第2回 AIエージェントが引き起こすゲームチェンジ

金融イノベーション本部  大井修一

第1回のコラムではAIの活用範囲の広がりと、AIプロダクトによるゲームチェンジの可能性について述べた。第2回はAIエージェント分野にフォーカスし、社会に与える影響を考察してみよう。

AIエージェントの登場と活用の方向性

AIエージェントとは、厳密な定義はないが、米アップル社の音声アシスタント「Siri」がさらに高度化したような存在である。情報の収集・分類、推論、提案、調整など、従来ならば人間にしかできなかった複雑で高度な知的タスクを行い、ビジネスでは秘書、家庭では執事のような存在になると期待される。

AIエージェントの代表的な活用パターンを図1に示す。人のAIに対するニーズ(①選択・判断支援、②タスク代行、③知識蓄積・スキル提供)と活用対象(一般個人向け、社内向け)で大別すると、現時点でも多くの類似サービスが誕生しており、今後も多岐にわたるサービスが登場すると想定される。

図1 AIエージェントの代表的な活用パターン(例)

図1 AIエージェントの代表的な活用パターン(例)

出所:三菱総合研究所

AIエージェントは人間の能力をこれまで以上に拡張し、個々人の私生活においてはそれぞれの好みに合った質の高いサービスを提供し、またビジネスでは業務を効率化して生産性を上げることを可能にするであろう。

AIエージェントが業界に与える影響考察(旅行業界)

ここでは旅行業界を例にとり、AIエージェント(旅行手配AI)が導入された場合の影響を検討する。

旅行手配AIは、旅行者から旅程について相談を受けると、旅行者の希望と交通機関や宿泊施設の情報、観光地を運営する業者からの提案を総合的に勘案し、一人一人が満足できる旅行計画をスピーディに導いてくれる(①選択支援)。そして、実際に予約・手配をするほか、天候や混雑状況を考慮した臨機応変な対応までを行ってくれる(②タスク代行)。さらに、現地での案内も頼めるようになり(③スキル提供)、旅行の満足度をさらに高めてくれるであろう。

図2 旅行手配AI による旅行の変化

図2 旅行手配AI による旅行の変化

出所:三菱総合研究所

旅行はその昔、旅程の全てを自らで調査・手配する必要があったが、近代になると旅行代理店が登場し、代理店が用意したパックから選択すれば良いだけとなった(バンドル化)。

近年では、ITの進化と旅行リテラシー向上に伴い、ホテルや交通機関などを個別にオンラインで予約して組み合わせる旅行者が増えている(アンバンドル化)。一方で、目的地や移動手段・宿のオンライン予約に手を取られた結果、肝心な日中の名所巡りやグルメ・体験の検討が後回しになって満足度が下がるケースもあろう。そこで、前述したように、旅行手配AIが一人一人の意向を最大限に叶えるプランを提案・手配してくれれば(リバンドル化)、旅行者は自分好みの旅を早く楽にセットできるようになる。

このようなサービスを実現するには、従来の旅行代理店やオンライン予約サービスとは異なり、多様な軸で評価した網羅的な観光コンテンツ情報を持ち、AIを用いて旅行者一人一人の重視点と瞬時にマッチさせる強みが求められるだろう。現時点では同様のサービスは登場していないが、このような仕組みを提供できた仲介者が旅行業の主役になるのではないか。

図3 旅行業界で起こるゲームチェンジ

図3 旅行業界で起こるゲームチェンジ

出所:三菱総合研究所

同時に、地元の観光業者側の競争環境にも変化が起きる。旅行手配AIの差配により、代理店や予約サービスを通さずとも、特定の観点の関心を持つ旅行者に直接商材をPRできるようになる。これまであまり注目されることのなかった、新たなご当地名物が生まれる可能性もある。旅行業界にAIエージェントが登場することで、旅行仲介者・供給者ともメインプレイヤーが入れ替わるようなゲームチェンジが起こるであろう。

AIエージェントが社会に与える影響

旅行の事例で考察したようなサービスの「リバンドル化」、すなわち生活者による利用サービス一元化の動きは、金融や音楽といった、他の多くの分野で既に起こり始めている。例えば、金融分野では特定のETF(日経平均等の上場投資信託)を購入するのではなく、個人の資産運用意向を踏まえて自動でETF売買を行うロボット投信が登場し始めている。音楽分野では個別の楽曲を販売するのではなく、定額制で総合的に楽曲配信を行う企業の成長が著しい。ほかにも、通販、中古品販売、ニュースなど、情報が大きな価値となる分野を中心に「リバンドル化」がみられる。既存のIT技術でもリバンドル化が進むが、AIエージェントは一人一人の嗜好や気分を捉えた音楽を自動再生するなど、それぞれがより生活満足度を高めることを支援し、リバンドルの完成を促すであろう。

図4 サービスのリバンドル化とAIエージェントの果たす役割

図4 サービスのリバンドル化とAIエージェントの果たす役割

出所:三菱総合研究所

AIエージェントは技術の進展とともに、2020年代にも普及し始めると想定される。アンバンドル化したサービスをリバンドル化するなど、AIエージェントを用いて満たすことができる消費者ニーズを現時点から把握し、事業機会を探っておくことが重要である。


ページトップへ戻る