スプツニ子! 多様性を活かした意思決定を実践していくためには、「ヘルシーコンフリクト」を受容する組織風土が必要不可欠になります。これは、新しいアイデアやイノベーションを生み出すためには「健全な対立」が必要という考え方で、誰もが言いたいことを言い、フラットな議論ができる心理的安全性のある組織文化をつくることが必須です。そうした観点で伝統的な日本企業を見ると、同質性が高く、既存のヒエラルキーのもとで同調圧力がかかって組織の決定に異論を唱えづらく、結局はあうんの呼吸で決まってしまう。これは、イノベーションにつながる新しいアイデアや常識を覆す意見が出しづらいというリスクを抱えています。
籔田 同感です。そうしたリスクに関して、私が「こうありたい」と思うことが3つあります。
1つは、ヒエラルキーが強い組織ほど、トップの責任が大きいということです。組織には上司と部下が存在し、発言力や意思決定力に強弱があります。そうした強い立場の人がそのままであれば、組織はいつまで経っても変わらない。立場が弱い人をどれだけ尊重できるか。上司から変わっていく必要があると強く感じます。
2つめは、これも日本企業の特質の一つだと思いますが、ミドルアップ、ミドルダウン的なコミュニケーション文化があります。これを活かして、トップから現場まで、DE&Iの重要性とその推進に向けた風通しのいい企業文化の実現までをカスケードダウンしていくことが必要だと思います。
スプツニ子! その際、DE&Iを阻む「アンコンシャスバイアス」——無意識の偏見や思い込み、それによって差別し傷つけるつもりもないのに結果的に相手を攻撃し傷つけてしまう「マイクロアグレッション」などについても伝え、日常に落とし込んでいってほしいですね。誰もが陥る可能性があることですから。
籔田 強い立場の人ほどそうしたバイアスや攻撃心を抱きがちという、自らへの警戒心をもってお互いに歩み寄ることが大事ですね。その歩み寄る姿勢に関連するのが、3つめです。
当社の社員は能力が高く、いわゆる優秀な人が多く、自立心も強い。これは大いに歓迎すべきことですが、一方で、大抵のことは自分でできてしまうため、あまり他人から干渉されることを嫌う、ある意味で「おとなの集団」と言えます。そうすると日常業務のなかで、あえて異なる考えや価値観をもつ人、例えばキャリア採用で入った人たちに踏み込んで悩みを聞いたり、意見を求めたりすることを積極的にはしなくなります。そんな人ばかりだと、DE&Iを頭で理解しつつもアンコンシャスバイアスを払しょくし切れず、結局は同質化された人材、組織のままになってしまう。昨年は有識者を招いて、アンコンシャスバイアスの話を聞き、社内にも広く発信しました。今回の対談もそうですが、少しずつでも同質性がもつリスク、多様性が発揮する推進力を組織に浸透させていきたいと思います。
また、若い人の見方は少し異なる印象を持っています。社長に就任以来、社員数名ずつと対話するエンゲージメントトークを続けているのですが、その中で、DE&Iに関して入社2、3年目の若手を中心とする組織を超えた勉強会の場があることを知りました。こうした世代がもつ当事者意識、自発的なアクションを大事にしながら、自由に言え合える雰囲気づくりや、どんな意見でも尊重される組織をつくっていくことがトップとしての役割だと思っています。