地方自治体による企業の海外進出支援

海外事業研究センター 研究員 齋藤美穂子

1.加速する日本企業の海外進出

少子高齢化による国内市場の縮小を受け、海外に活路を見出そうとする日本企業が増加している。特に、急速な経済成長を遂げ内需が拡大している中国やインドをはじめとする新興国に関心を持つ日本企業は多く、今では大企業に限らず中小企業も海外展開を視野に入れている。しかし、言葉や商習慣が異なる上、先進国と比較し十分な情報が整っていない新興国への進出は容易ではなく、人材不足や現地ネットワークの未整備といった理由から、必要性を感じながらも海外進出に踏み出せない企業は少なくない。このような日本企業の海外進出に当たり、従来行われてきたJETROや商工会議所等による支援策に加え、自治体による域内企業のサポートが注目されている。

2.企業が直面する課題

新興国へ進出する日本企業が直面する課題は業種によって様々であるが、共通する課題としては以下の点が挙げられる。
まず、現地における情報の確保がある。法律や税務といった商習慣を正確に把握するためには情報収集や現地語からの翻訳等多大な労力とコストがかかるが、多くの企業は人材不足等により個別に情報収集を行うことが困難である。また、インドのように州によって制度が異なる国では、中央政府、州政府両方の規則を把握する必要があり、負担が大きくなる。さらに、有力な現地パートナーの確保も課題である。現地における市場動向や法制度に関する情報収集、進出に向けた諸手続き等を行うためには信頼できるパートナーを確保することが重要であるが、現地企業とのネットワークが十分に構築できていないため、適切なパートナー候補を選定することが困難となっている。

このような課題に対応するため、一部の自治体では域内企業の海外進出支援体制の整備が進められている。例えば、神奈川県では駐在員事務所を設置し、県内企業に対して情報提供を行っているほか、展示会への参加をサポートするなど商談に向けた支援を行っている。また、2010年11月には、広島県とインド南部のタミル・ナドゥ州政府が人的および経済交流の進展及び相互の産業の更なる活性化に向けた取り組み推進のための覚書(MOU)を締結するなど、域内企業の更なる進出加速のために、相手国地方政府と包括的な経済協力を結ぶ自治体も現れている。

3.国との連携による域内企業の海外進出支援~南インドの事例

しかし、全ての自治体が海外に拠点を設置したり、現地政府との経済協力に関する合意を取り付けたりしているわけではない。そのような場合、国の事業との連携による域内企業の海外進出支援が考えられる。例えば、経済産業省は平成21年度より南インド(チェンナイ、バンガロール)やベトナム(ハノイ、ホーチミン)等、アジア地域のインフラ開発や日本企業進出の中核となり得る地域を設定し、それらの地域への日系企業進出を支援するための事業を実施している。同事業は、日本企業の進出に当たってのインフラ開発ニーズを明らかにするとともに、ビジネスミッションを派遣し、現地企業とのマッチングや有望進出サイトの視察等を行い、現地に進出を検討している日本企業を後押しすることを目的としている。
平成22年度事業のビジネスミッションには、神奈川県、横浜市、北九州市が参加し、インドの州政府との協議や現地企業とのビジネスマッチング、有望サイトの視察等に参加することで域内企業の進出促進に向けた情報収集を行った。さらに、インド企業に対し日本の先進的なまちづくりに関する技術を紹介し、将来のインドにおける事業展開も視野に入れた議論が行われた。南インドでは、経済産業省とタミル・ナドゥ州政府との間でインフラ開発に向けた経済協力の推進に関する覚書(MOU)が締結されており、日印政府による経済連携のための基盤が整備されつつある。自治体にとってもこのような政府による枠組みを活用し、海外展開に向けた情報収集、ビジネスマッチングの機会を活用することは有益といえよう。

これらの機会の活用することは、日系企業の進出推進に向けた取り組みとなるだけではなく、自治体自身が事業者として海外事業に参入する際の足がかりともなる。近年、上下水道、廃棄物処理等のインフラ需要が新興国において拡大しており、これらの市場を獲得するため、自治体が国内で培った事業運営ノウハウを輸出するケースが見られるようになった。人口減によって事業規模の縮小が見込まれる自治体にとって新興国でのインフラビジネスは収益拡大に繋がるチャンスであり、これらの国において現地政府や現地企業とネットワークを構築することは、自治体自身の事業展開にとっても有益である。
国が実施している事業と連携することで、より効率的に現地でのネットワークを構築し、域内企業の海外進出のみならず自治体自身の新興国における事業機会の拡大に繋がることが期待される。

写真:南インドのチェンナイにおけるビジネスマッチングの様子
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  資料:平成22年度地球環境適応型・本邦技術活用型産業物流インフラ整備等事業
    (中核拠点開発のための調査事業)地域別報告書(南インド)