ICTとオープンデータで加速する地域コミュニティ改革

社会ICT事業本部   村上文洋

 少子化による人口減少、高齢化による人口構成の変化など、わが国の社会環境は大きく変化しており、従来の右肩上がりを前提とした社会制度では対応できなくなっている。また、税収が減少する中、福祉などの支出は増大し、地方財政はひっ迫している。財政削減の一環と市民して行政職員の数も減少傾向にあり、職員への負担は増大している。もはや地方行政は従来の仕組みのままでは継続が難しくなってきており、地域全体での改革が急務である。
 一方、ICTの活用により、地域コミュニティを再生・活性化したり、行政サービスを大きく変えたり、新たなビジネスを創出する取り組みが各地で始まっている。中でも、行政が保有するさまざまなデータを地域で共有・有効活用するオープンデータの取り組みが重要となる。以下、最近の動向を紹介し、われわれが今後取り組むべき事項について提案する。

■市民による地域の課題解決力向上

 これからは、地域の課題解決の全てを行政に任せるのではなく、市民ができることは市民で、地域で解決できることは地域で解決する必要がある。そのためには、市民ひとりひとりが地域の課題解決を「自分ごと」として捉えることが必要である。これにより、行政への依存を減らし、行政職員が本来業務に専念できる環境を作ることができる。市民が地域の課題を認識するためには、行政が積極的に情報を公開し、行政と市民の間での情報共有を進める必要がある。
 ICTを活用して市民自らが地域の課題を発見・投稿・共有する仕組みとしては、シカゴ、ニューヨーク、ボルチモア、サンフランシスコ、モントリオールなど、米国やカナダの多くの都市で導入されているコールセンターサービス「311※1」や、英国で開発された「FixMyStreet※2」などが挙げられる。
 国内でも、FixMyStreetと同様の仕組みに行政内部の処理フローを組み合わせた千葉市の「ちばレポ※3」や、市民や企業などが可能な範囲で時間・知恵・お金などを持ち寄り支え合う横浜市の「LOCAL GOOD YOKOHAMA※4」など、新たな取り組みが始まっている。また、金沢市のIT技術者コミュニティ「Code for Kanazawa※5」のごみ収集日お知らせアプリ「5374.jp※6」のように、市民が自ら課題解決アプリを開発する例も登場している。5374.jpはオープンソースで公開されており、2015年9月末現在、国内77の地域で活用されている※7

■データやエビデンスに基づく行政サービス改革

 行政自身も、市民視点で行政サービス改革を進め、コストを削減しつつ行政サービスの質の向上を図る必要がある。米国ボルチモア市の「シティスタット」など、市民からの相談・意見などを収集・分析して、行政施策の立案・評価や行政サービスの改善などに活用する取り組みが既に行われている。
 最近では、過去の犯罪データなどから犯罪が発生しそうな場所・時間を予測し、重点的にパトロールを行うことで犯罪発生を抑えるシステム「Predpol※8」が開発され、米国サンタクルーズ市警やロサンゼルス市警などが導入している。サンタクルーズ市では導入後2年間で犯罪発生件数が17%減少した。
 また、ニューヨーク州消防局は、地域の居住者の所得、建物の築年数、スプリンクラーの設置状況、空き家の状況など、さまざまなデータから火災の発生リスクを予測し、消防点検の優先順位を付けることで、火災発生を未然に防ぐ計画を発表した※9
 これまでの行政サービスは、事件や事故が起きた後に対応することが多かった。しかし、問題が発生・重大化した後に対応するより、事前に発生・重大化を予測し、先手を打ったほうが、被害やコストを軽減できるし、市民満足度の向上にもつながる。

■オープンデータによるビジネス創出

 行政保有データなどのオープンデータ化を推進し、データを誰でも容易に活用できる環境を作ることで、起業や新ビジネスの創出を促進し、地域の雇用創出につなげることが考えられる。オープンデータ活用ビジネスで有名な米国The Climate Corporation社のTotal Weather Insuranceは、膨大な土壌データや気象データなどを独自の技術で分析して新しいインターネット保険サービスを開発し、その後、モンサント社に11億ドルで買収された。
 福岡市の(株)ウェルモ※10は、厚生労働省や自治体が公開している介護サービス事業者リストに、独自の調査で得た情報を加えることで、ケアマネジャー向けの情報サービスを提供している。2015年1月現在、福岡市内のケアマネジャー事業所の約58%が同社のサービスを利用している※11
 約400万人が利用している家計簿アプ「Zaim※12」は、自治体の公開データをもとに、給付金や手当・控除などの情報を提供している。当初は政令指定都市のみが対象であったが、現在は約1,700の全自治体の情報を網羅している。
 これからの行政は、民間企業と同じように、新しい技術を積極的に活用して、新たな行政サービスの創出や生産性の向上を図る必要がある。そのためには、行政内部で閉じて検討するのではなく、広く情報を公開し、市民や企業の知恵も借りて社会全体で課題を解決する「オープンイノベーション」の発想が必要である。これは、市民参加の促進や市民意識の変革、企業における新たなサービスの創出や起業の促進にもつながる。
 また、「Code for Japan※13」による自治体へのIT技術者派遣プログラム「コーポレート・フェローシップ※14」などを活用して、外部の人材の参加を得ることも有効である。
 わが国のオープンデータは、まだ、国や一部の自治体で試行的な取り組みが始まった段階である。今後は、優良な活用事例を増やしていくとともに、公開範囲の拡大やデータ形式の標準化など、ビジネス利用の観点での環境整備にも取り組んでいく必要がある。


図1 ICTとオープンデータによる地域コミュニティ改革

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出所:三菱総合研究所作成

※1:「311」でつながるコールセンターサービス。都市によっては、ウェブサイトやメール、ソーシャルメディアなど、電話以外でも受け付けている。

※2:英国のmySocietyが開発したアプリケーションソフト。日本でもダッピスタジオがFixMyStreetを参考にFixMyStreet.jpを開発・運用。

※3:FixMyStreet などを参考に、千葉市が開発・導入したサービス。街の課題などを、スマートフォンなどから、位置情報や写真、コメント付きで簡単に投稿できる。

※4:地域の課題解決プロジェクトへのクラウドファウンディングを核としたサービス。北九州市、福岡市でも同様の取り組みが始まっている。

※5:金沢市を中心に地域課題をITとデザインで解決することを目指すコミュニティ。

※6:Code for Kanazawa が開発したアプリケーションソフト。自分が住む地域のゴミの種類別の収集日がひと目でわかる。

※7:「5374.jp」のサイトより。

※8:サンタクララ大学やUCLAの教授などがサンタクルーズ市などと共同で開発したシステム。米国内他都市や、英国、ウルグアイなどでも導入が進んでいる。

※9:出所:WSJの記事より。

※10:2013年創業。介護、障害、医療、生活保護援助などの社会資源情報を集約・管理し、ケアマネジャーなどに提供。

※11:出所:THE INDEPENDENTS CLUB の記事より。

※12:レシートやカード利用情報などを簡単に取り込むことができる家計簿アプリケーションソフト。2015年8月から全国自治体の給付金などの情報を提供開始。

※13:米国のCode for Americaを参考に日本で立ち上げられた団体。現在は一般社団法人。是自治体に企業のIT人材を派遣するコーポレート・フェローシップ事業と、全国のCode for X(Xは地名)を支援するブリゲード事業を活動の柱としている。

※14:企業のIT人材を自治体に派遣する事業。費用は企業が負担。3カ月の短期プログラムも開始。これまでに、鯖江市、神戸市で受入実績があり、横浜市、会津若松市、調布市、南砺市なども受入準備中。


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