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コミュニケーション 第3回
ポストコロナ社会におけるオンラインコミュニケーションの進化

オンラインコミュニケーションによる小売・金融サービスの進化

先進技術センター 中村 裕彦 2020.11.27

はじめに

コロナ禍を契機としてオンラインによるコミュニケーションは一気に加速しました。現在の一般的な動画像・音声ベースのオンラインコミュニケーションでは、相互に伝達できる情報量は実際の対面コミュニケーションに比べ少なくなります。一方で利用が進むにつれ、時間的・空間的な制限が大幅に緩和されること、コミュニケーション時に情報の検索・表示・記録などのさまざまな情報ツールのアシストが得られることなどの利点が認識されるようになりました。オンラインによるコミュニケーションはポストコロナ期になっても有用なコミュニケーションツールとして社会に定着することが予想されます。

現時点ではオンラインコミュニケーションツールには限界も多いものの、多様な技術開発が進められることにより、将来は対面コミュニケーションに迫る、または対面コミュニケーションを凌駕しうるオンラインコミュニケーションが実現できると期待されます。今後の関連技術開発の展望については、第2回のコラムをご参照ください。

今回のコラムでは、「オンラインコミュニケーション」の範囲を、遠隔拠点間の人と人との意思・情報の伝達に加え、人と機械との意思・情報伝達まで含むものとして捉え、オンラインコミュニケーションが小売業、金融業のサービスにどのように展開されるかに関する将来ビジョンを検討します。

小売業のサービスに期待される機能

小売業と一口に言っても、取り扱う商材も、販売形式も、価値の源泉も多様です。ここでは、小売業が販売する製品を、①「機能価値重視型製品」(日用品、汎用品等機能価値を重視した商品)と、②「情緒価値重視型製品」(ブランド品、工芸品等機能価値は大前提とした上で、情緒的価値を重視する商品)に分けて考えることにします。

「機能価値重視型製品」については、昔は、「安かろう・悪かろう」という言葉に象徴されるように、安価なものと高価なものの間には機能・性能に大きな開きがあったことは事実です。しかし、近年では世界的に生産技術の水準が向上し、製品管理体制などについても一定の水準が期待できるようになりました。また、多くの国・地域では、商品の多くが相対的に供給超過状態になっていることから、機能価値を重視した商品のコモディティ化が進んでいます。コモディティ製品の差別化のためには、他社よりも低価格であること、他社よりも容易に入手できることの2点を追求することが一般的です。

一方、ブランド品や、カスタマイズされた商品、少量生産の工芸品やこだわりの商品など、情緒的価値を重視する「情緒価値重視型製品」の場合、事情が異なります。もちろん、情緒的価値を重視する商品であっても、機能が期待される基準を満たしていることは大前提ですが、基本機能が高ければ商品力が高くなるということにはなりません。購入・所有から使用、廃棄にいたる商品のライフサイクル全体を通して、顧客満足度を最大化させることが重要となります。

これら「機能価値重視型製品」と「情緒価値重視型製品」では、何が(誰が)オンラインコミュニケーションの主体になるのか、またオンラインコミュニケーション技術をどう活用するのか、それぞれ異なります。
「機能価値重視型製品」では、低価格化と調達の容易性を追求するが故に、顧客と機械(AI)とのコミュニケーションが中心的役割を果たすと想定されます。
「情緒価値重視型製品」は、商品のライフサイクル全体を通じて顧客満足度の向上を目的とするため、AI等のバックヤードでの支援を前提としつつも、店舗側の人が前面に立つオンラインコミュニケーション技術が活用されると想定されます。

オンラインコミュニケーションで進化する小売業のサービス

図1に、小売業のサービスにおけるオンラインコミュニケーションサービス普及ロードマップを示します。

図1

小売業におけるオンラインコミュニケーションサービス普及ロードマップ

出所:三菱総合研究所

この図の最上部は、オンラインでの意思伝達手段の変遷イメージを示しています。対機械・対人の主要なオンラインコミュニケーション技術として、テキストベースから、音声・画像ベースへ進化し、五感ベースでの高度な商品情報伝達を活用するに至り、その後は人が関与しないAI to AIによる自律的な購買が普及すると想定されます。

(1) 機能価値を重視した製品のロードマップ

「機能価値重視型製品」の場合、顧客が重要視するのは、調達が容易であることと、低価格であることです。調達の容易化を改善するためにリアル店舗のオムニチャンネル化が図られ、オンラインコミュニケーションツールの利用が一般的となります。なおここで言うコミュニケーションは、顧客と店舗側AIとのコミュニケーションを想定しています。
現在のECサイトの多くは、商品の検索はテキストベースかつ検索ベースで行い、商品購入の意思決定はボタン操作で行いますが、近い将来のECでは、音声やジェスチャーによる顧客の意思表示に柔軟に対応して、適切な商品推奨や販売処理を行うことが一般的となります。商品の輸送も、近隣のリアル店舗からの配送が多用されるようになり、配送手段の自動化の進展とともに、リアル店舗は配送拠点としての役割が中心となります。究極的には、人が関与しなくても、顧客の自宅のAIと店舗のAIが相互に連携し、日用品や消耗品の補給を自律的に行うような未来も想定されます。

(2) 情緒的価値を重視した製品のロードマップ

「情緒価値重視型製品」の場合、商品そのものに加え、店舗の雰囲気、立地、接客やアフターサービス、使用済み商品の処分方法等、購買・所有から利用、廃棄に関わるあらゆる体験が価値の源泉となります。これら一連の体験価値を顧客に提供し、店舗やブランドへのロイヤリティを向上させるための有力な手段として、オンラインコミュニケーションツールが活用されます。
訓練されたプロによる接客は、顧客の体験価値の向上、店舗・ブランドへのロイヤリティ向上に大きく寄与します。しかし人的リソースは有限であることから、プロによる接客は商品の販売時、特に高額商品の販売時に集中せざるを得ませんでした。しかし、AIやバックヤードの自動化を進めて人的リソースを支援し、オンラインコミュニケーションツールをも有効に活用することで、商品のライフサイクル全体を通して顧客満足度を高めることができます。また、リアルとバーチャルをうまく融合させることにより、時間と空間の制約を超越して海外や地方等の対象顧客を増やしたり、店舗・ブランドのファンを拡大したりということも期待されます。

金融業のサービスに期待される機能

ここでは、金融業のサービスのうち、一般個人向けの金融サービスについて記載します。 金融サービスは経済合理性を追求するものであり、①振り込みや借り入れなど各種金融サービスに伴う手数料は可能な限り安価に、②各種手続きは可能な限り簡便かつ迅速に、③取引は安全かつ確実に、という顧客の基本的要求は不変です。
よって金融サービスは、顧客資産の安全な取引を大前提にした上で、定型業務の自動化、無人化、オンライン化を進めることが重要となります。一方で、金融サービスは多様な顧客に広く提供するものであることから、顧客の多様なITリテラシーに対応できる体制を構築することも重要となります。

オンラインコミュニケーションが支援する金融サービス

金融サービスのオンライン化により、在宅で振り込みや借り入れ、投資などのサービスを受けることができます。この種のサービスは、利便性が高いため、資産の安全性さえ担保されれば、ポストコロナ期においてもますます利用が進むと期待されます。

一方で、無人化、オンライン化により人の介在する場面が縮小することにより、一般消費者が詐欺やフェイク情報に直接さらされる危険が増大します。この危険を回避するための手段の1つとして、オンラインコミュニケーションツールの活用・援用が考えられます。
例えば、現在のオンラインバンクの場合、基本的にはIDやセキュリティーコードのようなテキスト入力での認証が一般的ですが、今後は本人認証がより確実なバイオメトリックス認証、特に顔認証などが普及していく可能性があります。また、振り込み詐欺のようにターゲットの心理状態を操作して、冷静な判断ができないようにするケースへの対策として、本人の感情をAIが読み取り、異常を検知した場合に、担当者に連絡するといった利用が想定されます。異常の連絡を受けた担当者が顧客とオンラインコミュニケーションをとり、対話することで、顧客の心理状態を操作するような詐欺被害の防止に繫がる可能性があります。

また、オンラインコミュニケーションにより、低コストで金融商品や保険商品のリスク、または利点などについてコンサルティングを提供するようなサービスが普及すると予想されます。

オンラインコミュニケーションで進化する金融業のサービス

図2に金融業におけるオンラインコミュニケーションサービス普及ロードマップを示します。

図2

金融業におけるオンラインコミュニケーションサービス普及ロードマップ

出所:三菱総合研究所

(1) 銀行

店舗のフロント無人化(バックヤードで有人がサポート)からはじまり、決済サービスのほとんどは最終的に自動化されます。顧客はオンラインで決済することが一般的となりますが、本人確認に加え、本人が異常な心理状態になっているか否かを判断するような顔認証・感情認証などにより詐欺やなりすまし対策がとられます。専門サービス(貯蓄、借り入れ等)についてはその分野の専門家が遠隔・オンランで対応できるようになります。

(2) 投資

ESG投資等の延長線上に、自身の資産を社会的に意義のある(好感の持てる)事業や企業に投資する直接投資が増加しますが、その事業や企業の信頼度、開示された情報の意義、活動状況などを分析し、顧客の意思に適した商品をオンラインでアドバイスするようなコンサルタンティングが普及します。投資先のメンバーが、活動状況を投資元にオンライン・双方向コミュニケーションベースで開示するような活用が想定されます。

(3) 保険

総合的な信用情報の活用が広まり、さまざまなセグメントを対象とした複雑な保険が商品化されます。このような複雑な商品を顧客のニーズに沿って解説し、顧客に適した商品を提案するようなオンラインコンサルティングが行われるようになります。

小売業、金融業のオンラインコミュニケーションサービス普及の条件

「機能価値重視型製品」の小売業は、低価格化に加え、顧客が購買に費やす手間をいかに減らすことができるかが競争力の鍵となります。利用の主流になるのは無人店舗的な利用と想定され、商品検索や購入の手続き時の顧客の自然言語やジェスチャーを、システム側(AI)が認識し、適切に応答するようなオンラインコミュニケーションが求められます。また購入後、顧客の手元まで高速かつ安価に配送するための物流インフラの発達が普及の鍵となります。

「情緒価値重視型製品」の場合、いかに商品のライフタイムを通じて良質な体験価値を提供できるかが競争力の源泉となり、オンラインコミュニケーションツールは、顧客との関係性の構築・維持を目的とした活用が想定されます。リアル店舗の雰囲気の充実に加え、店舗をバーチャル空間に拡張し(デジタルツイン店舗)、さまざまなVR技術やテレイグジスタンス技術などを活用して、遠隔の顧客にもリアルな体験を提供するような仕組みの整備が必要となります。小規模な店舗でもこのような仕組みを取り入れることができるようなVRプラットフォームやテレイグジスタンス用のアバターのサブスクリプションサービスの充実も重要です。

金融業の場合、オンラインサービスそのものは今後とも進展していくでしょうが、オンラインコミュニケーションツールの活用については限定的であると予想されます。
バイオメトリックス認証(顔認証)や、人の心理状態を考慮した詐欺への対策ツールなどとして、オンラインコミュニケーションツールを援用することは有用だと思われますが、この種の応用には、個人情報利用に対する社会的コンセンサスが醸成されることが課題となるでしょう。

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