学校と地域の新しい関係づくりに向けて

人間・生活研究本部 主任研究員 横山宗明

学校と地域の協働による効果を体系化・測定する

昨今、地域全体で学校や子どもを支え育てることの必要性や、学校を地域の拠点ととらえ、生涯学習や地域活動の活性化につなげることの有効性が指摘され、学校と地域の“協働”が各地で行われている。例えば、文部科学省が実施している「学校支援地域本部事業」では、学校と地域をつなぐコーディネーターを配置し、その調整のもとに、学校支援ボランティアが、授業や部活動の支援、環境整備、安全パトロール、学校行事の支援などを行っており、全国で約1,000の自治体、約8,500校の小中学校がこの事業に参加している(2010年10月現在)。このほか、国の事業・制度を活用しない独自の取り組みが数多く行われ、それらを含めると、おそらくほぼ全ての学校で、なにかの形で地域との協働が行われていると考えられる。しかし一方で、これらの取り組みがどのような効果を生みだしているかといった定量的な分析は十分に行われていない。こうした背景のもと、当社は文部科学省から委託を受け、「生涯学習施策に関する調査研究」の一環として「「学校支援地域本部事業」等の事業効果の把握に向けた調査研究」を実施した。本調査では、科学的な知見に基づく施策立案や取り組み改善に役立てることを目的に、文部科学省が実施する学校と地域の協働に関する事業や制度がもたらしうる効果の体系化と、それらの効果の定量的な分析を行った。

多様な関係者にもたらすさまざまな効果の体系化

まず、文部科学省が実施する「学校支援地域本部事業」 「学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)」 「放課後子ども教室推進事業 」 を対象に、事例整理や有識者インタビューを通じ、これらの事業・制度がもたらしうる効果をロジックモデルとして体系化した(添付図表)。ここでは、従来から期待されていた「子ども」や「学校・教員」に係る効果に加え、学校と地域の協働により、「家庭・保護者」「地域」「行政」といった多様な主体に効果が生じうることを示した。また、「子どもに係る効果」についても、一般的に想起される学力や社会性の向上といった効果に加え、「自己肯定感の向上」「地域に対する理解・愛着の向上」「生活習慣の改善」といったさまざまな効果が判明した。

プラスの効果とマイナスの効果

次に、体系化した効果に基づき100以上の指標を案出し、これを用いて効果測定を行った。具体的には、12市区町村の協力を得て、教育委員会、学校管理職、教員、地域住民に対するアンケート調査を行い、これと統計データを組み合わせ、それぞれの指標について、取り組みを行っている場合と行ってない場合の取り組み前後の変化の差分を計測した。また、差分の有無を示すだけでなく、その差分が統計的に有意かどうかまで検証することとした。さらに、取り組み開始時点の学校の水準により、効果の程度は異なると考えられることから(例:もともと学力の高い学校とそうでない学校とで、取り組みの効果の程度は異なる)、取り組み開始時点の水準を初期値とし、これを考慮して分析を行った。主な結果は以下のとおりである。

1.学校支援地域本部事業は、「下支え効果」をもたらす傾向がある
 学力、コミュニケーション力、児童生徒と地域とのネットワークの向上・充実をはじめ、多くの指標で、取り組み開始時点では水準の低かった学校において効果がみられた。

2.コミュニティ・スクールは、「上位層をさらに伸ばす効果」をもたらす傾向がある
 保護者、地域、行政に係る効果を中心に、取り組み開始時点ですでに一定の水準以上にある学校において効果が見られた。

3.いずれの場合も、「地域の参加による教育課程の充実」「体験学習等の受入先の確保」の効果をもたらす傾向がある
 地域の協力を得て、地域の人材を学校の資源として効果的に活用できていたり、信頼関係やネットワーク構築を通じて児童生徒の受け入れがスムーズに行われている可能性が推測される

4.いずれの場合も、「子どもに向き合う時間の増加」でマイナス効果をもたらす傾向がある
 地域関係者との調整に要する負担が教員にかかり、その結果、子どもに向き合う時間にマイナスの影響を与えている可能性が推測される

よりよい関係づくりに向けて

人が最大の資源と言える我が国においては、あらゆる力を結集して次世代を担う子どもたちの育成を図る必要があり、そのためには本プロジェクトで着目したように、地域の人的資源をいかに活用していくかが、重要なテーマとなる。全国に張り巡らされた学区や3万校以上の小中学校は、「無縁社会」の解消や新たな地域の担い手として期待される「新しい公共」の推進の舞台として、より一層注目されるべきだろう。本プロジェクトでは、データや調査手法の制約から、限られた範囲でのマクロな傾向把握にとどまったが、今後は、ここで得られた成果を出発点に、各地の取り組みをつぶさに観察・分析し、各地の実情に応じた多様な学校と地域の協働モデルの創出が行われていくことを期待したい。

学校と地域の協働がもららす効果の体系[88KB]