東日本大震災を踏まえた被害想定のあり方

科学・安全政策研究本部 主任研究員 堤一憲

■想定を超えた未曾有の大震災

国・地方自治体の防災対策として、通常、事前の被害想定に基づいた計画を策定することが多い。しかし、今回の東日本大震災では、被害想定やそれに基づいた計画の想定を超えた未曽有の地震・津波災害を被った。今、国・地方自治体における被害想定のあり方やその運用と活用のあり方そのものが問われている。

■被害想定の考え方とその運用・活用の方向性

地震被害の想定では、発生する地震の規模と発生場所を前提条件に特定するが、防災対策の立案では、前提条件から外れた場合の被害想定を考慮しておらず、また外れた場合の対応は、必ずしも明確になっていない。従来の被害想定では「現実的に考えられうる最大ケース」を前提条件としていたが、それはあくまでも過去の経験と履歴に基づいた「常識」の範囲内であったと言える。

今回の東北地方太平洋沖地震は869年貞観地震と1896年明治三陸地震が同時に発生したような大地震とされており、このような歴史的な大地震が発生する可能性も前提条件に組み込むべきことを提起した大震災であった。
この教訓を踏まえた被害想定の考え方として、想定しうる過去最悪のケースを含めた複数のパターンを前提条件として想定し、そのパターン毎の被害想定と対応方針を明確化しておくことが求められる。また、今回のような観測史上最大の大災害に対しては、防潮堤の整備等のハード対策のみで対応することは難しい。通常、ハード対策は災害の発生規模とその確率を踏まえた費用対効果を考慮して設定するものであり、講じたハード対策の設定を超える規模の災害に対しては、迅速な津波避難の徹底等のソフト対策の強化で対応するのが現実的と考えられる。よって、国・地方自治体は、被害想定の評価と合わせて、想定を超えるケースもあり得ることを踏まえた防災計画を策定し、柔軟に運用していくことが求められる。

■対策効果を定量化できる被害想定とそれを踏まえた対策の推進

一方、被害想定を防災対策の検討のための下地とするならば、講じた対策に応じて被害がどの程度防止または軽減されるかを量ることも必要と考えられるが、現状では必ずしもそのような仕組みになっていない。これは、被害想定の考え方の始まりが被害の全体像を把握することを目的としており、減災効果の算出を意図していなかったためである。

対策効果の定量化においては、対策量(対策内容)と被害量(被害様相)による相関関係を用いて、対策量に応じて被害量を計測するような仕組みが重要である。それには、まず被害がどのような仕組みで起こるのかを詳細にブレークダウンし(例:イベントツリー分析など)、その被害を顕在化させないためにはどのような対策が必要かを分析することが重要である。例えば、地震発生時の火災の出火想定では、建物全壊率と出火率との関連性から出火件数が求められるが、これは建物に耐震化を施して全壊をゼロにすれば出火件数がなくなるということを表したものではない。地震発生時の揺れの大きさに代わる指標として建物全壊率を用いて出火率を算出しており、揺れの大きいところは結果として出火しやすいという傾向を表現しているにすぎない。そこで、揺れの大きさだけではなく、家具類の転倒、可燃物の散乱の有無などといった出火の発生要因を組み込み、出火機構(揺れの発生から出火に至るまでの流れ)を分析して出火の抑制に寄与する対策を求める必要がある。

当社で受託した、東京消防庁「東京都における地域別出火危険度測定調査(第8回)」(平成22年度)では、これら対策の効果についても検討を行っている。ここで採用した手法は、火気の使用環境や中高層階での危険性など地震が起こった際の出火危険性の大小と、出火低減対策を進めた場合の対策効果を組み込んでおり、今後の対策の方向性を示唆するものである。

例えば、転倒時自動消火装置が付いた電気ストーブは通常、大きな揺れで転倒した場合は出火しないが、東日本大震災では一度スイッチの切れた電気ストーブが、転倒してきた家具類に押され、再度スイッチが入ったために出火した事例が見られた。このような出火機構と家具類の転倒防止対策等を進めた場合の出火低減効果についても、上記で示した出火危険度測定手法に組み込んでいる。これはかなり詳細なものであり、被害想定へそのまま適用するのは難しい側面もあるが、手法のマクロ化も視野に入れて検討していくことで、より具体的な対策の推進につながるものと考えられる。

zu01.jpg

資料 東京消防庁 「東京の地震時における地域別出火危険度(総合出火危険度)」