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2020 MYPAGE
PROJECT STORY 03 地域通貨×ブロックチェーン

大規模社会実験を通して、
地域経済の活性化を目指す

『ハルカスコイン』社会実験プロジェクト

INTRODUCTION

ブロックチェーン技術を地域活性化に結び付ける

2017年10月、大阪のあべのハルカスを舞台に、百貨店の約200店舗、一般モニター5,000人が参加する「仮想通貨システム」の社会実験が行われた。

社会実験では、利用者のスマートフォンに予めアプリケーションをダウンロードしておき、店舗側のタブレット端末に表示されるQRコードを読み取ることで決済が完了するという、シンプルな仕組みを採用。おサイフケータイなどの電子マネーに似ているが、その裏には「ブロックチェーン技術」が用いられている。

ブロックチェーン技術は、「分散型台帳」を実現する技術である。特定の台帳管理者を置かずに、多数の参加者がネットワーク上で台帳を共有するため、改ざんされにくいという特長がある。専用カードや端末類が不要なため、地域通貨の発行・運用・管理にかかるコストを一気に低減できる。さらに、電子マネーにはない貨幣機能の「転々流通性(※)」を実現することが可能だ。
※転々流通性:紙幣や硬貨と同様に、個人から個人への直接送金なども可能であること

地域特性や課題に応じた「仮想地域通貨」の利用が広がり、独自の経済圏が形成されれば、地域経済やコミュニティの活性化が期待できる。本プロジェクトは未来の地域経済のあり方を考える上で、選択肢を広げる画期的な試みだ。

MEMBER

奥村 拓史- Hiroshi Okumura -

2006年入社/コンサルティング部門 イノベーション・サービス開発本部 先進サービス開発グループ/経済学研究科 経済システム分析専攻 修了
大手私鉄ホールディングス会社やメガ銀行、大手通信会社とブロックチェーンのスタートアップ企業が参加するオープンイノベーション型プロジェクトにおいて、全体を統括するPMの役割を担う。

早川 玲理- Reiri Hayakawa -

2006年入社/シンクタンク部門 地域創生事業本部/新領域創成科学研究科 環境学専攻 修了
実験モニターとなる沿線生活者の特性をふまえ、モニターのセグメント設計、実験の検証項目検討、実験後のアンケート作成など、実証計画の策定支援を担う。

PROCESS

地域通貨の可能性に挑む

地域通貨への期待は、流通エリアを限定することで地域経済を循環させることにある。死蔵させないよう、時間の経過に応じて、減価や消滅を可能にすることで、流通を促進するアイデアはずっと以前からある。しかし、それを数万人、数百万人の規模にまで拡大しようとすると、発行残高や価値の調整、不正防止といった面で管理が複雑化する。これが、技術面、運用・管理面のいずれにおいても課題であり、普及を妨げる要因となっていた。

社会ICTイノベーション本部の奥村拓史は、ブロックチェーン技術を用いることで地域通貨の技術面の課題を解決できないかと2015年頃から研究を重ねてきた。やがて、三菱総研独自の「仮想通貨システム」の開発に至る。これは、プレミアムの付加や価値の調整といった流通を促進するさまざまな仕掛けを備えると同時に、ブロックチェーン技術を組み込むことで効率的で安全な取引を実現するものだ。

この仮想通貨システムの社会実験を検討する最中、大手私鉄グループから、「最新の技術による新たな沿線活性化策」の提案依頼があった。

前例のない大規模社会実験

人口減少時代に突入した現在、鉄道会社の最重要課題は、沿線地域の魅力を向上させて、沿線の人口流出を防ぎ、人口流入を促進することである。この課題解決のため新たな沿線活性化モデルを模索・研究していた大手私鉄グループと、独自の仮想地域通貨システムをテコに地域創生を図りたい三菱総研のベクトルが一致。奥村の提案は、スムーズに受け入れられ、その瞬間から大規模社会実験に向けて走り出すこととなった。

「しかし、実経済における前例がなく、法制度も未整備です。実験内容によっては、どの法令に従うべきなのか、監督官庁と相談しながら進めなければなりません。また、30名ほどの参加者を募って社内に仮想市場をつくった小規模社会実験では、決済が正常に行われること、通貨の流通速度が向上することは確認できていましたが、リアルな市場で規模が大きくなるとどうなるかわからないという不安があったのも事実です」

そのため、まずは数千人規模での実験により、技術面・運用面における課題を抽出することに主眼を置いた。それが、あべのハルカスで行われた仮想地域通貨『ハルカスコイン』の社会実験である。大手私鉄グループのカード会員5,000人を募り、現金5000円に対してあべのハルカス内の約200店舗で使える1万円のハルカスコインを発行。1カ月間にわたって実験を行うことにした。

実験デザイン・評価手法の組み立てには、地域創生事業本部から早川玲理が参加。

「利用者は自分のスマホに専用アプリを、店舗側は配布したタブレット端末に専用アプリをダウンロードし、QRコードを読み込んで決済します。スマホに慣れていないユーザーでもスムーズに使えるか。百貨店のライトユーザーにも効果はあるか。実験から有益な示唆を得るためには、検証項目やモニター募集の考え方など、緻密に設計する必要がありました」

現場の声に耳を傾けながら

実験が始まってからしばらく、大阪に泊まり込んで現場に張り付いていた奥村は、予想通り問い合わせやトラブルへの対応に追われることになった。

「アプリの操作方法が分からない、決済に時間がかかるなど、お客様だけでなく店舗スタッフからもたくさんのサポート依頼がありました。実験が始まってから1週間ほどはあちこちの店舗を走り回っていましたね」

しかし、開始から1週間もするとみるみるうちに操作に慣れていき、呼び出される回数も減っていった。はじめの数日間は不機嫌だった店舗スタッフの機嫌もよくなり、「慣れれば簡単。またやろうや」と声をかけられるようにもなったという。

「お客様で混雑する食品売り場では、レジ処理に時間がかかるのを敬遠して参加を見送った店舗もありました。でも、参加店舗の売上が上がったことで、次回からは参加させてほしいという声もいただけました」

何より、技術的なトラブルが一つも起きることなく、5,000人規模でも問題なくシステムが機能することを確認できたのは大きな前進だった。

RESULT

最初のハードルをクリア、次のステージへ

あべのハルカスにおける社会実験によって、シニア層でもスマホ決済に問題なく対応できること、現金やクレジットカード決済に比べて、決済時間を短縮できることがわかった。また、参加者アンケートの結果も概ね好評で「簡単便利」、「導入されたら使いたい」という声が大半を占めた。

「これは、スマホを使ったモバイル決済が今後日本でも大きく普及する可能性があることを意味します。現金がデジタル通貨に置き換わるメリットはとても大きい。キャッシュレスな社会は現金流通にかかる輸送などのコストを下げるだけでなく、偽造紙幣、脱税などの現金社会ゆえにもたらされる課題解決につながる可能性があり、さらに生産性の向上も期待できることを示唆しています。また、今回はハルカスコインを使ってもらうために5000円分ものプレミアムポイントを付けましたが、プレミアムの付与により一定の新規消費誘発効果が期待できることも確認できました。今回の実験結果を踏まえて、次の社会実験の設計をどうするか、検証軸をどこに据えるか検討を進めているところです」

今後は、さまざまな条件をコントロールしながら仮想通貨の流通速度を検証したり、大手私鉄グループ以外の地域のプレーヤーや沿線自治体を巻き込んだりして、さらに大規模な社会実験を実施したいと考えている。しかし、さまざまな地域のプレーヤーが参加するとなると、「地域の参加者を巻き込んでいくこと自体が高いハードル」と早川は語る。

「あべのハルカスでは大手私鉄グループが調整・推進などの運用主体となり、関係各社やテナントを巻き込むことでスムーズに社会実験を行うことができました。一方、地域の商店街や自治体などとなると、そうはいきません。仮想地域通貨とは何か、何がメリットなのか、リスクは何かなど、基本的なことから丁寧に説明し、理解を獲得していかなければなりません」

参加人数や店舗数が増えていけば、システムへの負荷も増していく。そうなれば決済処理速度が遅くなり、システムの安定性も低下してしまう。ブロックチェーン技術は進化しており、処理速度を上げる技術も登場しているが、システムに実装して検証されているわけではないため、実運用に耐えられるか不透明といわざるをえない。今後も社会実験と試行錯誤が欠かせないのだ。

FUTURE

自立循環型エコシステムによって地域を豊かに

地域に仮想通貨システムを実装することで実現したいゴールは、「自立循環型エコシステムの実現」だと奥村は語る。

「地域独自のデジタルマネー=地域コインを流通させ、地域の中核産業の発展や特産品の販売、観光客誘致などによって経済を活性化させることで、地域独自の循環型経済圏を形成することができるはずです」

現在、国の予算の何割かを地域へ分配し、特産品や観光資源を活用して地域の活性化を促進しようという流れができている。しかし、貨幣・金融にかかる政策やシステムは一元的だ。地域には独自の特性や課題があり、それゆえに地域の景気も一様ではない。一元的な政策が有効に働く地域もあればマイナス面を被る地域もあるだろう。この状況を打破するには、地域で流通する仮想通貨を持つことが解決策の一つになり得る、というのだ。

「たとえば、現金だと割高で購入を躊躇していた地元農産物も、地域コインにプレミアムを付けることで価格差がなくなれば、地元愛も相まって、積極的に買うようになるかもしれません。このように、地域コインの流通範囲内で仕入れ、販売、消費したほうが経済的メリットを享受できるとなれば、地域内でモノと通貨が循環し、経済は活性化されます」

地域創生を考えるとき、どのように地域の「独自性」を発揮するかが重要な視点となる。仮想地域通貨は、地域の活力の源となりうるものであり、大きな期待が寄せられている。だが、課題は山積しており、一つずつクリアしていかなければならない。今回のハルカスコインのプロジェクトによって、三菱総研は仮想地域通貨の社会実装に向けた取り組みのスタートラインに立ったばかりだ。「自立循環型エコシステム」未来像を現実のものにすべく、三菱総研の挑戦はこれからも続く。