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2020 MYPAGE
PROJECT STORY 05 原子力×廃炉に向けて

廃炉への道のりに欠かせない、
高度な技術開発を支える

廃炉・汚染水対策の研究開発支援プロジェクト

INTRODUCTION

関係者の足並みを揃え、高度な技術開発の要請に応える

2011年3月。東日本大震災の影響により、福島第一原子力発電所は炉心融解に至る重大な事故を引き起こした。同年12月には1号機から4号機の廃炉に向けた工程が発表され、現在も廃炉作業が進められている。

原子炉建屋内は、高い放射線量により人が立ち入ることが困難な状態であり、内部の状況を詳細に把握することが難しい。原子炉格納容器に溶け落ちた燃料(燃料デブリ)を回収しようにも、飛散箇所の把握や回収方法、取り出し後の保管や廃棄物対策など課題が山積していた。同時に、流れ込む地下水や雨水により増加する汚染水にも対策を打たねばならない。廃炉作業には高度な技術が求められた。

そこで、必要な技術の研究開発を国が主導すべく、2014年に「廃炉・汚染水対策事業」が立ち上がる。研究開発を希望する事業者に対して補助金を交付し、得られた成果を廃炉に活用することを目的とした事業である。

廃炉・汚染水対策事業は資源エネルギー庁(以下エネ庁)が管轄し、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下NDF)、東京電力ホールディングス(以下東電)、外部有識者、補助事業者など多数のステークホルダーが存在する。関係者の心と足並みを揃え、廃炉に向けた研究開発を着実に進めなければならない。その調整の要となる「廃炉・汚染水対策事業事務局」を三菱総研が担っている。

MEMBER

松本 昌昭- Masaaki Matsumoto -

1997年入社/原子力安全事業本部廃炉推進グループ 主席研究員/理工学研究科 機械工学専攻 修了
原子力安全に長年関わり、本プロジェクトでは立ち上げ直後から技術チームリーダーとして関与。現在は、本プロジェクトのプロジェクトマネージャーを担当する。

近藤 直樹- Naoki Kondo -

2006年入社/原子力安全事業本部廃炉推進グループ 主任研究員/工学研究科 エネルギー理工学専攻 修了
原子力安全・放射性廃棄物に長年関わり、本プロジェクトでは立ち上げ当初からメンバーとして関与。現在は、技術チームを統括するチームリーダーを担当する。

中村 京春- Keishun Nakamura -

2015年入社/原子力安全事業本部廃炉推進グループ 研究員/新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻 修了
入社当時から福島第一原子力発電所の廃炉に関わる業務に従事。現在は、本プロジェクトの技術チームのメンバーとして、技術チームリーダーの補佐としての役割を担っている。

PROCESS

幅広い知見を結集し、公平な姿勢で臨む

廃炉・汚染水対策事業では「内部調査」「取り出し工法の開発」「作業環境の向上」などの課題分野ごとに、研究開発テーマが設定されている。事務局ではテーマごとに補助事業者を公募し、審査を行う。補助事業者の採択後は、定期的に研究開発の進捗を管理し、検査によって支払われるべき補助金額を確定する。事業者に交付される補助金は税金で賄われているため、事務局は多種多様な研究テーマを適正かつ公平にマネジメントすることが求められる。

「事務局の運営には、原子力の専門性はもちろんのこと、多様な科学技術の知見、研究開発に係る経理管理、高度なマネジメントスキルなど、幅広い要素が求められます。長年プラントに携わるベテランや、大規模プロジェクトのリーダー経験者など、原子力安全事業本部以外からの協力も得て事務局が成り立っています」

廃炉を安全かつ円滑に進めるため、廃炉・汚染水対策事業の公募は国内に留まらない。国内外の英知を結集すべく、アメリカやフランスといった原子力大国をはじめ、広く海外も対象とした公募を行っている。

「事業開始時には海外に出向いて周知活動を行いました。公募ごとに英語版の資料やウェブサイトを用意し、説明会は日英同時通訳しネット配信を実施したこともあります。海外企業は日本と商習慣が異なるため、『補助金』の概念を理解していただくのも簡単ではありません。補助金の使用用途はあくまで研究開発の経費に限るのですが、中には収益も計上する事業者がいるからです。粘り強く説明を繰り返し、認識の齟齬を埋めてきました」

技術を理解するため、現場に足を運ぶことも

公募後は有識者による審査・評価委員会を通じ、補助事業者が採択される。研究開発の開始後、事務局は進捗を管理し、遅延等の問題が発生していないか定期的に確認する。重要な実験等を行う際、視察が必要であれば関係者らと共に現地に赴くことも珍しくない。

入社後すぐ、事務局に配属された中村は、技術のキャッチアップに努めたという。デブリ取り出し工法・基盤技術関連の研究開発を管理する技術チームに所属することになり、関連資料を読み解いたが、紙上での理解には限界があった。

「デブリ取り出しは遠隔装置やロボットなど、要素技術が多岐にわたります。そこで、要素技術を実施するすべての補助事業者を訪ね、現場で話を直接聞くことで理解を深めました。進捗管理を正しく進める上で技術のキャッチアップは必須であり、担当者とのコミュニケーションも密にする必要があります。特に遅延等に関わるネガティブな情報は、担当者から上がりづらいもの。時には現地を訪れ、フェイス・トゥ・フェイスで会話を重ねながら、問題の芽を早期に摘むことを意識しています」

「国民に納得してもらえるか」

補助事業者が研究開発に用いた費用が適切なものであったか、チェックを行うのも事務局の役目だ。必要な手続きを経ているか、帳簿等の書類が揃っているか、内訳に不審な点がないか。一連の検査を経て、国から補助事業者に支払われるべき金額を確定する。

「補助金の財源は税金であり、公正性を担保することが大前提にあります。機械的にチェックするのではなく、『国民に納得していただけるか』を念頭に置く必要がある。メンバーには検査の手順だけでなく、背景となる『哲学』も理解してもらうよう努めました」

「検査にはマニュアルがありますが、研究開発の内容は多岐にわたるため、文章や数値の記載レベルが適切か否かの判断に迷いが生じるケースも多々あります。そんなときに『この内容で納得してもらえるか』『胸を張って説明できるか』という前提に改めて立ち返る。松本さんの教えは、今でも判断の拠り所となっています」

RESULT

研究開発の成果が、廃炉に向けた調査を可能に

三菱総研に限らず、多くの関係者にとって補助金事業のスキームは初めての経験だった。事務局立ち上げ当時は、公募から確定検査に至るプロセスも確立しておらず、メンバー集めも含め手探りで進めねばならなかった。松本は当時を振り返り「走りながら仕組みを作り上げていた」という。

「何もない状態からあるべき姿を模索し続け、ようやく軌道に乗ってきたと感じます。進捗管理を通じて研究開発の内容を把握することで、廃炉に向けて何が課題なのか、どんな基盤技術が必要なのかも見えてきました」

立ち上げから4年半(取材当時)が経ち、研究開発の成果が廃炉作業に結びつくケースも増えてきた。原子炉格納容器に溶け落ちた燃料デブリの状態を把握するために、水中遊泳型やアーム型などの遠隔ロボットによる調査が今も進められている。また、ミュオン(宇宙や大気から降り注ぐミュー粒子)の特性を利用した「ミュオン解析」も、燃料デブリの位置や形状を推定する技術として重要な役割を果たしている。

FUTURE

全体を俯瞰する立場から、廃炉への道筋に貢献する

廃炉に向けた中長期ロードマップによれば、3号機の使用済み燃料取り出し開始は2018年度、初号機の燃料デブリ取り出し開始は2021年に設定されている。取材時は原子炉格納容器の内部をようやく見ることができた段階であり、取り出し工法や廃棄物処理については現在進行形で研究開発が進められている状態だった。廃炉に向けた取り組みは、ようやく入口に立ったと言える。

「廃炉までは30年~40年の期間が必要と言われています。今後は人材育成も課題となるでしょう。事務局で得た知見を活かしつつ、基礎研究から応用・実用研究に至るまで引き続き支援できればと思います」

「このプロジェクトには『廃炉』という明確なゴールがあります。しかし、ゴールに至るまでのプロセスは未知数です。これまで世界で経験のない困難な取り組みであり、不測の事態も考えられます。事務局の業務を全うし、着実に歩みを進めていければと考えています」

「事務局は一段高い視点で技術開発全体を俯瞰し、次に何をすべきか把握できる位置にあります。廃炉・汚染水対策事業で培ったノウハウをベースに、三菱総研だからこそできるサポートを提供したいと考えています。社会的・技術的に絡み合った複雑な課題を解きほぐすのは、私たちシンクタンクの役割。あらゆる分野から、福島第一原発に関連するニーズを引き出し、廃炉につながる道筋に貢献できればと思います」