ロボットによる産業革命の実現に向けて
-ユーザー主導・システムインテグレーター主導のイノベーションを-

経営コンサルティング本部 事業戦略グループ  瀬川友史

1. 日本はロボットによる産業革命を目指す

2014年5月6日、OECD会議における安部首相の発言に世界が注目した。アベノミクスの第三の矢「成長戦略」の柱の一つとして、「ロボットによる産業革命」を打ち出したのである。
これを受けて2014年6月24日に公表された「日本再興戦略」改訂版では、ロボット技術をイノベーションの象徴の一つと捉え、製造業、医療、介護、農業、交通などのさまざまな産業に変革を起こすことがうたわれた。さらに、2020年までにロボット市場を製造分野で現在の2倍、サービスなど非製造分野で20倍に拡大するという定量目標まで掲げられた※1
これらの発表以降、筆者とロボット業界関係者や製造業関係者との会話の中で、この話題が多くあがった。「いよいよか」というものから「まだか」、「またか」まで、反応はさまざまであった。これまで何度もロボット新産業創出が打ち出されながらも花開いてこなかったことから、関係者の中には今回の目標の実効性を疑問視する向きもある。しかし筆者をはじめ関係者の多くは、過去の教訓も踏まえ、今度こそ成功の道筋が開かれることを望んでいる。
政府は今夏までに「ロボット革命実現会議」を設立、技術開発や規制緩和、標準化などを論じ、アクションプランとして「5カ年計画」を策定する予定である。これまで大きな期待を受けながらも花開いてこなかったサービスロボット、ともすると成熟産業とみられがちな産業用ロボット、この双方が大きなイノベーションを起こしうるか、まさに今後の5年間が勝負と言える。

2. あらためて、ロボット技術とは何か

ロボットと聞いて、読者の皆様は何を思い浮かべるであろうか。ASIMOのような人型ロボットから、工場内で使われる産業用ロボットアーム、無人で移動し掃除するお掃除ロボットまで、さまざまであろう。
それもそのはずで、ロボットには明確な定義がない。世界で最も使われているのは腕の形をした産業用ロボットアームであり、これについては国際標準化機構(ISO)や日本工業規格(JIS)の定義がある。しかしこれから実用化が見込まれる多くのサービスロボットは、これらには当てはまらない。
ロボット技術を広く捉えた場合の考え方としてよく引用されるのは、2006年に経済産業省より出された「ロボット政策研究会 報告書」である。これによると、「センサー、駆動系、知能・制御系の三つの技術要素(ロボットテクノロジー、RT)を有する機械システム」を広くロボットと呼んでいる※2
あまりに広い概念と思われる方も多いかもしれないが、これはロボット技術の汎用性に起因するものである。ロボット技術は、ロボット掃除機、パワーアシストスーツ、自動排泄処理装置など特定の用途向けに活用されて初めて、明確に定義できるようになるのである。

図1 ロボット政策研究会におけるロボット技術の定義図1 ロボット政策研究会におけるロボット技術の定義※3

これまで人が苦労して担っていた作業を代替したり、脳の情報処理や身体の機能を補完・拡張したり、人には不可能な作業を実現したりできる先進的な自動化技術が出そろってきたが、重要なことはそれらをいかに組み合わせて利用するかにある。ユーザーやシステムインテグレーター(以下SIer、情報システムのインテグレーターと同様に、ロボット技術を組み合わせて自動化システムを組み上げる業者・機能のこと)がイノベーションの鍵を握っているのである。
では、具体的にはどのような分野でイノベーションが起きうるのか。以下で産業用、サービス、災害対応の三つの分野を議論する。

3. 分野別のイノベーションの可能性
3.1 産業用:広がる用途、高まるSIerの重要性

産業用ロボット市場は、ロボット市場のうち最も確立された市場であり、経済産業省によると2011年の世界市場はおよそ85億米ドルであった※4。これはロボット本体のみの市場規模であり、システム全体としては300億米ドル規模と推測される。さらに、世界市場85億米ドルのうちの50.2%%(およそ43億米ドル)が日本企業による出荷総額である。産業用ロボット市場では、日本企業は高い競争力を発揮していると言える。
産業用ロボットは自動車産業における溶接や塗装向けを筆頭に1970年代から利用されてきたものであり、成熟産業とみられることもある。しかし、以下の三つの観点から、従来とは異なる用途の広がりが期待されている。
 ・ロボットの知能化、多能工化
 ・人との共存
 ・3品産業(医薬品、化粧品、食品)での活用
知能化と多能工化は、マシンビジョンや力センサーといったセンシング手段が成熟してきたことが一因となっている。これまでロボットには難しかった組立作業への活用が進んだり、1台のロボットが複数の工程を担う多能工化が進められたりしている。
また、人との共存では重量物をロボットが持ち、人がその動きに手を添えて指図する、人とロボットが部品の受け渡しを行うといった用途が考えられ、既に展示会等でもいくつかの実例が見られる。2013年12月24日に労働安全衛生規則が国際規格と整合をとる形に改訂されたこともあり、適切なリスクアセスメントと安全対策のもとでは、安全柵等を設けずとも人との協業作業が可能となった。こうした動きもあり、今後も拡大が続く見込みである。
また、3品産業での活用は、これら業界でも多品種変量生産が進んだため、これまで専用機械が担ってきた工程を、より汎用的で使い回しの効くロボットに担わせる動きや、人が立ち入らないことが品質管理上プラスに働く工程の無人化といった動きなどがある。
これら新用途の開拓の鍵を握るのは、ロボットを周辺装置と組み合わせて自動化システムとして組み上げるSIerである。
産業用ロボットメーカーのビジネスは基本的にモノ売りであり、自社のロボットが最終的にどのように使われているのか、その全体像を必ずしも把握できていない。また、ロボットメーカーとしては、多くのロボットを必要とする自動車産業など、大口ユーザー向けの製品開発に注力するのが合理的である。
一方、ユーザー側も、これまでにない高度な利用(知能化、多能工化、人共存)や、これまでロボットになじみのないユーザー(3品産業)の利用においては、ロボットをどのように使えばよいか知識がない。
これらのギャップを埋め、間をつなぐのがSIerである。有識者によると、SIerは国内に1,000社程度存在し、それらの多くは中小企業といわれているが、全体像は把握されていない。業界団体も存在せず、ネットワーク化もされていない。イノベーションの担い手として、一層の注目と支援が必要ではないだろうか。
なお今後、各種の技術的進展がSIerの役割をさらに重要なものにすると考えられる。ロボットを専用の制御装置ではなく汎用パソコンで制御できるようにするためのミドルウエア技術※5や、ロボットのティーチングやプログラミングを簡易化・不要化するような技術※6、さらにはロボット等の生産システムに蓄積されたデータを活用した自己診断・補正・最適化技術などである。
こうしたIT高度活用のトレンドは、Industrial Internet※7を進める米国や、industry4.0※8を進める欧州において顕著である。日本の視点はどうしてもハードウエアに偏りがちであるが、こうしたITとFA(Factory Automation)の融合が今後の産業競争力を左右しうることを一層認識すべきであろう。

図2 システムインテグレーターとは図2 システムインテグレーターとは※9


3.2 サービス:ロボット介護機器が試金石

サービスロボットは、少子高齢化社会の解決策の一つになりうることから、これらの市場への期待は大きい。経済産業省およびNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の予測では、ロボット産業は2035年には9.8兆円に成長し、うち5兆円をサービスロボットが占めるという※10。しかし実際には、経済産業省の調べでは2011年のサービスロボット市場は600億円にとどまっている※11。しかも、この中には物流業界向けのパレタイザーや無人搬送車も含まれており、いわゆるサービスロボットとして一般に想像される分野に限ると、さらに規模は小さい。
サービスロボットがこれまで市場に受け入れられてこなかった原因はいくつかあるが、大きなものとして費用対効果とリスク対効果がある。
費用対効果についていえば、ロボットの価格が高すぎること、ロボットが効果を出せるようなソリューション提案が不足していたことが挙げられる。例えば過去には、介護現場に数百万円、ともすると1,000万円超のロボットが提案されてきた。また、ロボット本体を売る発想が強く、効果が上がる使い方を提案する視点が弱かった。しかしながら現在は、例えば経済産業省が厚生労働省と進めるロボット介護機器事業の「10万円ロボット」(必ずこの額にということではなく、このような価格帯を目指す必要があることを示すもの)や、パナソニックの院内搬送ロボット(すべての搬送をロボット化するのではなく、臨時搬送をロボットが担って人と分業)のようなソリューション提案も登場してきている。安価なロボットを提供するためには、ユーザーの業務を理解した「機能の削ぎ落とされた」ロボットを提案することが重要であり、またロボットソリューションを提供するためには、ユーザーの業務を理解したうえでロボットの使い道を提案することが重要である。
また、リスク対効果についていえば、日本主導で策定されたサービスロボットの国際規格ISO13482が正式発行されたばかりである。これまでロボットの安全性・リスクを評価する手法が確立されていなかったところに、一定のアプローチが見いだされた。ただしこれは、完全に安全なロボットを作ることが目的ではない。ロボットに限らず多くの工業製品は、ベネフィットとの比較でリスクが許容されている。つまりここでも、ユーザーにおけるロボットの利用目的や利用環境を理解し、リスクベネフィットが出るようにする視点が求められるのである。
このように、サービスロボットの市場化のポイントはユーザーの理解であり、ユーザーがイノベーションの鍵を握っているとも言える。現在、経済産業省はユーザー側を所管する厚生労働省と組んで、重点分野を定めたロボット介護機器の開発・実証を進めている。メーカーの論理ではなくユーザーの論理で開発と実証を進め、成功事例をいち早く創出することが重要であろう。

図3 ロボット介護機器の重点分野図3 ロボット介護機器の重点分野※12

なお、高齢化社会にあっては、身体機能や認知機能の維持あるいは回復を支援することも極めて重要なことと考えられるが、現在の重点分野にはリハビリ支援や認知症対策支援は含まれていない。これらは国内外からのニーズが多くある分野であり、今後の取り組みに期待したい。
介護分野のロボットと同様な、省庁横断によるロボット開発の事例として、経済産業省と国土交通省の連携のもとで取り組まれているインフラ検査ロボットがある。こちらも同じようにユーザーニーズに基づく重点分野が定められており※13、今後の進展が期待される。検査ロボットは、これまでも人にはできない価値の提供(狭隘部の検査、人ではスポット検査になるところの面検査、検査回数の増大とそれらデータの保全計画への活用など)により、ロボットビジネスがニッチながらも成立していた分野である。すべてをロボット化するのではなく、人とロボットがそれぞれ得意な検査を組み合わせた、半自動化による費用対効果の作り込みが鍵となるであろう。

3.3 災害対応:福島から世界へ

福島第一原子力発電所をはじめとする東日本大震災の災害現場に対し、日本のロボット技術の投入が遅れたことが話題となった。実際には日本にも多くのロボット技術があり、現在も福島第一原子力発電所の廃止措置のため、各種のロボット等の遠隔機器の開発や運用が進められている。また、原子力緊急事態支援機関が今後整備され、緊急事態に備えたロボットの配備が進められる予定である。
これらを通じ、わが国では発電所などの災害現場で活用できるロボットと、そのロボットの運用ノウハウやオペレーターの訓練ノウハウなどが蓄積されるはずである。震災時に日本のロボットの投入が遅れた要因の一つは、運用の仕組みが確立されていないことであった。これを教訓とし、今後の国内ひいては海外におけるロボット活用の先駆けとなることが期待される。

4. まとめ

冒頭に紹介したとおり、安倍首相のOECD会議における発言に端を発し、わが国は成長戦略の一つとして、ロボットによる産業革命を進めることが明示された。これまで大きな期待を受けながらも実用化がなかなか進んでこなかったサービスロボット、実際にはイノベーションの余地があるにも関わらず成熟産業とみられがちであった産業用ロボットの双方が、この5年間でどのようなイノベーションと産業創造を成し遂げられるか、勝負の時と言える。
ロボット技術の活用先は製造業、サービス、災害対応とさまざまであるが、どの分野にも共通することは、シーズ発想、モノ売り発想に陥らず、ユーザーの状況を理解し、費用対効果とリスク対効果の作り込みをオペレーション発想、ソリューション発想で進めることである。
このためには行政・業界として、ロボットの活用に意欲あるアーリーアダプターたるユーザーの声を聞き、支援すること、ユーザーとメーカーの間をつなぐ重要な役割を果たすSIerの支援と育成を進めることが重要であろう。
この際、ユーザーに求められるのは、自身の現状そのままにロボット技術を導入するのではなく、まずは自身の効率化余地や提供価値向上余地を洗い出し、ロボット等の技術導入とともに自身のビジネスやオペレーションを変革する姿勢であろう。また、メーカーに求められるのはシーズ指向に陥らないことはもちろん、逆にユーザーの現状にとらわれすぎず、ユーザーの変革を、ともに追求する姿勢であろう。
筆者は日頃の業務を通じて、ロボットによる生産性向上や顧客へのサービス品質向上に燃えるユーザー(それも国内だけでなく、東南アジアまで)や、先進的なアプリケーションを模索するSIerの、ロボット活用意識の高まりを感じている。今度こそロボット産業を花開かせるべく、ユーザーとSIer主導のイノベーションをシーズとニーズの双方のつなぎ役たる立場から応援していく所存である。

※1:「日本再興戦略」改訂2014 (平成26年6月24日、日本経済再生本部)

※2:ロボット産業政策研究会 報告書(2009年3月25日、ロボット産業政策研究会)

※3:ロボット産業政策研究会 報告書(2009年3月25日、ロボット産業政策研究会)を参考にMRI作成

※4:ロボット産業の市場動向(平成25年7月、経済産業省)

※5:例えばデンソーウェーブ等が進めるORiNなど。

※6:東大発ベンチャーの株式会社MUJINなど。

※7:GEなどが提唱する、モノのインターネット(Internet of Things, IOT)を活用したインテリジェントな機器、インテリジェントなオペレーションの構想。

※8:ドイツ政府などが進める、Cyber Physical Systemを活用したものづくりのスマート化による新たな産業革命の構想。

※9:ロボット技術導入事例集(平成22年度、経済産業省)を参考にMRI作成

※10:ロボットの将来市場予測を公表(2010年4月23日、NEDOニュースリリース)

※11:ロボット産業の市場動向(平成25年7月、経済産業省)

※12:ロボット技術の介護利用における重点分野(平成26年2月改訂、経済産業省・厚生労働省)を参考にMRI作成

※13:「次世代社会インフラ用ロボット開発・導入重点分野」を策定致しました(平成25年12月25日、国土交通省報道発表資料)


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