第5回 デファクトスタンダードによる優位性確保のポイント

戦略コンサルティング本部  鈴木健二郎

今回は、第2回に提示したオープン/クローズ戦略のうち、オープン戦略の一つである「(2) デファクトスタンダードを確立し、市場での優位性を確保」の事例を取り上げる。そのうえで、特許取得により自社技術を公開し、デファクト化を推進することによって、優位性を確保するためのポイントについて考察する。

デファクト化がビジネスにおいて有効なのは、デファクト、すなわち事実上の標準となった製品をユーザーが選択し、選択の結果、さらに製品のデファクトとしての性格が強まるという好循環が生まれるためである。ユーザーが選択する主な理由には、デファクト化により同種製品との互換性や周辺製品との接続性が生まれ、ますますその製品を選択せざるを得なくなることが挙げられる。また、デファクトであれば、メーカーのサポートサービスを受けられるだろうという安心感も生まれ、その製品はより選択されやすくなる。デファクト化を推し進めるには、特許によって製品の構造を積極的に公開し、同種製品や周辺製品のメーカーが、互換性や接続性を確保できるように、意図的に仕向けるのが効果的である。

一方、デファクト化は、その維持の過程で他社からさまざまな挑戦を受けることにもなる。例えば、デファクトの模倣製品を製造されてしまう可能性がある。実際、多大な時間とコストをかけて市場に働きかけ、デファクトを確立したにもかかわらず、他社に模倣製品を市場に大量投入され、自社製品のシェアを次第に失い、撤退を余儀なくされてしまう事例は、枚挙にいとまがない。そこで、市場で優位性を継続的に維持するためには、他社が容易に製造・販売できない方策を、適切に講じておく戦略が必要になる。

マブチモーター株式会社は、小型直流モーターに特化したメーカーで、世界市場の半分以上を占めている。主力製品は、自動車のミラーやパワーウインドー、車載用音響・映像機器(AV)などの自動車関連の小型モーターである。ただ、同社のモーター技術は電動歯ブラシなどの家電、電動ドリルなどの家庭用工具、携帯電話(バイブレーション機能)など、生活の身近なところでも広く実装されている。同社の強みは多岐にわたるが、完成品メーカーからの要望に応じた柔軟な提案力、技術領域を小型直流モーターに限定しつつ用途を多様化させる拡張力などに加え、自社技術を積極的に公開して、デファクト化を進めて顧客からの選択的優位性を確立していることが挙げられる。

従来、モーターは製品ごとに特注されていたが、同社はベースモーター部分を標準化し、オプションを加えることで顧客のニーズに応える手法を取り、これを試作品の提供とともに提案している。この手法は、顧客や業界の本質的なニーズをくみ取り、標準品の拡大や新たな標準品開発につなげるのに有効である。また、標準化されたモーターの仕様は、シャフトや軸の構造、原理から、小型化、長寿命化のノウハウに至るまで、細かく特許で公開する戦略を取り、特許が持つ宣伝効果を最大限に利用している。製品については、自社のホームページで型式ごとに特長、機能、性能、寸法、図面を詳細に公開し、自社製品の採用を潜在顧客に呼びかけている。このように積極的なオープン戦略の結果、多くの企業の製品が同社の製品の使用を前提として設計されるようになり、デファクト化が達成されている。

同社の取り組みで注目すべきは、自社製品をデファクト化するだけでなく、各種対策を打って競合が追い付けなくすることにより、模倣製品の出現を防止している点である。例えば、生産性を向上させる取り組みを積極的に推し進め、製品の高品質を維持しつつ、コストダウンを図っている。また、製造ノウハウのブラックボックス化(生産設備の内製化など)を図ることを重視し、他社が容易に追従できない製造基盤を構築している。

デファクト化に成功すると、顧客は自発的にその製品を選択し、他社製品を選択しなくなるため、先行優位性が生じる。デファクト化を達成するためには、特許を取得して、標準化した自社技術を積極的に公開し、他社の目に触れさせる戦略が有効である。しかし、この戦略は、リバースエンジニアリング※1により模倣製品を生み出しやすい側面もあり、デファクト製品の確立後も、継続的に利益を得るためには、模倣製品の出現を防止し、優位性を維持し続けるための対策を講じておくことが必要である。これには、デファクト化の特性を活かし、ビジネスモデルの工夫やコスト低減などで、自社の優位性を確立しておく方法がある。例えば、デファクト化によって設計の標準化を進め、顧客のニーズに対して他社よりスピーディーで、柔軟に提案できるビジネスモデルが構築できよう。また、同一部品の大量購買、生産量の調整などを容易にし、他社より安価に製品を提供できるようにするなどの方策もあるだろう。

図 デファクト化で優位性を維持するためのポイント

図 デファクト化で優位性を維持するためのポイント


※1: ソフトウェアやハードウェアを分解、解析することで、その仕組みや仕様、製造技術などを明らかにすること。

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