東京五輪を迎えるにあたり、福島県の復興状況や放射線の健康影響に対する認識をあらためて確かにすることが必要(その1)

原子力安全事業本部  義澤宣明 他3名

1.復興五輪の意義

東日本大震災から6年を経て、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京2020大会)が残り3年に迫っている。東京2020大会は「復興五輪」とも呼ばれ、東日本大震災および東京電力福島第一原子力発電所事故からの復興の姿を、国内外に発信することが大きな目的の一つとされる。2020年は震災から10年の節目にもあたり、復興ぶりを世界にアピールする絶好の機会である。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のアクション&レガシープランでも「復興・オールジャパン・世界への発信」が柱の一つだ。具体的には、観光客の被災地への呼び込みや大震災の記憶の風化防止、風評被害の払拭などを図るとされている(※1)

開催の中心地となる東京には、東日本大震災および原発事故からの復興の姿を発信する役割も期待される。それには、復興の現状や放射線の健康影響を東京都民がしっかり理解していることが重要である。復興五輪の意義を考える本シリーズは3回に分けて紹介する。今回は(その1)として、当社が実施したアンケート調査の結果をもとに、主に東京都民の意識に関する現状を報告する。

当社は福島県の復興状況や放射線の健康影響に対する、東京都民と福島県民の意識や理解度を把握するためアンケート調査を実施した。概要は以下のとおり。

  • 調査期間:2017年8月9日~17日
  • 調査地域(回答数):東京都(1000サンプル) 福島県(500サンプル)
  • 調査対象:20歳~69歳の男女
  • 調査方法:インターネットアンケート

2.東京都民の復興状況の理解、震災への意識、関心について

まず、福島県の現状を正しく理解していると思うか、東京都民に聞いた。「福島県内の現状を東京都民は正しく理解していると思う」とする回答(「そう思う」「ややそう思う」の合計)は全体の1割にも満たず(6.8%)、正しく理解していると思っていない回答者(「そう思わない」「あまりそう思わない」の合計)は半数を超えていた(54.6%)。この結果から、福島県の現状への理解が十分でないと東京都民は考えていることがわかる。また、「原発事故から6年が経過し、東京都民の震災に対する意識や関心が薄れていると思う」との回答(「そう思う」「ややそう思う」の合計)は半数を超えている(59.0%)。(図1)

これらの結果から、福島県の現状理解が十分でないと感じつつも、震災に対する意識や関心そのものが薄れている状況を、東京都民もある程度自覚している姿がうかがえる。

図1 福島県の現状に対する理解、震災に対する意識、関心について(東京都)

図1 福島県の現状に対する理解、震災に対する意識、関心について(東京都)

出所:三菱総合研究所

3.原発事故や震災復興に関する情報の停滞

さらに、原発事故や震災復興に関する情報をよく見聞きした時期を尋ねた(図2)。3割程度(30.5%)の回答者が、事故から現在まで継続して情報を入手して最新の情報を耳にしている。しかし、半数近くの回答者(46.9%)が、情報をよく見聞きしたのは事故後2年程度の2013年末頃までだった、と回答しており、その当時の情報のまま、復興状況のイメージを固定化させている可能性がある。

図2 福島県の状況についての情報をよく見聞きした時期(東京都)

図2 福島県の状況についての情報をよく見聞きした時期(東京都)

出所:三菱総合研究所

こうした回答結果から、震災や福島に関する理解、関心が低くなり、いわゆる「記憶の風化」が進んでいることが分かる。

4.福島県産の食品に対する意識

東京都民を対象としたアンケートでは、他県産の食品と比較して品質や値段に変わりがなく自身が食べる場合には「福島県産かどうかは気にしない」とする回答者が半数を超えていた(58.6%)(図3)。一方、「放射線が気になるのでためらう」という回答者は、全体の約4分の1(26.3%)存在した。

自分ではなく、家族や友人、知人、外国人観光客が食べる場合について尋ねると「放射線が気になるのでためらう」が全体の3分の1を超えた(33.1~35.0%)。自分よりも他人が食べる場合の忌避意識が高くなった事実は、風評問題に、本人の購買意欲だけでなく、家族や知人への気遣いが含まれていることを示す。「家族や知人に勧めても問題ない」というレベルまで、理解を深める必要があるといえる。

図3 福島県産食品についての意識(東京都)

図3 福島県産食品についての意識(東京都)

出所:三菱総合研究所

食品中の放射性物質については震災後から現在まで、福島県を含む東日本17都県を中心に検査が行われている。基準値(※2)を超える食品が確認された市町村では、他の同一品目の食品が出荷・流通・消費されないよう措置が取られている。2016年度に福島県で実施された農林水産物に対する検査では、基準値を超えた割合は0.03%と、非常に低い(※3)。これらの検査の実施状況等について聞いた結果が図4だが、「検査が行われていることを知らない」との回答が3割を超えるなど、食品中の放射性物質に対する対応についての理解は、依然として低水準にとどまっている。

この点への理解が高まれば、「家族や知人に勧めても問題ない」という他者への気遣いの面も含めて、購買行動の変化につながると期待される。

図4 食品の検査に関する知識(東京都)(※4)

図4 食品の検査に関する知識(東京都)

出所:三菱総合研究所

5.福島県への旅行に対する意識

福島県への旅行についても尋ねた。先の福島県産食品に関する意識と同様、自分が訪問する場合、半数超(56.2%)が「放射線については気にしない」と回答したものの、3割近く(28.0%)が「放射線が気になるのでためらう」としている。家族、子どもや友人、知人、外国人観光客が訪問する場合も「放射線が気になるのでためらう」との回答が、3割を超えている(32.7~36.9%)(図5)。

東京2020大会を通じて多くの外国人観光客が日本を訪れるなか、福島県への観光を考える人も多いと考えられる。まずは、東京都民が福島県の放射線の実情を理解しておく必要があるのではないか。

また、観光においては、現地での食事も重視される要素の一つである。福島県への観光をめぐる意識の傾向が、福島県産の食品と同様であることから、観光産業と食品産業とが連携して対応していくことも、有効な施策となるであろう。

図5 福島県への旅行についての意識(東京都)

図5 福島県への旅行についての意識(東京都)

出所:三菱総合研究所

6.放射線による健康影響に関する認識

現在の放射線被ばくで、がんの発症など後年に生じる健康障害および次世代以降の人への健康影響がどのくらい起こると思うかを尋ねた結果を図6に示す。どちらの質問についても約半数の回答者(前者(3)38.3%+(4)15.2%=53.5%、後者(3)36.6%+(4)13.2%=49.8%)が、発生する可能性が高いと回答している。

図6 放射線による健康影響について(東京都)(※5)

図6 放射線による健康影響について(東京都)

出所:三菱総合研究所

この問題について、放射線の健康影響に関するさまざまな科学データを検討している国際機関、国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)は、以下のように報告している(※6)

「放射線被ばくによる確定的影響は公衆では観察されておらず、今後も出現しないと予測されている。(中略)また、「事故によって被ばくした人の子孫における遺伝性疾患の識別可能な増加」が生じることは予測されていない。放射線被ばくに関連する白血病または乳がんや他のタイプの固形がんの発生率が、識別可能なレベルで放射線に関連して上昇することはないと予測されている。福島第一原発事故による甲状腺線量の推定値はチェルノブイリ周辺が受けた線量よりも大幅に低いため、チェルノブイリ原発事故後に発生したような放射線被ばくによる甲状腺がんの大きな過剰発生についても考慮しなくともよいとみなされた」

現在の世代だけでなく次世代にも健康影響があると過半数の人々が考えている現状は、福島県民に対する誤った先入観や偏見を生み出す可能性も否定できない。

原発事故から6年が経過した現在、福島から離れた東京で、放射線に関する知識に触れる機会が減ることは無理もないといえる。ただ、理解や情報が不正確なまま2020年を迎えると、東京2020大会で訪日する外国人にも、そうした情報が伝わるおそれがある。

本調査は、三菱総合研究所における独自調査であり、社内研究「2020年オリパラで求められる福島復興・放射線リスコミ研究」において実施した。

※1 東京2020アクション&レガシープラン2017(公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会) 2017年11月10日(閲覧日) https://tokyo2020.jp/jp/games/legacy/items/legacy-report2017.pdf

※2 飲料水:10ベクレル/kg、牛乳:50ベクレル/kg、乳児用食品:50ベクレル/kg、一般食品:100ベクレル/kg

※3 10の指標にみる福島県のいま(福島県) 2017年11月10日(閲覧日) https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/11045b/10sihyo.html

※4 質問項目は、「風評被害に関する消費者意識の実態調査(第8回)(消費者庁) 2016年10月  http://www.caa.go.jp/earthquake/understanding_food_and_radiation/pdf/161005kouhyou_1.pdf」を一部利用

※5 質問項目は、「平成27年度県民健康調査「こころの健康度・生活習慣に関する調査」結果報告書(福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター)2017年10月 http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/240069.pdf」を利用

※6 東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響に関するUNSCEAR2013年報告書刊行後の進展(UNSCEAR) 2017年11月10日(閲覧日) http://www.unscear.org/docs/publications/2016/UNSCEAR_WP_2016_JAPANESE.pdf

執筆者
原子力安全事業本部  義澤宣明、白井浩介、村上佳菜
シンクタンク部門統括室  馬場哲也


東京五輪を迎えるにあたり、福島県の復興状況や放射線の健康影響に対する認識をあらためて確かにすることが必要
(その1)
(その2)
(その3)
Fukushima Reconstruction: Current Status and Radiation Health Risks(英語版要約)

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