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データで読み解くポストコロナへの人財戦略—FLAPサイクル実現に向けて

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2021.4.28

株式会社三菱総合研究所

人財
株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:森崎孝)は、日本社会がポストコロナ※1 を見据えて採用すべき人財戦略として「FLAPサイクルの浸透」を提案し、裏付けとなる日本の労働市場の定量分析を示すとともに、FLAPサイクル実現に向けた施策パッケージを提言します。

デジタル技術普及の加速が職のミスマッチ拡大を前倒し

デジタル革命と少子高齢化、そして足元でのコロナ危機の進展が、日本人の働き方に変革を迫っている。コロナ危機は、消費者、労働者、経営者それぞれの意識変化と行動変容を促し、デジタル技術普及のスピードを速める。これを受けて、2030年にかけての労働需給バランスは、コロナ危機前の予想よりも早く余剰に転じる可能性がある。中でも、事務職や一部のサービス職、生産職が余剰感を強める一方で、専門技術職の不足が年を追って拡大する「職のミスマッチ」が深刻な社会課題となる。

三菱総合研究所が行った技術シナリオ予測では、遠隔化、非接触化、省人化、自動化をはじめとするデジタル技術の普及が前倒しで実現する可能性がある。この場合、20年代中盤以降に労働市場全体の人手不足感が急速に解消し、2030年時点では事務職を中心に200万人を超える人材余剰が発生する一方、専門技術職では170万人の人材不足が顕在化する。

需要が高まる分野への人材シフトが進まない日本の労働市場

職業別のタスク特性に基づいて日本の人材ポートフォリオを可視化した結果、人材不足が深刻化する専門技術職の大部分が、非定型なタスクを多く含む「ノンルーティン領域」に位置付けられることが特定された。現在は、労働者の8割弱が事務職や生産・輸送・建設職、対人サービス職など、定型的なタスクを多く含む「ルーティン領域」に集中している。私たちは、一人ひとりが自らのスキルを棚卸し、ノンルーティン領域のタスクを習得することで、一歩ずつノンルーティン領域に向かってシフトしなければならない。
しかし、分断が進行している日本の労働市場では、ノンルーティン領域への人材シフトがままならない。元来ノンルーティン側へのシフトが少ないことに加え、正規/非正規雇用者の間の移動が少なく、かつ結婚や出産、介護等のライフイベントに伴う離職者の多くが非正規雇用者として復職するという構造的な問題も手伝って、ノンルーティン領域への円滑なキャリアシフトが阻まれている状況がある。

すべての人材がワンノッチ・キャリアシフトを進めることでミスマッチは解消

直近3年間の人材移動パターンに基づく人材移動シミュレーションでは、現在の傾向が継続すると2030年時点での職のミスマッチが400万人規模まで拡大することに加え、正規・非正規雇用者間の分断傾向が強まり、経済格差も悪化する可能性が示された。また、労働市場の分断に手を打たないままでノンルーティン側への人材シフトが拡大すると、職のミスマッチは改善するものの、正規・非正規間の分断はさらに進行し、経済格差も現状よりも悪化するという結果が得られた。

一方、正規・非正規間の流動性拡大や離職・復職にかかる非正規雇用シフトの回避、同一労働同一賃金の実現といった分断・格差の是正措置を講じた上で、すべての人材が「ワンノッチ・キャリアシフト※2 」を進めれば、分断と格差を抑制しつつ職のミスマッチを解消することが可能となる。人材移動を通じた経済活性化と労働市場の分断回避を両立させるような施策を、私たちは早急に打ち出さなければならない。

社会全体でのFLAPサイクル浸透がミスマッチと分断を乗り超えるカギ

個人が自らの適性や職業要件を知り(Find)、スキルアップに必要な知識を学び(Learn)、目指す方向へと行動し(Act)、新たなステージで活躍する(Perform)「FLAPサイクル」の浸透が、日本の労働市場を巡る課題解決のカギとなる。ただし、FLAPサイクルの実現が一部の働き手にとどまることなく、雇用形態や年齢、性別にかかわらず、社会全体でFLAPサイクルを浸透させることが必要だ。そのためには、正社員を中心とした従来のメンバーシップ型雇用システムに対して、一定の改革を迫ることになる。

三菱総合研究所は、FLAPサイクル実現に向けた施策パッケージとして以下の4施策を提言する。

①「職の共通言語」の整備

職をまたぐキャリアシフトを社会全体で進める上では、人材が持つスキル等の職業情報を共通の体系に基づいて整備する「職の共通言語」化が欠かせない。日本版O-NETが提供する職種横断的な職業情報を軸として、国-中間団体-個別企業の3層から構成される職の共通言語を整備することが求められる。職の共通言語が労働市場に浸透してはじめて、企業が求める人材要件が可視化され、必要なスキル獲得に向けた学びが特定され、個人の自律的なキャリア形成が実現する。

②「学び直しの社会化」の推進

「OJT中心の業務スキル習得」と「個人の裁量に基づく学び直し」の組み合わせで提供されてきた従来の日本の人的資本投資では、ポストコロナの人材ニーズに応えられない。今後は、職のミスマッチ解消に必要となるスキルを社会全体で定義した上で、個別企業の人財戦略と個人のキャリアプランに応じた能力開発プログラムを労使で選定し、公的財源を基に学び直しを進めるような仕組みが必要となる。社会全体で人材のスキルアップをサポートする能力開発制度の導入が求められる。

③人材流動化とセーフティネット拡充の両面強化

職のミスマッチ解消には人材流動化が避けられない一方、雇用の枠から外れた働き手に対するセーフティネットがなければ、労働市場の分断と格差拡大を招きかねない。退職金給付にかかる税制優遇措置の是正等のメンバーシップ特権の是正を行いつつ、雇用保険のユニバーサル化を通じて雇用形態によらず能力開発プログラムを享受可能とするなど、流動化促進と安全網拡充の両面強化を図らなければならない。

④脱メンバーシップ型処遇体系への移行

職務に基づく評価体系を確立することを通じて、多様な雇用形態・就業形態間での公正な処遇を実現し、雇用形態を越えた労働移動を活性化することが必要だ。具体的には、職務無限定の総合職社員の割合を減ずると同時に、職務や勤務地を限定した正社員や高度プロフェッショナル社員の割合を増やし、雇用形態を問わない処遇の均衡を実現する。また、民間求人データ等を用いて職種別の処遇水準を定期的に分析・公表する仕組みを整備することで、個人が企業を「選ぶ」際の指標を増やす。

※1:ポストコロナとは、世界的なコロナ感染拡大を境に価値観や行動様式の転換が起き、社会に定着する期間を指す。

※2:小刻みで継続的な学び直しを通じたキャリア形成のあり方を指す。転職のみならず、企業内でのスキルアップを通じた異動や職系転換、働き方の改善なども含まれる。

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