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汎用AI 第4回
ヒトを超える賢さをもつAIを実現し、そのAIがヒトに寄り添う社会

汎用AIが生み出す知能加速社会の可能性

未来構想センター 武田 康宏 2020.05.15

今回は、汎用AIが実現する社会、すなわち、AIが人間の知能を超える「シンギュラリティ」が実現する社会(=シンギュラリティ到来社会)の可能性と、その逆シナリオ、つまり、AIが人間知能を加速させ続ける社会(=知能加速社会)の可能性に触れてみたいと思います。

シンギュラリティ到来社会の可能性

まずは、汎用AIに対する懐疑論・脅威論を見てみましょう。すでに言われているように、汎用AIの実現に対する懐疑論、脅威論は欧米を中心に根強く存在します。

例えば、認知ロボット工学者のマレー・シャナハン氏は、脳の神経細胞の模倣で人間の知性を実現することは難しいと指摘します。神経回路網は脳以外の身体にも存在するからです(『シンギュラリティ 人工知能から超知能へ』)。一方、オックスフォード大学FHI(Future of Humanity Institute)教授のニック・ボストロム氏は、著書『スーパーインテリジェンス 超絶AIと人類の命運』の中で、近未来に人類の英知を結集した知力よりもはるかに優れた超絶知能(スーパーインテリジェンス)が出現し、人類が滅亡のリスクに直面するとしています。さらに、未来学者エイミー・ウェッブ氏も著書『The Big Nine』で、汎用AI(AGI: Artificial General Intelligence)およびその先のスーパーインテリジェンス(ASI: Artificial Super Intelligence)の登場と、現在の米中における巨大IT企業の行く末をセットで描いています。

では、シンギュラリティ到来社会で、人間はどういう存在になっているでしょうか。何を考えるにしても、何を解くにしても、常にAIが上回る社会。そうなると人間は、AIが介在しない分野、例えば身体性を生かしたスポーツ、アート、自然環境との共生を主眼としたライフスタイル、などの中に楽しさを追求し続ける存在になっているのかもしれません。また、仕事においては、人間がAIを同僚としながら、今では想像できないような業務に当たっている姿も目に浮かびます。いずれにせよ、人間はかつての古代ギリシャのように幸福のあり方を議論し、自らの幸福を追求する傾向となっていくことが考えられます。その中で、あえてAIを使わずに生きる「脱AI派」、よりAI依存を進めたい「AI依存派」、AIと程よい距離で付き合う「AI共生派」に分かれ、どの派閥に加わるかによって国のあり方まで変わっていく可能性まであります。

ここで、シンギュラリティ到来社会の可能性を考えてみましょう。それが本当に来るのか、来るとしてもその時期がいつか、を予測することは極めて困難であり、当座は「分からない」が正解なのかもしれません。汎用AIの実現方式自体にも課題が山積しています。ただ、2045年とも、2070年とも言われるその「時期」においては、少なくともAI技術は現在よりも格段の進化を遂げているはずであり、汎用AIを目指す過程で思いもよらぬ技術が創出される可能性も高いと言えるでしょう。

AIの労働代替による脅威も根強く危惧されています。しかしAIの進展によって、人間は自身の価値を毀損(きそん)されるだけでしょうか。今後人間が、よりユニークな存在としての価値を保ち、生きていくための鍵は、想像力・発想力を活かして技術を賢く使う人間、すなわち「技術賢使」になれるか否かに懸かっています。技術賢使にあふれた知能加速社会において、AIは脅威を感じる対象ではなく、むしろ自らの知能を引き出し、高めるパートナーとなっているはずです。そんな社会が実現するポジティブな可能性とその姿を描いてみましょう。

知能加速社会の可能性とその姿

知能加速社会とはどのようなものでしょうか。

知能加速社会のイメージ

出所:三菱総合研究所

知能加速社会においては、技術賢使たる人間は、AIによる判断や、ゴールに至った考え方から学び、新しい思考法・発想法を体得していきます。つまりAIは人間の過去の経験データや機械同士の経験から学びますが、人間はさらにそのAIが導き出した結論や過程から学んでいきます。また人間はAIの能力改善に努め、より良い使い方を考えます。このサイクルを通して、人間は常にAIに先んじることができます。そして、人間の知能はAIによって加速されていくことでしょう。

現状のAIはパターン認識であり、結果は確率値でしかないため、AIならではの発想力はありません。一方、人間にはパターン認識力に加えて、直感や発想力をもちます。経験の数で言えば、大量のデータから学習ができるAIにはかないませんが、直感や発想力といった人間にしかない能力は、AIの経験値や考え方をフル活用することでさらに高めることができます。将来、AIが進化して発想力をもったとしても、人間はその発想力さえも使って、自身の「脳力拡張」につなげられるに違いありません。

AIを使いこなす人間の姿として、有効でかつ新しい手を考え続ける棋士、常に打者の裏をかく配球ができる投手、確率の低い疾患の可能性も探索して原因不明の患者に的確な診断を下す医師、全く新しいフレーズを創造できる音楽家、新たな画風を取り入れられる絵師、異分野の発想視点を常に取り入れられる研究者‥‥‥など、さまざまなイメージが浮かんできます。また、AIの使い方を指南する教育需要が高まるなど、新たな市場が生まれる可能性もあります。そんな社会では、新しい多様な職種、役職の誕生に加えて、発想力の進展から、これまでにない芸術・文化世界が花開くかもしれません。そんなポジティブな未来の可能性に期待しつつ、AIの進展を注視していきたいと思います。

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