第7回 秘匿化を企図したクローズ戦略のポイント

戦略コンサルティング本部  阪本幸俊

今回は、第2回に提示したオープン/クローズ戦略のうち、「(7)秘匿化(特許出願をせずに技術を秘匿)」の具体的な手法を紹介するとともに、秘匿化に伴う課題とポイントについて考察する。

クローズ戦略には、主に二つの手法がある。一つ目は、自社の技術を特許化せずにノウハウとして秘匿し、他社には技術情報を公開しない手法、二つ目は、技術を特許として権利化し、技術は公開するが、自社だけで独占実施する手法である。いずれの手法も、技術を他社に使用させないことで、自社だけが優位性を保持し、市場を独占して価格を自由に決定できるようにすることを狙いとしている。ただし、後者の特許化する手法は、基本的には出願から20年で権利が消滅し、その後は誰でも使用できる技術となってしまうことや、特許化しても他者の侵害を立証することが難しく、事実上独占権を十分に享受できない場合があることから、一般には前者の、特許化せずにノウハウとして秘匿化する手法が採られることが多いと思われる。

秘匿化は、食品レシピなど、顧客の要求仕様に合わせてカスタマイズされた原料を製造する工程で、しばしばとられている。コカ・コーラ※1の極秘レシピなどが著名であるが、戦略の性質上、その具体的な手法が知られている例は少ない。例えば、食品メーカーに原料を販売している企業が行う秘匿化の場合、次のような手法が考えられる。
まず、顧客が求める仕様の原料を作るために、ベースとなる物質を独自の項目ごとに分析し、すべて数値化する。次に分析データに基づき、膨大なベースを組み合わせて顧客の求める仕様の原料を作成する。ここで、数値データや、ベースの組み合わせ方法については一切外部には公表しない。さらに、原料を製造する生産設備も、大半を自社で設計・開発し、製造ノウハウや機器の設計ノウハウが外部に漏れないよう徹底的に秘匿化するといった手法が想定される。なお、秘匿化の対象は販売先(顧客)である食品メーカーの商品の根幹部分、すなわち最終消費者がその食品に求める中心的な要素でなければならない。食品メーカーは、これら根幹部分の原料を購入しなければビジネスを展開できず、継続発注せざるを得なくなる。

上記では秘匿化の手法を例示したが、これを有効な知財戦略として機能させ続けるためには、いくつかの課題を乗り越える必要がある。
第一に、秘匿化すべき領域を、明確にすることが必須である。例えば、販売先の食品メーカーの視察で製造現場を公開しなければならないなど、秘匿化が困難であったり、他者の追従が容易であったりする技術では、むしろあえて特許化してオープンにしておき、けん制機能を強化しておく方が好ましい。秘匿可能で、かつ秘匿すべき領域を見極め、そこだけを徹底してブラックボックスにすることが必要である。
第二に、クローズの壁を壊す行為、すなわち「模倣」や「漏洩」と常に戦う必要がある。技術をノウハウとして秘匿化した場合、他者が模倣した上で特許を出願してしまうリスクがある。こうした「模倣」に対抗するためには、先使用権※2を確保しておくことが重要となる。
また、「漏洩」には人材流出に伴う技術流出や、従業員による意図的な漏洩などの人為的なリスクも含まれる。これについては、コア技術に関与する従業員や退職者と必ず秘密保持契約を結ぶことは最低限の対策である。そのほか、コア技術ごとに研究開発体制や部門を分け、一部の技術が漏れても、それだけでは機能しないようにし、技術を防御する体制を構築するなどの対策が考えられる。この観点から、可能な限り自社で製造設備を設計できることとし、自社開発できない場合には、信頼できる特定のメーカーに製造を委託するなどの対応が必要となる。

近年は、「新たな市場の創出」と「シェアの拡大」を両立するための有効な手段であるオープン/クローズ戦略が注目されている。しかし、実際には、オープンとクローズを使い分けるのは、決して容易なことではない。特にクローズ戦略は、自社のビジネスの根幹でありながらも、常に多くのリスクにさらされつづけることになる。クローズ戦略を成功裏に実現するには、他社との関係で秘匿化すべき領域を明確に見極め、入念なビジネス設計により、各種リスクをコントロールする取り組みが欠かせない。



※1: コカ・コーラの原液のレシピは、限られた人以外は知らされておらず、1919年から銀行の金庫に保管するなど、徹底的に秘匿されている。コカ・コーラは、クローズ戦略(秘匿化)により、長年にわたり他社に模倣されることもなく、大きな収益をあげることに成功した。
※2: 他者が特許権を得た発明と同じ発明を、他者の特許出願以前から、事業として実施または実施の準備をしていた場合には、その発明を一定の範囲内で実施できるという権利。

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