テレワーク導入効果を最大限引き出そう─ワークライフの充実から従業員の成長、組織の価値創出まで

 
Point
テレワークの効果は、ワークライフの充実や業務効率の向上にとどまらない。
働き方改革を通じて、従業員の成長と企業の持続的な価値の創出を促す。
先行企業に学べば、テレワーク導入時の課題解決や効果獲得は可能。

1.テレワークへの期待と今後の見通し

 テレワークとは、在宅や社外、遠隔地での勤務など、ICT(情報通信技術)を活用した場所や時間に制約されない柔軟な働き方をいう。政府は、ワークライフバランスの向上、出産・育児・介護時の就業継続、女性活躍、高齢者・障がい者などの就業機会の拡大、移住や二地域居住を通じた地域活性化、災害時の事業継続などを促進する手段としてテレワークの普及を推進している。

 総務省調査*1によると、現時点で、テレワークの導入企業は7.9%にとどまり、一部の業種(情報通信業)や職種(営業職)に限られているものの、導入企業の半数以上が「生産性や業務効率が向上した」、半数近くが「通勤・移動時間が短縮した」、3割が「ワークライフバランスが実現した」と回答している(図1-1)。

 今後、ICTや人工知能などがテレワークでの業務の効率性や安全性を高めるとともに、日本人の就業観も変化してライフステージやニーズに応じた多様な働き方が志向され、多くの企業がテレワークの有用性を認識して導入が進んでいくものと思われる。

*1:総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」(2015年)。

図1-1 テレワークの導入により実現した効果、実現を期待する効果
図1-2

2.テレワークの本質的な価値―個人・組織の価値創出力向上

 テレワークの効果は、通勤時間短縮、育児・介護との両立、在宅での集中作業などを通じた「ワークライフの充実」と「業務効率の向上」にとどまらない。テレワーク導入をきっかけに、企業が働き方改革を進め、従業員が成長機会を得て価値創出力を高めるとともに、これが企業に持続的な価値創造をもたらす点に本質的な価値がある。

 モバイル端末を活用する従業員は、情報セキュリティー、電源、インターネット環境が 確保できれば、どこでも仕事が可能となり、社外での活動を行いやすい。その結果、定常的な業務は主に移動時間や隙間時間に行って、自身の知見・スキルを高める時間や、新たな着想で価値を生み出す時間を優先的に確保できるようになる。オフィスよりも集中できる環境で思考を深めたり、気になる顧客の声を聴きに出かけたり、社外セミナー・異業種交流会に参加することも自在である。

 さらに、社外の多様で異質な人々と交流する中で、課題認識が改まったり、思考の枠組みそのものが組み替わることもある。オフィスで同僚と議論しているだけでは見えなかった課題や解決策も見えてくる。社外の情報や人的ネットワークを豊富にもった従業員同士が、リアルとバーチャルの両面で情報交換や議論を重ねれば、課題解決のスピードも高まる。このような経験の繰り返しの中で従業員が成長するとともに、企業も課題設定・解決プロセスの質を高め、スピードアップすることができる。

 日本マイクロソフトでは、面談に加えて、PC会議やチャットなどのオンラインの活用を進めることで社内外の人との直接対話を増やし、課題解決や価値創出の効率化・最適化を促して「事業生産性」の向上を図っている。同社の平均的な従業員は1日の半分はオフィス外で仕事を行っており、5年間で、従業員満足度は40%、事業生産性は26%改善しているとのことである。

 以上のように、テレワークには、従業員の働き方そのものを変えて、企業の価値創出力を向上する可能性がある。わが国の規格大量生産型の経済システムに適した画一的な「働き方」から、成熟社会でイノベーションを誘発する柔軟な「働き方」への転換を促すトリガーとなることが期待される。

3.テレワークの導入と効果を促進する方法―先行導入企業に学ぶ

 テレワークや働き方改革の必要性は従来から指摘されており、最近では政労使がおのおのの立場で活発な議論を進めている。その一方、導入に伴う課題や副作用も想定され、これらを克服することが普及の条件である。

 導入企業からは、事前に想定していたほどの支障はなく、むしろ効果を確認できたという声が聞かれる。前述の総務省調査では、テレワーク導入時の課題として指摘されることの多い「労務管理」「人事評価」「コミュニケーション」「社内制度」「労働法規制との整合性」に関して、導入企業の方が、未導入企業(検討中・関心あり)よりも課題として回答した割合が大幅に低い点は興味深い(図1-2)。先行的に導入した企業の経験から、導入を躊躇する企業の悩みを解決するヒントを得られる可能性が示唆される。

 それらの実践例を参照すると、テレワークの導入を円滑に進め、働き方改革の効果を高める上で重要な三つの視点が見いだされる。

(1)マネジメント層の率先垂範

 テレワーク導入に対して最も不安を感じるのが管理職だといわれている。これまで目の前で仕事をしていた部下が、目の届かない自宅や社外で業務を行うようになって、気軽に声をかけ、頻繁に確認を求めることが難しくなる。その結果、業務効率や成果品質の低下、過剰労働などに対する不安が頭をよぎる。また、上司がテレワークに疑念を抱き、定時に出社して会社で長時間勤務するような部署では、制度や環境を整えたとしても、部下が気軽にテレワークに取り組むことは難しい。

 サントリーや日産自動車など、先行的にテレワークを導入している企業では、管理職が率先してテレワークを実践している。ワークライフバランスや業務効率の向上はもとより、家事・育児経験や社外交流を通じた課題解決と価値創出に対するテレワークの有効性を管理職が実感し、働き方改革による個人と組織の持続的な成長を重視する組織風土の醸成が重要である。

(2)成果に基づく目標管理とケア

 導入企業では、テレワーカーに対する適正な労務管理のために、業務開始時・終了時の報告やPC操作状況チェックなど、テレワーク中の業務時間を確認する仕組みやツールが用意されている。加えて、長時間労働の解消や社内外交流・創造的な活動時間の確保の観点から、労働時間ではなく成果に基づく目標管理制度も導入しているケースが多い。上司と部下が事前に成果目標を共有した上で、従業員はテレワーク環境を最大限活かして効率的に成果をアウトプットし、上司がそれをサポートするという働き方への転換が図られている。

 一方、社外での勤務時間が長くなり、成果での目標管理が浸透したときに、従業員の心身の健康やモチベーションをどのようにケアするのか、という新たな課題もある。この点は、今後のテレワークの普及過程で、重要度の高い経営課題となるであろう。

(3)働き方に関する従業員の自己裁量の拡大

 テレワークは、従業員一人ひとりの創意工夫や自律的で能動的な行動を引き出す契機となる。変化が速く激しい事業環境では、決められたことを忠実に遂行するだけでなく、各従業員が自身の知見と社内外のネットワークをフル活用して、課題やリスクの変化を察知し対応することが、企業の競争力を高める重要な要素となる。導入を通じて、従業員が短時間で効率的に成果を出す工夫や社内外識者との交流による課題解決の経験を積み重ねることができれば、自律性や創造性に関する従業員の成長も促す。

 さらに、従業員が勤務時間・場所を自ら選択することや副業・兼業を認めるところまで踏み込めば、働き方改革の効果は一層高まる。サイボウズは、選択型人事制度などにより、時間と場所に縛られない働き方や副業(本業にマイナスになるもの以外)を自己申告に基づいて認めている。結果として、離職率は大幅に低下し(28%→4%)、育児後の復職率は高く、優秀な人材が定着するとともに、従業員のモチベーションや多様性が高まり、企業競争力が強化されたとのことである。

 テレワーク導入効果は業務効率やワークライフバランスの改善にとどまらず、さまざまな働き方改革(図2)を通じた従業員の成長や企業の価値創出プロセスの再構築にまで及ぶ。従業員が自ら課題を設定し、ネットワークでつながった多様な知識や知恵を動員して課題解決に取り組む組織になれば、事業環境の変化にも適応し競争力も高まる。長時間労働の解消や就業人口の確保、生産性の向上など、優先度の高い社会課題の解決に向けては、業務効率や女性就業率の向上のみならず、新たな価値創造やイノベーションを促す働き方への転換がより重要である。

 今後、必要な法制度の整備が進み、テレワークや働き方改革に取り組む企業が増える中、高いセキュリティーと効率性を備えたICTツール、従業員の心身のヘルスケアやモチベーションマネジメント、短時間勤務や副業のマッチングサービスなど、個人と組織をサポートする新たな事業が開発され、拡大することが見込まれる。

 当社も、従業員のワークライフバランス向上と成長を促進し、組織の価値創出力を高める働き方への転換を図るため、テレワークをはじめとした働き方改革に向けた各種の取り組みを実施している。さらに、こうした取り組みにより社内で得られた知見や導入制度に関する情報発信、支援サービスの提供などを通じて、社会全体の働き方改革の推進に貢献していきたい。

[図2] 目指すべき働き方改革の方向性
 これまでの働き方働き方改革の方向性
勤務形態 長時間労働が前提 事前想定時間内での業務
オフィスワーク(在社中心) テレワーク(在宅・社外・遠隔勤務)
一律勤務 (勤務時間・日数) 選択可能な労働契約 (柔軟な勤務時間・日数)
専業(兼業禁止) 副業・兼業奨励
人事評価 就業時間に基づく目標管理・評価 成果に基づく目標管理・評価
職能主義 職能主義+スキル・職務見える化
就業意識 外発的動機重視 (収入、地位、社会的影響など) 内発的動機重視 (やりがい、成長、社会貢献など)
同質性 多様性・異質性
社内ネットワーク重視 社外ネットワーク重視

出所:三菱総合研究所


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