第2回 顧客理解型の知財ファイナンスのすすめ

金融イノベーション事業本部  吉田まほろ

<ポイント>

  • ●知財ファイナンスには、知財に担保を設定する担保型、顧客の事業内容を理解するために活用する顧客理解型の2つがある。
  • ●融資額に対応した換金が容易な担保を求める金融機関の基本スタンスに対して、必ずしも換金が容易でない知財は担保として十分でないため、担保型の知財ファイナンスは普及してこなかった。
  • ●金融機関は知財を担保として捉えるのではなく、顧客をよりよく理解するために活用し、創業・新事業創出に寄与すべきである。

連載第二部「知財とビジネスマネタイズ」は、知財を活かしてマネタイズを果たした話題のトピックを取りあげ、その事例から想定される今後の展開について考察する。今回は、保有する知財をベースに、融資や投資を引き出す「知財ファイナンス」のわが国での取り組み状況について考察する。

知財ファイナンスには、本体債権がデフォルトした際に備えて、知財に担保設定するもの(=担保型)、知財そのものには担保を設定せず、融資先の事業内容を理解するために活用するもの(=顧客理解型)の2つがある(*1)。前者は知財の価値に応じた融資を行うものであり、後者は融資先企業の事業内容をよりよく理解し、その他の資産状況などとあわせて総合評価した上で融資するための一つの判断材料として知財に着目するものである。技術立国を標榜するわが国には、知財を権利化した自社技術によって事業を支えている企業が数多く存在するため、知財ファイナンス導入の機運が高まりつつある。 実際に、下図に示す経済産業省の調査によると、全国531金融機関のうち、実に65%もの金融機関が知財ファイナンスへの取り組み意思を示している。しかし、その一方で実際には約3%しか知財ファイナンスの実績がないことも明らかになった。

図 知的財産権活用融資の実績

図 知的財産権活用融資の実績

出所:経済産業省 平成27年度 ABLの課題に関する実態把握結果
注:アンケートは全国660金融機関に実施。上記は有効回答531社に関する結果を集計したもの。

多くの金融機関に取り組み意思があるにもかかわらず、知財ファイナンスはなぜ普及しないのか。金融機関は一般的に融資額に対応した換金が容易な担保が必要とのスタンスをとってきた。したがって、知財ファイナンスの場合も、知財の価値を評価して担保設定するという、担保型の知財ファイナンスを志向してきた。しかし、知財は、従来型の担保資産である不動産や在庫・売掛債権と異なり、多くの場合には取引例が乏しいために価値評価が難しい。また、換価も容易でないケースが多いため、金融機関が求める換金が容易な担保としては十分ではなく、結果として、知財ファイナンスが普及してこなかったと考えられる。

知財ファイナンスを広めるには、顧客理解型の知財ファイナンスへの取り組みが重要である。フィクションの世界ではあるが、虎の子の知財をもって事業再生を果たした佃製作所(池井戸潤原作「下町ロケット」に登場するものづくり中小企業)の例にもあるように、知財は事業の推進力である。企業が保有する知財と事業との関係を分析することによって、金融機関は顧客の事業内容への理解を深化させることができる。財務諸表をベースに顧客企業の事業性を評価していた金融機関にとって、知財に着目した評価は、顧客理解を深める極めて有効な判断材料として認識されるべきである。

顧客理解型の知財ファイナンスの事例として、千葉銀行の取り組みがある。千葉銀行は2014年5月から、特許を1件以上保有する企業に対して、三菱総合研究所が提供する「企業特許レポート」を参考に、特許の取得背景や事業戦略を把握し、財務諸表には表れない技術力や商品の強みなどを融資の判断材料の一つとして活用する取り組みを開始した。注目すべきは特許を担保として捉えるのではなく、特許価値評価を技術や知財を切り口とした事業性の評価につなげている点だ。実際に、一号案件となった三立機械工業(リサイクル機器製造販売業)の場合、「企業特許レポート」に基づいて同社の特許および事業を分析し、原則無担保での融資に至った。

三立機械工業は千葉市内で廃電線リサイクル機器の製造販売を営んでおり、廃線リサイクル技術を磨き上げ、特許として保有していた。千葉銀行は、特許情報を通じ同社の廃線リサイクルに関する高い技術力が事業の屋台骨となっていることだけではなく、特許が海外出願されていることから世界の環境問題解決に対する高い関心、将来的な海外展開の展望を推し量ることができた(*2)。財務諸表を見ているだけでは決して見えてこない、同社事業の本質に対する理解につながったのだ。三立機械工業も「金融機関がよくぞ技術の深部にまで踏み込んでくれた」と感動し、同行との信頼関係が強化されたという。

以上のように、金融機関は、担保型の知財ファイナンスではなく、顧客理解型の知財ファイナンスに取り組むことが重要である。金融機関が技術を強みとする(隠れた)優良企業の事業再生や新規事業創出に顧客理解型の知財ファイナンスを活用しつつ貢献していくことで、地方創生ひいては日本創生につなげていくことができよう。

*1:本稿定義による

*2:同社は実際に、国際協力機構(JICA)の中小企業海外展開支援事業~普及・実証事業~(2014年度補正)に採択され、インド国「ワイヤーハーネスからの銅資源高度リサイクル普及・実証事業」に取り組み始めている。


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