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プラチナ人材 第5回:プラチナキャリアと人的資本経営のこれから

「企業と個人の関係性」の変革を目指して

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2024.2.16

事業基盤部門統括室 未来共創グループ

全社連携事業推進本部

人材

POINT

  • 持続的な企業価値の向上には、人材戦略の変革が不可欠である。
  • 目的と施策のベクトル一致、自律的なキャリア形成、スキル再開発支援が重要。
  • アワードでは「開示」と「実践」を両輪とした企業にスポットを当てたい。

プラチナキャリアと人的資本経営の共通点

人生100年時代、「働く期間」の長期化が現実的になってきている中、日本企業における働き方は大きく変化している。さらにポストコロナ時代では、若手からシニアまで自律的に学び、そのスキルをビジネスに活かし、さまざまな社会課題を解決していく必要が生じている。こうした時代に対応するためのキャリア像が、第4回まで解説してきたプラチナキャリアである。

この状況に加え、企業は第4次産業革命やGXの進展、少子高齢化、個人のキャリア観の変化などの環境激変に対応していく必要がある。企業各社は持続的な企業価値の向上に向け、それぞれの経営理念や存在意義(パーパス)まで立ち戻って、事業ポートフォリオの変革や人材戦略の変革に迫られている。これが「人的資本経営」が必要とされる背景の一つである。

近年、環境・社会・企業統治(ESG)への対応が求められる中、企業の存在意義を問い直す過程では必ず、プラチナキャリアが掲げる「社会課題解決」と向き合うことが前提になる。

「人材版伊藤レポート」では、変革の方向性として、企業が個人を囲い込むのではなく、企業と自律した個人が対等な関係で互いに「選び、選ばれる関係」となるべきだとしている(図1)。個人はキャリアを企業に委ねるのではなく、自らの主体的な意思で働く企業を選択し、社会人になった後も継続的に学び直し、時代にあったスキルセットを身につけることが必要だとしている。これはプラチナキャリアにおける「長期的視点」「自律的な学び」とも合致する考え方である。

人的資本経営では、企業の競争優位を支え、イノベーション創出を通じた持続的な企業価値向上や経済成長を支える原動力は「人」であり、社会全体で人的資本の向上を実現することが重要※1と考えている。これも、人材を一種の「社会資本」と位置づけ、その育成と活用を目指すプラチナキャリアの考え方と合致する。
図1 人的資本経営における「変革の方向性」
人的資本経営における「変革の方向性」
出所:「人材版伊藤レポート」より三菱総合研究所作成

人的資本経営で重視すべき視点

人的資本経営は、人材を「資本」とみなして投資し、その価値を最大限引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方※2である。経営戦略実現のために必要な人材への投資を行い、収益を持続的に伸ばしていくことが求められている。

企業価値向上には「資本市場」と「労働市場」からの評価が重要である。人材投資の方針や生産性、採用競争力、企業業績などへの評価が高まれば、市場から「資金」と「人材」が集まり、さらなる投資余力が生まれる好循環につながる。

市場から高評価を得る上では、人材戦略に3つの視点と5つの共通要素が求められる(図2)。その中で最も重要なのは「経営戦略と人材戦略の連動」の視点である。経営戦略では全社的な方針を定め、事業ポートフォリオ、そして事業戦略実現に必要な人材ポートフォリオを継続的に組み替えていく。経営戦略実現に向けて、いつまでに、どのような人材をどれくらい、どのように確保するのか。それを示すのが人材戦略である。例えば、戦略実現上、重要でありながら不足している人材・スキルがあれば、そこを充足させるための施策に重点投資を行う。人材面で裏付けが示されない経営戦略は「絵に描いた餅」である。
図2 人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素
人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素
出所:「人材版伊藤レポート」より三菱総合研究所作成
このように、経営戦略とベクトルがそろわない施策を講じても期待する成果は出にくい。特に上場企業であれば、資本市場から「効果が乏しい投資」と見えてしまう。プラチナキャリア施策として代表的な「リスキル・学び直し」においても、その企業の経営戦略実現につながるよう綿密に設計されているかが重要となる。

もう一つ大事な観点として、人的資本経営では、企業と個人が、互いに選び選ばれる、多様性のあるオープンな雇用コミュニティを推進していくことを求めている。つまり、プラチナキャリアの長期的視点にある「年齢を問わず活躍」という考え方について、人的資本経営では必ずしも組織の枠、すなわち一つの会社で長く働くことにとらわれていない。中長期的な環境変化や戦略変更に適応するため、会社が目指す方針や人材投資に対する考え方を示し、社員の自律的なキャリア形成(社外での活躍・輩出を含む)やスキルの再開発(リスキリング※3、アップスキリング※4、場合によってはアウトスキリング※5も)を支援することが重要である。

第6回アワードで光を当てる「真の人的資本経営」

上場企業では2023年3月期から人的資本についての情報開示が義務化された。この結果、企業から公開される情報は確実に増えてきており、近年はこれらを対象とした表彰も行われている。しかし、多くの表彰は「開示」に基づくものであり、企業価値向上に向けた「実践」が伴っているかまで踏み込んで評価しているものは多くないようだ。

よって今回の第6回アワードでは、開示のみならず実践にも注目している。実践では、人材戦略上の目標設定、現状と進捗状況の把握、目標達成に向けた改善アクションが行われていることがとても大切だ。「社員一人ひとりにキャリア自律を促すとともに、会社のパーパスやビジョン、戦略を社員と共有し、その実現に必要な人材育成・確保に向けた施策、制度、環境を提供しているか」をテーマとして評価を行う予定である。

人的資本経営では開示と実践は両輪である。実践のレベルが低い取り組みでは、中長期的な企業価値向上という成果が期待できない。うまく実践するためには労働市場(内部、外部)からの評価を得ることがポイントである。会社が目指す方針や人材投資に対する考え方を、社員さらには求職者が理解・共感することによって、会社は戦略実現に向けてメリハリの効いた投資や人材の新陳代謝を行うことができる。

今回のアワードでは中長期的な企業価値向上を目的とした「真の人的資本経営」を実践している企業に光を当てていきたい。受賞企業が資本市場、労働市場から高い評価を獲得して企業価値向上を実現していくことで、高い志を持って人的資本経営に取り組む企業が増えていくよう期待したい。

第6回プラチナキャリア・アワードの募集がスタート

第6回プラチナキャリア・アワードは、1月29日に募集を開始した。今回は下記のテーマと4つの重点評価項目に沿って審査を実施する予定である。

テーマ:会社の経営理念と進むべき方向を社員と共有し、その実現に必要な人材育成・確保に向けた環境を提供し、社員一人ひとりの自律的なキャリア形成を支援しているか
  • 環境変化の下、会社の経営理念、戦略さらには求める人材像を社員と共有しているか。
  • 戦略上の観点から必要となる人事施策・制度を検討、実施しているか。
  • キャリア自律支援に対する姿勢をどのように社員に示しているか。
  • 上記施策・制度は社員からの共感を得て、浸透しているか。
プラチナキャリアや人的資本経営に関心をお持ちの方は、以下のサイトからぜひ応募していただきたい。

このコラムについて

以上、プラチナキャリアの必要性と同アワードの実績、人的資本経営との関連について述べてきた。 近年注目が集まる人的資本経営や人材戦略の策定・実行に強い関心をお持ちの方は、こちらもぜひご一読いただきたい。
経営戦略や人材戦略に携わる多くの方の参考になれば幸いである。

※1:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」(2020年9月)

※2:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html(閲覧日:2024年2月13日)

※3:社内で異なる職種・職務に就くために新しいスキルを習得すること

※4:現在の職種・職務でステップアップするためにスキルを高めること

※5:成長業界や他社への就職に役立つ需要の高いスキルを習得すること

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