人工知能(AI)を活用したサービスの動向と将来展望
─ビッグデータとディープラーニングによる人工知能ブーム ─

経営コンサルティング本部 経営戦略グループ  松本尭

1.ビッグデータとディープラーニングによる人工知能ブームの再来

第3次人工知能(AI)ブームが到来している。人工知能を活用したサービスが続々と登場し、人工知能に取り組むベンチャーも急増。多くの企業が人工知能に飛びつこうとしている。政府もまた、多額の予算を投じ、その成長を後押ししようとしている。
人工知能がここにきて急速に進展している背景には3つのブレークスルーがある。
まず、人工知能が判断を学ぶにあたってお手本となる膨大なデータ(ビッグデータ)の収集が可能になったこと。これはセンサーや通信モジュールの小型化・低コスト化に伴うIoTの進展がもたらした。
次に、画期的な人工知能アルゴリズム「ディープラーニング」の登場により技術開発が加速したこと。この技術の登場が人工知能業界の空気を変えた。GoogleやFacebookなど世界の大手IT企業が相次いで人工知能に莫大な投資を行い、大きな注目を集めた。
そして、クラウド含め計算環境が進化し、ビッグデータに対してディープラーニングなどの人工知能アルゴリズムを適用できる環境が整ったこと。Googleがディープラーニングにより2012年に画像から猫を識別させることに成功した際には、1万6,000個のCPUコアを利用して1週間以上かかったとされる。先日、世界トップ級のプロ棋士を打ち破ったGoogle DeepMindの「AlphaGo」も1,000台以上のプロセッサを束ねたクラウドサーバの上で動作しているという(利用したサーバのコストだけでも30億や60億という試算もなされている)。こういった莫大な計算ができるようになったことや、あまり処理能力を持たない機器でも計算はネットワークにつないでクラウドで行う、という形態がとれるようになったことは大きなブレークスルーといえる。
簡単に言うと、ビッグデータ×人工知能技術の発展(ディープラーニングなど)×計算環境の進化(クラウドなど)が人工知能の急速なブレークスルーを生み出している。ここでは、この3要因を押さえつつ、人工知能の現状と活用について考えていきたい。

図1 人工知能ブームの3つの要因

図1人工知能ブームの3つの要因

出所)三菱総合研究所作成

2.さまざまな産業に広がる人工知能を活用したサービス

2.1人工知能サービスの現状分析

人工知能を活用したサービスはあらゆる業種・分野に普及しつつある。スマホでの音声認識やECサイトでのレコメンド機能は以前から普及していたが、マーケティングの自動化、Webメディアにおける記事の自動生成、人工知能によりパーソナライズされた教育サービスなど、構想段階のものまで含めると数えきれないほど多くのサービスが登場している。ここでは、各サービスの人工知能の提供レベルに応じてマッピングし、現状について考えてみた。
人工知能のレベルは、農業における栽培ノウハウのAI化や医療における画像診断支援のような熟練労働者・専門家に匹敵するレベル、Webメディアにおける記事の自動生成のような専門家には及ばないが一定の技能レベルを提供できるレベル、そして、対話エージェントのような普通の人間のレベルにもう一歩到達していないレベルの3つに分類した。

図2 人工知能サービスマップ

図2人工知能サービスマップ

出所)三菱総合研究所作成

全体を見渡すと、BtoB領域を中心に人工知能を活用したサービスが多数登場しており、多くのサービスが一定の技能レベルに達しつつある。また、普通の人と同等のレベルもしくは人のレベル以下という場合においても、人と違い「精度がブレず」、さらに疲れずに「自動で無限に提供できる」といった価値が見いだされる領域ではすでに活用が進んでいる。例えば、最近発表が相次ぐ対話エージェント型のサービスは、対話能力そのものはまだ人間には及ばないものの「自動で無限に提供できる」点が大きい。
領域ごとにみると、BtoB、BtoC領域で専門家のレベルに達しているサービスの多くは、IoTとビッグデータの拡大により良質なデータを得られるようになったことがきっかけとなり、普及が拡大している。例えば、Web上でデータが取得しやすい広告領域や必要なデータを比較的集めやすい金融・農業・医療などの領域である。
一方、監視カメラによる不審者検知や機械の故障予測、Webメディアでの記事の自動生成などは、専門家レベルには達していない。これらのサービスで専門家レベルに達するには背景知識に基づく予測や文脈の理解が必要とされ、現状の人工知能技術ではカバーしきれていない。
さらに、災害予測や自動運転など考慮すべき背景情報がより複雑な領域、対話エージェントのようなより深い言語理解が必要とされる領域は普通の人のレベルに達していない。
ディープラーニングは壁にあたっていた画像認識や音声認識を一歩高い領域に押し上げており、性能が近年格段に向上している。しかしながら、言語の意味的理解や文脈の理解、環境の理解、人工知能による動作の制御などはまだまだ難しい領域だ。

2.2 人工知能サービスの将来展望

IoTとビッグデータの拡大により普及が拡大したECやWebメディア、農業、医療などの領域では、さらなるデータの蓄積に伴い、サービスの活用が進むだろう。格段の性能向上を実現した画像認識や音声認識などの技術を活用できる領域も同様だ。
一方、現状で一定の技能レベルや普通の人以下のレベルにとどまっている領域はどうだろうか。
ディープラーニングの最先端をのぞくと、そこにも明るい兆しが見えている。GoogleやFacebookなど大手IT企業がソフトウェアのソースコードを公開していることもあり、ディープラーニングは毎年、恐るべきスピードで改良され進化を続けている。例えば、記憶機能を持つようなディープラーニングのアルゴリズムが現在注目を集めており、ストーリーを記憶し、それを考慮した上での論理的な質問回答が研究レベルでは実現しつつある。異なる種類のデータを結びつけることによる精度向上もまたディープラーニングにより大きく進展しており、複雑な環境の理解、文脈や背景情報の理解が着実に進展している。こういった研究開発により、機械翻訳や対話エージェントなどの文脈の理解が課題であったサービスが実用レベルに達し、さらには、自動運転や不審者検知、需要予測などの複雑な背景情報や環境情報の理解が課題であったサービスも実用化もされていくと考えられる。

3. 人工知能を活用するには

人工知能を活用したサービスで途上段階にあるのは、環境理解や文脈理解のような技術的に難易度が高い領域、そしてデータが十分にない領域だ。技術的に難易度が高い領域については、ディープラーニングなどを活用してGoogleやFacebookなどの世界の大手IT企業が多額の資金を注ぎ込んで研究開発競争を繰り広げており、対抗するのは容易ではない。となると、これから取り組んで勝機がある領域は、データが十分でないがゆえに途上段階にある領域である。良質なデータをうまくそろえて勝負することが日本企業にとっては良策だと考える。具体的には製造業における機械の故障予測やシーンごとの監視カメラの不審者検知(例えば駅)など、リアルな環境に近く、かつクローズドな領域が取り組みやすい。
人工知能の性能は、データの良しあしや量が大きく影響する。研究者の間ではスモールデータから学習するというアプローチも注目されているものの、企業にとっては必要なデータをうまく集める仕組みをつくり、質の高いビッグデータをつくれるかどうかが問われるようになるだろう。
人工知能スタートアップのカラフル・ボード社が提供するSENSYでは、アパレル業界の「在庫が多い」という課題の解決に取り組んでいる。コーディネートを売りにしたECアプリを介してユーザーの好みを取得し、人工知能を活用してユーザーの好みにあったレコメンドを行うことで在庫を減らそうとしている。ユーザーが好みを登録したいと思わせる価値を訴求し、使いやすいユーザーインターフェースを用意することで、必要なデータを集める仕組みを構築している。
人工知能の活用が前提となる今後は、何をアウトプットするかから逆算して、必要なデータをうまく集める仕組みを構築することが重要になってくる。データを取ってみないと何ができるかわからないという「にわとり卵」のような面もあるものの、そういうケースではたいていごみデータの山となってしまうので注意が必要だ。
人工知能の活用がアタリマエになる今後は、必要なデータを集められる企業が主役になっていく。各分野で強みを持つ日本企業が存在感を増していくことに期待したい。


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