日本が目指すべきイノベーションの姿

研究理事  亀井 信一

 正直に申し上げると、日本でイノベーションを起こすためにシリコンバレーに学ぶことはないのではないかと長年思い込んでいた。よちよち歩きの若葉マークのドライバーが、縦横無尽に走り回るF1サーキットを見ても、そこから運転技術の神髄をつかむことができないように、ベンチャーを生み育てる環境に乏しい日本にとって学ぶことは少ないだろうと高をくくっていたのである。渡米の機会を得たときは、あえてシカゴやテキサスのように何でもあるがさらに先を目指してもがいている地域を回り、現地の人と議論するように心がけていた。日本と同じ環境にあるため、話がかみ合うことが多かった。

 そんな見方を一変させたのが、今年2回のシリコンバレー出張であった。イノベーション・エコシステムと呼ばれる環境があり、アグレッシブな人材もあふれているが、全ての事業が順風満帆というわけではなかった。デジタルイノベーションの波に乗り新しい事業アイデアを思いついても、それを具現化できないということもある。例えば超省エネ特性をもつセンサーやそれを構築するノウハウが周りにないという声を何人かから聞いた。限られた地域の中ではミッシング・ピースが多いことは当然である。ないものは世界中から集める、というのが彼らの流儀であるが、特にハードウエアのすり合わせの場面では供給者が「近くにいる」ことが重要である。

 翻ってわが国を見ると、大学を核としたイノベーション共創モデルが構築されつつある。東北大学の国際集積エレクトロニクス研究開発センターでは、材料・装置・デバイス・回路・システムなど多様な国内外企業が一つのところに集まることでハードとソフトの融合が進んだ。その結果、桁違いの省エネ特性を持つAI用デバイスが開発された。「絶対にマネできない、マネしようとすら思えないレベルのイノベーション(スティーブ・ジョブズ)」が生まれたのである。日本のイノベーションの目指すべき姿を見たような気がする。


関連するコラム・レポート

関連するサービス

MRIマンスリーレビューの目次へ

ページトップへ戻る