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コミュニケーション 第4回
ポストコロナ社会におけるオンラインコミュニケーションの進化

オンラインコミュニケーションが進化させるホワイトカラーの働き方

先進技術センター 飯田 正仁 2020.11.27

はじめに

新型コロナウイルス感染拡大の中で、多くの労働者が働き方の変化を求められ、特にホワイトカラー労働者の多くがテレワークへ移行しました。企業サイドもテレワークのメリット・デメリットを分析しており、新型コロナウイルスの感染収束後もテレワークを継続、あるいは本格導入する企業が多いと考えられます。テレワークのデメリットを補う、あるいはテレワークのメリットを伸ばすさまざまな技術の導入により、この動きは今後も加速されるでしょう。
本コラムでは今後数十年で起こると予想されるホワイトカラー労働者の働き方について、テレワークに関連するサービスの進化と、HRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)に関連するサービスの進化の両面から見ていきたいと思います(図1)。

図1

テレイグジスタンスで変わるホワイトカラー労働者の働き方と周辺サービス

出所:三菱総合研究所

テレワークに関連するサービスの進化

テレワークを支えるオンラインコミュニケーションツールは、今後の音声認識技術や自然言語処理の技術の進歩により対話効率が向上します。具体的にはAIが相手の発言内容を理解して適切な対応選択肢をアドバイスするなどが考えられます。さらに現実空間の情報から仮想空間を構築するVR技術やAR技術が進歩することにより、言葉や資料だけでは伝えられない内容を効率的に相手に伝えられるようになります。対面でのコミュニケーションを超えるパフォーマンスが、テレワークでは実現できるようになるでしょう。
以下にその進化像を時系列で見てみましょう。

2020年代:AIによるテレワークの進化

2020年代には、主にAI技術を活用することでテレワークが進化します。具体的には、AI技術を活用したコミュニケーションサービスやボイスマイニングのサービスが普及するでしょう。
これらのサービス普及により、顧客対応シーンでは、リアルタイムで回答候補をオペレーターにレコメンドしたり、顧客との通話内容から関連するナレッジを自動参照したりすることが可能になります※1。また 例えば、営業シーンでは、AIが顧客の発言の意図や心理を分析して営業マンに助言します。営業部員全員の営業シーンの対話データから学ぶべきポイントをAIが分析し、それを部員のスキル向上に役立てることもできます。
このように、AI技術によってオンラインコミュニケーションツールとCRM(顧客管理システム)・グループウェアが相乗効果を発揮するようになり、テレワークが進化していきます。

2030年代以降:VR・ARによるテレワークの進化

さらにその先の2030年代以降は、これまで対面での業務が中心だった領域にもVR・AR技術が活用されることでテレワークが一層進化します。例えば 、工場見学や商品案内が、デジタル空間上でも可能になるようなサービスが進展するでしょう。顧客にHMD(ヘッドマウントディスプレー)と触覚グローブを装着してもらい、リモートで自社製品の疑似体験をしてもらいながら営業ができるようになります※2。

HRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)に関連するサービスの進化

テレワークなどのオンラインコミュニケーションツールなどで得られるデータは、就業者の心身の健康状態の向上、モチベーションの向上、能力開発にも活用されるようになります。従来のような個人個人の頑張りに頼るやり方ではなく、 科学的に就業者個々に適したHRMができるようになります。
以下にその具体例を見てみましょう。

組織パフォーマンス向上、人材育成・能力開発・心身健康管理での活用

HRMにおいては当面、コミュニケーションや活動データを組織パフォーマンス向上のために用いるサービスや、同データに基づく人材育成・能力開発・心身健康管理に活かすサービスが普及するでしょう。具体的なサービスとして、従業員の幸福度を見える化・計測し、マネジメント支援に活用するアプリケーションが出始めています※3。

集中力向上やメンタルヘルスでの活用

デジタル空間上での活動が増えると、リアルでの活動との相違から、心身に不調を訴える人々が増えると想定されます。そのような状況への対応として、デジタル技術を用いて集中力を高めたり、心の不調を治療したりするようなサービスも検討され始めています。
具体例としては、イヤホンから集中度・疲労度などを脳波でモニターし可視化する研究※4や、考え方の癖を変えるための心理療法の1つである「認知行動療法」を応用して、RPG(ロールプレーイングゲーム)を用いてうつ状態を改善する研究※5などが行われています。

テレワークサービス・HRMサービスを普及させるポイント

テレワークに関連するサービス、HRMに関連するサービスともに、普及のポイントは以下の2点になります。これらの普及のポイントをクリアして「テレイグジスタンスサービス」が普及することにより、ホワイトカラー労働者の働き方は時間と空間の制約から開放され、新しいワークスタイルの変化が加速するでしょう。

普及ポイント1 :リアル/オンライン利用シーンの使い分け

一つ目のポイントは、リアル/オンラインの利用シーンの使い分けです。
テレワークによる働き方はまだ始まったばかりであり、メリット・デメリットともに、これから多くの知見が蓄積されていくでしょう。テレワークの浸透によって、人々の仕事や生活に対する意識にも変化が生じ、それに応じてインフラも変化します。リアルな対面による事業活動とオンラインによる事業活動の使い分けに関する社会通念の醸成や、心身健康管理の手法におけるデジタル技術とリアルな対面との使い分けについての知見の蓄積などが求められます。

普及ポイント2:社会全体の受容性

二つ目のポイントは、社会全体の受容性です。
テレワークに関連するサービスのうちコミュニケーションマイニングやボイスマイニングなどでは、顧客の音声データなどを取得する必要があるため、個人情報の取得に関する社会全体でのルールの整備が必要です。
また、HRMに関連するサービスでも、個人の幸福度を測定したりデジタル技術を用いて精神疾患を治療したりするために個人情報を取得する必要があり、同様のルール整備が必要です。

労働中核世代の遷移による社会状況の変化

技術の変化と共に、労働者の中核となる世代の遷移によっても、社会状況に大きな変化が生まれるでしょう。
2030年代には、新たな就労観をもつ「ミレニアル世代(1980年代から1990年代後半の出生)」以降が労働力人口の半数を超えます。ミレニアル世代の約半数が、現在の勤務先で働く期間を「2年以内」と回答しているアンケート結果もあり※6、働き方や働くことの意味・価値観自体も大きく変化すると考えられます。
2040年代には、子供の頃にコロナ禍を経験したZ世代(1990年代後半以降の出生)が中核となり、ポストコロナ世代として登場します。 バーチャル世界への親和性が高く、社会全体のオンライン化の流れを加速させるでしょう。
これらの労働中核世代の遷移によって生まれる社会状況の変化を以下に見てみましょう。

変化1 :労働・活動の形態

2020年代は、テレワークを始めバーチャル空間での労働の浸透が加速し、2030年代には、バーチャルを中心に個人が複数の企業・組織で活動するようになります。さらに先の2040年代以降は、海外にいながらデジタル空間で共に活動するデジタル移民とアバターが さまざまな場で活動することが普通の社会になっているでしょう。

変化2:社会インフラの形態

働き方の変化に伴って、社会インフラにも変化が生じます。
既にリアルとバーチャルのハイブリッドな働き方が浸透しつつありますが、2020年代には、個室オフィスの普及や事務手続きの完全デジタル化などが進展します。
2030年代には、個人が複数の企業・組織体で活動するためのプラットフォームや、自分の住む場所を固定しない住居サブスクリプションサービスなども普及するでしょう。
さらに先の2040年代以降には、都市や組織の構造がデジタル移民やアバターの活動が前提で設計され、人々(デジタル移民やアバター含む)はリアル・バーチャルハイブリッド型の都市インフラのもとで 活動しているかもしれません。経済活動の意味や価値観も、現在とは大きく異なるものになっていることでしょう。

※1:NTTテクノロニクス「ForeSight Voice Mining(フォーサイトボイスマイニング)」
https://www.ntt-tx.co.jp/products/foresight_vm/function.html
(閲覧日:2020年9月25日)

※2:NTTコミュニケーションズ「仮想現実ソリューション 営業活動におけるVRの活用」
https://www.ntt.com/business/solutions/communication-and-collaboration/vrsol/scene1.html
(閲覧日:2020年9月25日)

※3:ITmedia NEWS「日立、従業員の“幸せ”見える化する新会社 幸福度計測でマネジメント支援」周囲の幸せや組織への貢献度を計測できるアプリ
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2006/30/news127.html
(閲覧日:2020年9月25日)

※4:PR TIMES「東京大学とVIE STYLE、脳波×AIで共同研究を開始イヤホン型脳波計「VIE ZONE」から集中度・疲労度を解析し、生産性を支援するAIの共同研究を開始」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000067474.html
(閲覧日:2020年10月14日)

※5:日経クロステック「デジタル技術で「心の不調」を治療へ、ゲームやVRに医師が注目する理由」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01352/00002/?i_cid=nbpnxt_reco_atype
(閲覧日:2020年9月25日)

※6: MRIマンスリーレビュー2020年1月号「『ミレニアル世代』が変える働くことの意味」

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