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「予防医療×デジタル」が与えるインパクトと医療・介護制度改革の方向性

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2022.3.23

株式会社三菱総合研究所

ヘルスケア
株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:籔田健二)は、「健康長寿シミュレーションモデル」を開発し、AIやIoTを活用した新しい予防医療サービスが社会に与えるインパクトを試算しました。これを踏まえ、持続可能な健康長寿社会に向けて求められる医療・介護制度改革の方向性を提言します。

持続可能性の危機

日本は世界でも有数の健康寿命の長さを誇っている。これ自体は喜ばしいことであるが、今後さらなる高齢化社会に突入する中、持続可能性の観点から社会のシステムを見直していく必要がある。

医学の進歩によって、感染症や交通事故による死亡率が劇的に低下し、糖尿病や高血圧など生活習慣に起因する患者が増加した。こうした疾病構造の変化等に伴い、1人当たりの医療費は過去30年で2.6倍にまで膨れ上がっている。このままいくと、30年後には医療・介護費の公的負担は現状の約2倍、54.6兆円程度にまで増加する見込みである。また、高齢化や疾病構造の変化によって、急性期中心の医療から慢性期中心の医療・介護提供体制への転換が求められており、その体制構築に向けて医療資源の偏在化や介護人材の不足等が課題として指摘されている。若い世代を中心に社会保障制度に対する将来不安を抱えている中で、安心できる制度構築を目指すことが重要である。

本稿では、持続可能な健康長寿社会の実現に向けた道標として、デジタル技術を活用して疾病予防や介護予防※1を推進、その結果として健康寿命を延ばし社会の支え手を増やしつつ、医療・介護費用を抑制することが可能かどうかを検討した。

デジタル技術が予防医療をアップデートする

病気にかからないための一次予防は、専門家による指導とそれに基づく個人の生活習慣改善が基本となる。もっとも、いつかかるか分からない病気のために日々の欲求を我慢し続けることは難しい。当社の調査によると、生活習慣病のリスクが高いと判っている人であっても、生活習慣の改善を継続できる人は半数以下である。こういったハードルを取り除くために、AIやIoT、VRなどのデジタル技術が効果を発揮する。これらの技術が個々人の特性や好みに応じた行動変容プログラムを提案し、その経過を見守ってくれる。無理なく効率的な行動変容が可能となりつつある。

また、予防医療を社会に普及させるためには、個々人の努力に任せず、企業や自治体といった組織のバックアップが必要である。その意味で、予防医療の取り組みは一人で頑張る「個人戦」から皆で協調しながら頑張る「団体戦」へと移行しつつある。また、企業における健康経営や自治体における介護予防など、「団体戦」に取り組む上でも、デジタル技術は欠かせないものとなる。

新しい予防医療は要介護者の抑制に寄与

デジタル技術を活用した新しい予防医療は社会にどのようなインパクトをもたらすか。当社で開発した健康長寿シミュレーションモデルを用いて試算を行った。新しい予防医療が社会に普及した場合、2050年の時点で要介護者が66万人、医療・介護費は6.1兆円の抑制効果が期待できる。予防医療の普及によって中年期の生活習慣病の罹患率が低下し、健康を保ったまま高齢期に入る。結果として、要介護となる高齢者が減り、介護需要が一定程度抑制されることになる。

ただし、課題は目前に迫っている。2030年以降は団塊世代が80歳を超え、本格的に介護の需要が増大する。団塊ジュニア世代の介護離職を防ぐためには早急に取り組みを広げていくことが重要だ。予防医療の取り組みには、元気な高齢者を増やすことに加えて、現役世代による家族介護の負担を軽減しウェルビーイング※2を高める効果を期待できる。

持続可能性を目指す医療・介護制度改革

一方で、予防医療の取り組みが社会に広まったとしても、中長期的には医療介護費の伸びを止めるほどの効果は期待できない。次世代を担う若者の将来不安を軽減するためにも、引き続きの医療・介護制度改革は必須である。

日本の医療・介護保険制度は、フリーアクセスの下で、高い質の医療・介護サービスをどこでも気軽に、手頃な価格で利用することができる点では非常に優れた制度といえる。しかしながら、少子高齢化に伴う疾病構造の変化や社会保障関係費の増加を展望すると、医療・介護サービスの「質」を高めると共に公的保険としての「アクセス(利用のしやすさ)」を保障しつつ、「コスト」を抑制することが求められる。制度改革を実現するために、ここでもデジタル技術の活用が鍵となる。

本提言では、「①医療・介護体制の機能分化・連携」「②受益と負担のバランスと給付範囲の適正化」の二つについて述べる。「①医療・介護体制の機能分化・連携」とは、デジタル技術等を活用することによって、個々の医療機関や介護サービス事業者が独立して医療・介護サービスを提供する体制から、各医療機関・介護サービス事業者が得意分野を生かしながら連携して複合的な医療・介護サービスを提供する体制への転換を目指す。

このような取り組みと並行して、「②受益と負担のバランスと給付範囲の適正化」に向けて制度改革を進める必要がある。制度改革においては「小さなリスクは自助で、大きなリスクは皆で支える」ことを原理原則とする。その上で、人生100年時代の到来と表現されるように元気な高齢者の増加やデジタル技術の進展による疾病やけがの予兆(リスク)把握の実現等を踏まえた制度設計が求められる。

制度改革の実現に向けては医療・介護に係る自己負担が増えるかどうかの議論に閉じず、健康長寿社会におけるライフサイクルに応じた働き方や地域との関わり合い、求められる資産運用の姿等を含めたグランドデザインを提示し、国民理解の醸成を図るべきだ。

※1:介護予防とは、要介護状態とならないための取り組みを指す。

※2:ウェルビーイング:「幸福」と訳されることが多く、当社では心身の健康のみならず自己実現や社会とのつながり、持続可能性など、人々に豊かさをもたらす幅広い要素から影響を受けるものと捉えている。詳細は「ポストコロナ社会のウェルビーイング」参照。

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