東京五輪を迎えるにあたり、福島県の復興状況や放射線の健康影響に対する認識をあらためて確かにすることが必要(その3)

原子力安全事業本部  義澤宣明 他3名

2020年開催の東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京2020大会)まで残り3年を切った。東京2020大会には、東日本大震災および東京電力福島第一原子力発電所事故から被災地が復興している姿を国内外に発信することも期待される。その役割の一端を担う東京都民には、復興の現状や放射線の健康影響への理解も必要とされる。

本シリーズの(その1)および(その2)ではアンケート調査をもとに、復興や放射線の健康影響などに関する東京都民の意識の現状を報告した。調査結果からは、福島県に対する関心が薄れて復興に向け変化している姿が伝わりにくくなっているほか、放射線による健康影響について最新の科学的知見が浸透していないことなどが明らかとなった。

(その3)では、この現状を踏まえ、福島県で行われている放射線教育に注目した対応策を提案する。さらに、福島県産品の販売不振や観光客数・教育旅行件数の減少が長期化している原因を分析し、対応策を検討する。

1.東京都と福島県におけるアンケート結果の違い

1.1  福島県産の食品に対する意識の差

今回のアンケート調査において「積極的に食べる/勧める」かどうか尋ねた結果、福島県産の食品の価格や品質が他県産と変わらない場合、「放射線が気になるのでためらう」と回答した東京都民の割合は、全体の4分の1程度であった(26.3%)。一方、「放射線が気になるのでためらう」と回答した福島県民は約16%で、東京都民に比べ10%程度低かった。さらに、「積極的に食べる/勧める」と回答した福島県民は約3割おり(29.6%)、福島県産の食品に対する意識は東京都民と大きく異なる結果となった。(図1)

図1 福島県産の食品に対する意識(東京都、福島県)

図1 福島県産の食品に対する意識(東京都、福島県)

出所:三菱総合研究所

1.2 放射線に関する知識の差

放射線に関する知識の有無については、いずれの項目も東京都よりも福島県で10%以上高く、福島県において放射線に関する知識がより深く浸透している状況となっている。(図2)

食品の検査状況に関する知識も、「その他」を除く全ての項目について、東京都よりも福島県の方が「知っている」という回答が多かった。東京都ではそもそも「検査が行われていることを知らない」との回答が3割超と、福島県(約15%)の2倍の規模であり、検査が行われている事実自体が知られていない傾向がある。(図3)

図1でみた福島県産の食品に対する意識の違いは、放射線や食品の検査に関する知識の有無と関連している可能性がある。

図2 放射線に関する知識(東京都、福島県)(※1)

図2 放射線に関する知識(東京都、福島県)

出所:三菱総合研究所

図3 食品の検査に関する知識(東京都、福島県)(※2)

図3 食品の検査に関する知識(東京都、福島県)

出所:三菱総合研究所

1.3 復興状況に関する情報入手媒体の差

福島県の復興状況に関する情報を東京都民が知る方法としては、「テレビやラジオ」「新聞や雑誌」の2つの経路が特に多い。一方、福島県民に対する調査の結果では、「テレビやラジオ」「新聞や雑誌」に続いて「自治体が発行する広報資料」が3割近くに達している。「行政機関のウェブサイト」や「地域の自治会の回覧板」「友人や知人」といった比率も、東京都民に比べて高い。図2および図3で示した福島県民の放射線に関する知識の多さは、このように多様な情報源を持つことにも起因すると推察できる。(図4)

図4 復興状況に関する情報を得る媒体(東京都、福島県)(※3)

図4 復興状況に関する情報を得る媒体(東京都、福島県)

出所:三菱総合研究所

前出の結果から、福島県民と東京都民の回答の違いとして、以下の点が挙げられる。

  • 福島県民は東京都民と比べ、福島県産の食品に対して放射線が気になるという比率が低い。
  • 放射線に関する知識や食品の検査に対する知識は、東京都と比べて福島県では深く浸透している。
  • 福島県の復興状況に関する情報を、東京都ではテレビやラジオから得るケースがほとんどであるのに対し、福島県民の情報源はより多様であり、自治体から情報を得ている回答者の割合も高い。

2.知識を得る機会としての放射線教育の有効性

2.1 放射線教育の認知と経験

第1章では、福島県民が東京都民に比べ放射線に関する知識が豊富で、情報入手経路も東京都民に比べ多様であると指摘した。第2章では、福島県民が放射線に関する知識を得る機会の一つとして、福島県で行われている放射線教育に注目する。

福島県では東京電力福島第一原子力発電所の事故後から、放射線や防災に関する知識を習得・活用して、子どもたちが自ら考え、判断し、行動する力、つまり「生き抜く力」を身に付けることが重要視され、防災教育に加えて放射線教育が進められてきている。福島県教育委員会において2011年11月に国内初の放射線教育指導資料が作成され、2013年度から小中学校において放射線教育が実施され始めた。現在は、学校の中だけでなく地域や研究機関と連携した放射線教育の仕組みづくりが進められている。そこでは、児童や生徒たちが放射線に関する知識を身に付けるだけでなく、科学的な基礎知識を理解したうえで自分の言葉で発信できるようになることが重視されている。

その一方で、東京都民は、およそ3分の2の回答者(66.6%)がこれまで放射線教育を受けたことがないと回答している(図5)。そこで、放射線に関する知識を身に付ける手段の一つとして、東京都でも放射線教育の機会を設けることが有効と考えられる。

図5 放射線教育を受けた経験(東京都)

図5 放射線教育を受けた経験(東京都)

出所:三菱総合研究所

2.2 放射線教育の内容で知りたいこと

福島県が小中学生に向けて実施している放射線教育の中で、機会があればその内容を知りたいと思うものを聞いた(図6)。東京都、福島県いずれでも、「放射線の人体に対する影響について」や「外部被ばくや内部被ばくをしないための生活の仕方」など、健康影響についての関心が他の項目に比べて高い。

さらに、福島県民では、「福島第一原子力発電所の廃炉等の現状」「除染の意味」といった地域固有の事項のほか、「外部被ばくと内部被ばくの影響について」「放射能の半減期と放射線量の関係」「放射線の透過性について」など、一般的な放射線の知識に関する詳しい情報についても知りたいとする傾向が東京都民よりも強い。

(その2)では、福島の復興状況に関する東京都民の理解が十分でないと指摘したが、「復興に向けた取り組みの現状」について知りたいとの回答比率は、福島県民よりも東京都民の方が高い。また、放射線教育で知りたい内容については、福島県民と東京都民で若干の違いがあることがわかった。東京都で放射線教育を行う場合、福島県で現在行われている内容や方法がおおむね援用可能であるが、一部東京都民の知りたい内容を付加すれば、もっと的確に知りたいことを伝えることができるだろう。

図6 放射線教育で機会があれば知りたい内容(東京都、福島県)

図6 放射線教育で機会があれば知りたい内容(東京都、福島県)

出所:三菱総合研究所

3.東京2020大会を見据えた提言

3.1 放射線教育に関する知見、ノウハウの東京都への展開

福島県教育委員会の作成した資料によると、福島県での放射線教育では「他者に科学的な根拠を基に情報発信できる力を身に付けさせるよう努める」ことが重点的な指導ポイントの1つとされている(※4)。これは、東京都民が復興状況や放射線に関する適切な情報発信を行う場合も参考になる。例えば、図6で示した、東京都民が知りたい「放射線の人体に対する影響について」は、福島県教育委員会の資料では小学校低学年から中学校3年までに指導する内容として示されている。東京都民でも、各学年における同様の指導案を作成することができるだろう。

放射線教育の実施にあたっては、モビリティ・マネジメント(※5)教育(交通・環境教育、以下MM教育)で取られている形式も参考となる。MM教育においては、児童生徒がMM教育の授業で学んだことを保護者に教えるよう促し、児童生徒を通じた保護者への教育波及効果を期待する事例がある。東京都民への放射線教育においても同様に、児童生徒を通じて保護者も放射線や福島県の現状について学び、家庭で一緒に考えることのできるプログラムの導入することを提案したい。

また、児童生徒や保護者だけでなく、外国人と接する機会の多い大会・都市ボランティアに対する教育も不可欠である。ボランティア研修に放射線および福島の現状に関する内容を盛り込むよう提案したい。

こうした取り組みを通じて、福島県の現状に対する東京都民の理解や意識・関心が向上し、福島県産食品の購買行動や福島県への観光客増加など、復興指標の回復も期待される(図7)。

図7 福島県での放射線教育の東京への展開

図7 福島県での放射線教育の東京への展開

出所:三菱総合研究所

3.2 東京2020大会を契機とした復興加速化ループの提言

東京2020大会を成功に導くには福島県の現状を理解することが必要である点は、述べてきたとおりである。その施策として放射線教育の活用を提案した。次のステップとして、そのような取り組みを通じて、復興の加速に発展させていくことが重要である(図8)。

東京都において放射線教育が実施された場合、それを受けた児童生徒および保護者の福島県の現状に対する理解が促進される。さらに、東京2020大会のボランティアにも教材が広まることで、福島の現状に対する理解がより拡大していくと期待できる。

児童生徒と保護者間で理解が進めば、福島県産食品に対する家族の忌避意識が薄れ(本シリーズ(その1))、購買行動の促進につながる。同様に、福島県への観光の促進にもつながるだろう。

さらに、本シリーズ(その2)では、復興指標の一つである「教育旅行の延べ宿泊者数」が2015年時点で震災前の6割弱にとどまったことを示した。この比率に関しては東京都民の多くが、予想したよりも低いと回答しており、放射線教育により福島県の現状に対する理解が促進されれば、教育旅行に関するこの値も震災前の水準に近づいていくのではないか。

本シリーズ(その1)で示したとおり、復興指標の値とそれに対する印象には一定の関連性がある。復興指標の改善には、福島県を被災地として特別視する空気感を和らげる効果も期待できる。

福島県産食品の購買促進は、小売店での福島県産食品の取り扱い増加をもたらす。また、福島県への観光客が増えれば口コミによる効果も期待できる。このような形で、福島県に関する事柄を目にする機会が増え、福島県の現状を知りたいとのニーズが喚起される。これは、震災に対する意識の風化(福島に対する意識や関心が低下していく状況)防止につながる。

図8 東京2020大会を契機とした復興加速化ループ

図8 東京2020大会を契機とした復興加速化ループ

出所:三菱総合研究所

以上のように、東京2020大会を契機として東京都民が福島県の現状を理解するために放射線教育を導入して、復興加速化のループを作り出すことが大変重要である。さらに、このループは、福島県に対する意識・関心が低下することへの防止にも役立つ。

震災から6年が経過し、3年後には東京2020大会が開催される。いまこそ、復興状況や放射線の健康影響に関する認識をあらためて新たにするための対応をしなければならないのではないか。

<トピックス:アーカイブ拠点施設の活用可能性>

放射線や復興状況に関する知識を得る機会として、「東日本大震災・原子力災害アーカイブ拠点施設」(以下、アーカイブ拠点施設)の活用も考えられる。

アーカイブ拠点施設は、福島県が東日本大震災および福島原発事故の記録や教訓を後世に伝えるため、東京電力福島第一原発に近い双葉町に整備する予定である。開館は、2020年7月の東京オリンピック・パラリンピックを視野に進められる。誰にでもわかりやすく福島の経験や復興をありのままに伝え、継承していくことが求められており、訪れるすべての人が福島の復興状況に関する知識を得ることができる。

施設のどの項目に興味があるか尋ねたところ、福島県と東京都の両方で「原子力災害の正確な記録、情報発信機能」が最多となった。いずれも4割前後の回答を得た。

図9 アーカイブ拠点施設について興味のある項目(東京都、福島県)

図9 アーカイブ拠点施設について興味のある項目(東京都、福島県) 出所:三菱総合研究所

本調査は、三菱総合研究所における独自調査であり、社内研究「2020年オリパラで求められる福島復興・放射線リスコミ研究」において実施した。

調査の実施概要は(その1)、(その2)で示したように以下のとおりである。

  • 調査期間:2017年8月9日~17日
  • 調査地域(回答数):東京都(1000サンプル) 福島県(500サンプル)
  • 調査対象:20歳~69歳の男女
  • 調査方法:インターネットアンケート

※1 質問項目は、「風評被害に関する消費者意識の実態調査(第8回)/ 消費者庁 /2016年10月/ http://www.caa.go.jp/earthquake/understanding_food_and_radiation/pdf/161005kouhyou_1.pdf」を利用

※2 質問項目は、「風評被害に関する消費者意識の実態調査(第8回)/ 消費者庁 /2016年10月/ http://www.caa.go.jp/earthquake/understanding_food_and_radiation/pdf/161005kouhyou_1.pdf」を一部利用

※3 質問項目は、「風評被害に関する消費者意識の実態調査(第8回)/ 消費者庁 /2016年10月/ http://www.caa.go.jp/earthquake/understanding_food_and_radiation/pdf/161005kouhyou_1.pdf」を一部利用

※4 福島県教育委員会、放射線等に関する指導資料[第5版]、平成28年3月

※5 一人一人のモビリティ(移動)が、社会的にも個人的にも望ましい方向(過度な自動車利用から公共交通等を適切に利用するなど)に変化することを促す、コミュニケーションを中心とした交通政策

※6 ふくしま 放射線教育・防災教育指導資料(活用版)/ 福島県教育委員会/ 2017年11月9日(閲覧日)/ http://www.gimu.fks.ed.jp/shidou/h28_katuyou.pdf

執筆者
原子力安全事業本部  義澤宣明、白井浩介、村上佳菜
シンクタンク部門統括室  馬場哲也


東京五輪を迎えるにあたり、福島県の復興状況や放射線の健康影響に対する認識をあらためて確かにすることが必要
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