカーが展開する非技術ライセンスの特徴を例示した。第1011回では、ブランドライセンスにフォーカスし、バーバリーや良品計画が採用するライセンシング戦略、フェラーリに見るラグジュアリーブランドのイメージ戦略について解説した。ライセンス収入で稼ぎ口を増やすとともに、ライセンス商品によって自社商品のファン層を拡大させるなど、このメカニズムが生み出す効果は計り知れない。

 知財は無形資産であり、有形資産と違ってそれ自体が普遍的な価値を持つものではなく、ビジネスで効果的に活用して勝ちパターンを形成し、それを持続させることで初めて価値を発揮する。当社は、知財を保有する企業の皆様のビジネスの成功を祈念するとともに、これからも「勝つ」ことにこだわった提言をしていく。

競争優位を生み出す
メカニズム
①自社優位な空間に他社を集める(例)テスラ、ASML
②ルールメーカーとして他社を支配する(例)根本特殊化学、マブチモーター
③他社を市場から徹底的に排除する(例)ワコム
競争優位を持続させる
メカニズム
①優位性の好循環を生み出す(例)テスラ、P&G
②非対称性により模倣を防止し続ける(例)コカ・コーラ、ワコム
③もうける仕組みを多様化する(例)バーバリー、良品計画、フェラーリ、その他自動車メーカー

この連載は、以下の研究員が執筆しました。
(代表)
金融イノベーション事業本部  鈴木健二郎
(担当:50音順)
金融イノベーション事業本部  井上淳一
科学・安全政策研究本部    河合毅治
金融イノベーション事業本部  坂井宏成
金融イノベーション事業本部  阪本幸俊
金融イノベーション事業本部  松浦泰宏
金融イノベーション事業本部  吉田まほろ


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