第10回 ブランド価値向上のためのブランドライセンスのあり方①

金融イノベーション事業本部 金融事業グループ  坂井宏成

 多くのブランドマネジャーは自社が持つブランドの価値をいかに向上させるかに頭を悩ませている。本連載コラムでは今回から二回にわたり、ブランド価値向上を目的としたブランドのライセンシングにまつわる取り組み事例を紹介する。ブランドのライセンシングはブランド価値にプラスにもマイナスにも影響する。第10回ではマイナスの影響を緩和することを目的としたライセンシング抑制の取り組みについて、第11回ではプラスの影響を見据えた高級ブランドによるライセンシング戦略について取り上げる。

 グローバルでブランドのライセンシングを行っている企業では、ライセンスを受けるライセンシーが市場特性に応じて独自に事業を展開した場合、各市場で異なるブランドイメージが定着してしまうことが多い。情報の流通が活性化している近年では、顧客がそれらの異なるブランドイメージを同時に受信することにより、ブランドイメージがブレる可能性がある。ブランドイメージがブレると、そのブランドの製品はコモディティ化し、ターゲティングや高価格化が困難となる。そこで、ライセンスを与えるライセンサー各社はライセンシングの抑制を進め、グローバルブランドイメージを統一することによって、ブランドの価値向上を図っている。

 ライセンシング抑制の動きには、ライセンシーとのライセンス契約を打ち切る動きと、ライセンシーを子会社化し自社に取り込む動きの二種類が存在する。今年6月に話題となった、英バーバリーと三陽商会の事例は前者に該当する。

 他方、後者の動きを見せている企業として株式会社良品計画がある。同社は海外で生活雑貨販売店“MUJI”を展開しているが、今年8月に欧州の子会社を通じてスペインとポルトガルのライセンシー2社の全株式を取得した。自社の子会社として商品や店舗運営の方針を統一した上で、実質的な店舗運営は両社に継続して任せている。

 バーバリーと良品計画が採用するライセンシング戦略の違いは、バーバリーが高級ブランド、MUJIが大衆ブランドと、両者が志向するブランドイメージが異なることに由来する。以下では良品計画を中心に、採用した戦略の狙いや背景、留意点を分析する。

 良品計画がグローバルブランドイメージの統一のためにライセンシーを子会社化する狙いは以下の二点である。

 一点目は、ライセンシーが獲得している既存顧客の離反防止である。もし、バーバリーのようにライセンス契約を打ち切って直営店を運営しようとすると、店舗の場所や提供商品、雰囲気などを本来のブランドイメージに合わせて一気に修正することになる。既存顧客が慣れ親しんだ店舗からのこのようなシフトは、競合への離反を誘発する恐れがある。ライセンシーを子会社化すれば、定着しているブランドイメージを穏やかに修正することができるため、既存顧客の離反を防止することができる。

 二点目は、店舗、人材、物流、販売ノウハウなどの既存リソースの有効活用である。ライセンス契約を打ち切り、店舗を直営化する場合には、新たな出店や顧客獲得にかなりのコストがかかる。ライセンシーに継続して店舗を運営させ、既存リソースを有効活用すれば、コストは大きく削減され、継続的な店舗数拡大を目指す上でのメリットとなる。

 ただし、良品計画のようにライセンシーを子会社化する場合には、店舗運営や接客品質のばらつきがブランド価値を毀損(きそん)しかねない点に留意する必要がある。商慣習や接客スキルなどの細かな部分で親会社が求める体制との差異が生じれば、結果的に本国のブランドに悪影響を及ぼす危険性がある。事例として取り上げた良品計画では上記の課題に対応するため、“MUJIGRAM”と呼ばれる2000ページに及ぶ詳細な業務マニュアルを使って子会社における管理体制を統一し、ブランド価値を毀損するリスクを低減している。

 良品計画のように細部にまで行き届いた管理体制を構築することは一朝一夕には難しいかもしれない。しかし、ライセンシーが構築した事業基盤を活かしつつグローバルブランドイメージを統一するためには、管理体制の統一が重要だ。

図 グローバルブランドイメージ統一のための各社の戦略比較

図 グローバルブランドイメージ統一のための各社の戦略比較


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