脱・ゲームチェンジ脅威論

 
Point
デジタル技術の民主化が進み、企業の競争環境は大変革の時代を迎える。
「無邪気な試行」「つながる顧客」「強みの無力化」がダイナミックな変革を駆動。
大変革の時代には脅威よりもチャンスを認識する能力が重要。

1.始まりはささいな出来事から

 ウーバーやエアビーアンドビーなど、デジタル技術を駆使する新たなプレーヤーがさまざまな市場で「ゲームチェンジ」を起こしつつある。興味深いのは、いずれもささいな出来事が創業のきっかけとなっていることである。世界最大の宿泊施設提供会社であるエアビーアンドビーの場合、ホテルが満室で宿泊先を探していた男性2人、女性1人に、創業者が自宅のリビングルームを宿として提供したことが始まりだった。この個人的な体験をきっかけに、「ホテルに宿泊できない人たちへの宿の提供」という、それまで手つかずの課題解決にチャレンジすることになる。専用のデジタルプラットフォーム上で、宿泊者は宿泊施設に対する感想を、施設提供者は宿泊者に対する感想を書き込み、相互に評価し合うことで、ホテルやブローカーを介することなく「Stranger=Danger」の壁を突破。登録物件と利用者を急速に拡大させてきた。

 さらに興味深いのは、その後の同社の展開である。創業当初は「Save Money, Make Money, Share Culture」というコンセプトのもと、登録対象物件はなるべく安い一般家庭の1室としていたが、近年は著名人の豪邸や城、船といったものにまで広がりを見せている。高級ホテルが提供してきた非日常的な体験の市場を奪うばかりか、これまでにない全く新しい市場を創出し始めている。今後はサービスの対象を広げ、例えば、料理が得意な近隣住民が手料理を振る舞ったり、楽器演奏が得意な近隣住民が演奏を披露したりレッスンしたりすることも可能になるかもしれない。

2.カンブリア大爆発に匹敵する大変革期の到来

 内田和成教授(早稲田大学ビジネススクール)は「競争ルールが変わり、業界を超えた相手との競争が生じ、結果として業界構造が大きく変容してしまうこと」をゲームチェンジと定義している。ゲームチェンジは、市場や社会にダイナミックな変革をもたらす進化の過程であり、歴史上、幾度となく繰り返されてきた。

 近年あらゆる領域で進展する「デジタル技術の民主化」*1は、競争環境を刷新し、生物が一気に多様化し進化したカンブリア大爆発にも匹敵する大変革期をもたらしつつある。例えばエアビーアンドビーは、世界最大の宿泊施設提供会社だが、自分たちは1室も所有せず、フェイスブックは世界的なメディアだが、自分たちはコンテンツを作っていない。既存の競争ルールに縛られない新しい事業体が次々に生まれている。

 デジタル技術を手にした無数の人々が、大企業の常識では複雑過ぎたり手間がかかり過ぎるために手つかずだった問題を次々と掘り起こし、データに基づく「見える化」「最適化」「自動化」を通じて、低コストと高品質を両立させる新たな次元の解決策を編み出している。既存プレーヤーにとって、新たな解決策に塗り替えられてしまうゲームチェンジは明らかな脅威である。しかし、大変革期に必要なのは、ゲームチェンジのメカニズムを理解し、自社の提供価値を捉え直し続ける中でチャンスを認識する力である。

3.ゲームチェンジのメカニズム

 デジタル時代のゲームチェンジのメカニズムには四つの特徴がある。

① 手つかずの課題を発見し、無邪気なアイデアを試行する
 課題に気づいた人が、いち早く市場(顧客)に向き合って無邪気なアイデアを試行して いる。デジタル技術の民主化によって、誰もがアイデアを試行して市場の反応を引き 出しては、改善を繰り返すことが容易になった。課題とアイデアの距離は短縮され、これ まで手つかずの課題が次々と掘り起こされるようになった。

② シンプルな提供価値で顧客をつくり、デジタルで「つながる」顧客が市場を拡大する
 これまで分断されてきた顧客がさまざまなデジタルプラットフォーム上で容易に 「つながる」ようになったため、課題に直結したシンプルな提供価値でも、ひとたび支持 を集め始めると、「つながる」顧客内でシェアされ、一気に拡大しやすくなった。

③ デジタル技術をてこに既存企業の「強み」を無力化する
 デジタル技術を駆使した解決策は既存企業の強みを無力化する特徴を有している。 無力化されやすいポイントは、生産プロセス、販売・流通プロセス、製品・サービス、ビジ ネススキームなど、あらゆる場面に存在し、これらは10の視点に整理できる(表1)。

 例えば、「知覚品質(見た目から想定される品質)と実品質の同値化」では、製品の使用状況がリアルタイムでモニタリングされ、データに基づく実品質が明らかになることで、データの裏付けのない好みや信頼性、雰囲気などが強みとなっていたブランドイメージは無力化しやすくなる。

④ 新たな提供価値を軸としたバリューチェーンの再編が起こる
 新たな提供価値に支持が集まり、既存企業の提供価値が無力化されると、新たな価値を軸としたバリューチェーンの再編が起こり、市場や社会のルールの見直しやインフラの再構築など、ダイナミックな変革が起こる。

 オートモビリティーを例に、ダイナミックな変革の可能性を探ってみる(図1)。A領域は、現在の「消費層」に対して、自動車の所有価値を最大化する競争をしている。B領域は、所得水準が低くA領域の自動車を所有できない「無消費層」*2に対して、シンプルで安価な自動車を提供(タタ「ナノ」など)したり、今の自動車では所有したいと思わない「無消費層」に対して、電動化・知能化した魅力的な自動車を提供(テスラモーターズなど)している。CとD領域は自動車の所有価値そのものを無力化し新たな価値を提供する。C領域は「好きな自動車を選んで運転を楽しむ」、D領域は「安く安全に移動し、移動時間を有効活用できる」ことを新たな提供価値としている。

 現在A領域で競争している企業は、B、C、D領域のような異なる提供価値の存在を認識し、次に台頭してくるのはどこか、そのとき自社の提供価値はどうなるか、絶えず相対化する必要がある。この例示もゲームチェンジのプロセスの一部にすぎない。自動運転が実現する将来においては、安く安全に「移動」することは、当たり前になっているだろう。AR・VR技術などが進展すると、そもそも「移動」を必要としない世界が主流となっているかもしれない。

[表1] 既存企業の「強み」を無力化する10の視点
変革の視点概 要
①専門知識の均質化 専門知識やノウハウをベースとしたサービスがAIによって代替され、高度専門人材の確保による優位性がなくなる。
②労働力の無限化 物理的な労働力がAIやロボットによって代替され、労働力の動員力による優位性がなくなる。
③単一大量生産メリットの無効化 生産のデジタル化などにより、大量生産で実現されていたコストが、小ロットでも実現されることによって、需要をまとめることによる優位性が失われる。
④知覚品質と実品質の同値化 製品の使用データに基づいた実際の品質が明らかになることで、知覚品質と実品質のギャップがなくなる。ブランド力・知覚品質の優位性がなくなる。
⑤デリバリーの短縮化 デリバリーに要する時間(およびコスト)が圧倒的に短くなることで立地やサービス網による優位性が失われる。
⑥製品・サービスの高次元化 デジタルイノベーションによって、製品・サービスそのものが大きく変化し、既存技術による優位性が失われる。
⑦需要予測のリアルタイム化 リアルタイムでのデータ計測が可能となり、正確な予測に基づいた事前対応が可能となる。事後対応のサービスは事前対応に。
⑧カスタマーのプロバイダー化 個人同士をつなぐプラットフォームが台頭することで、個人の遊休資産や個人製のデジタルコンテンツが市場に供給される。
⑨取引コストの極小化 一つの取引にかかる手間、時間が低減されることにより、代理店や仲介業務の存在意義が薄れる。
⑩収益モデルの無力化 既存のビジネス以外の収益源(広告やデータ販売など)をもつプレーヤーが登場し、既存の商品・サービスを無料化してしまう。

出所:三菱総合研究所

図1 オートモビリティー業界における「ゲームチェンジ」の方向性

4.ゲームチェンジの市場や社会へのインパクト

 ゲームチェンジにより「無消費層」の取り込みや新しい価値の創造が起こると、市場や社会に大きなインパクトをもたらす(表2)。

 例えば「所有」から「利用」へ提供価値がシフトすると、自動車の「所有台数」と連動する市場は大幅に縮小する一方で、「移動距離」と連動する市場は大幅に拡大する可能性がある。さらには「移動時間」を狙った市場が拡大することも想定される。移動距離の拡大に伴う交通インフラへの投資拡大、同市場における雇用の創出(衰退業界からの移転を含む)も期待される。カーシェアリングや自動運転をベースとした社会ルールの整備や基盤構築も進むだろう。

 データに基づく「見える化」「最適化」「自動化」を繰り返しながら、徹底的に無駄は排除され、利便性は格段に向上し、「無消費層」は「消費層」に転換する。新しい価値に次々と塗り替えられていく過程で、社会はよりよいものとなっていくだろう。

[表2] オートモビリティー業界でゲームチェンジがもたらすインパクト
市場へのインパクト 自動車台数
  • 国内の自動車製造~販売関連業界は大幅に縮小
  • 新興国の無消費層向けには、低価格又は自動運転で拡大可能
移動 モビリ
ティー
  • ライドシェアリング(RS)の大幅な拡大
  • タクシー業界はRS次第で成長か衰退
  • 自動運転は「無人運転」が実現すると新しい産業に
周辺
  • 自動車保険は移動距離に応じたサービスが拡大
  • 移動距離に関わる他の業界も拡大(サービスステーション、有料道路など)
移動時間
  • 自動車がスマホに変わる情報端末となりさまざまなコンテンツを配信
  • 移動中のさまざまなサービスが登場・拡大(快眠、エンタメ、教育など)
社会へのインパクト 経済
  • 衰退業界から成長業界への雇用移転
  • 新しいモビリティーインフラへの投資拡大
  • 無力化資産の減価償却(一時的な社会コストの拡大)
社会基盤
  • 交通規制などの社会ルールの抜本的見直し
  • シェアリングや自動運転などの社会システム構築
消費者
  • 無消費からの解放(移動コストの大幅な低減)
  • 消費の二極化拡大(所有・運転志向 VS 移動志向)
  • 交通事故の激減
  • 移動中の余裕時間の増加

出所:三菱総合研究所

5.デジタル時代のゲームチェンジに向き合う

 デジタル技術の民主化は、誰もがアイデアを試すことのできる「終わりのないゲームチェンジ」の始まりをもたらした。

 守るものが大きいほど、足元の脅威に注目しがちだが、それでは新たなチャンスは認識できない。次のゲームチェンジが、いつ、どこで、どのように起こる可能性があるか、メカニズムの理解を通じてシナリオを描き、新たなビジネス機会を主体的に認識できるかどうかで、これからの企業の優勝劣敗が決まってくるであろう。

*1 デジタル技術の普及により誰もがその恩恵にあずかるようになること。

*2 何らかの理由により製品・サービスを消費しない(あるいはしたくてもできない)人々のこと。


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