オープンイノベーションを阻害する三つの抵抗勢力と六つのポイント(その2)

経営イノベーション本部  藤本敦也

本コラムのその1では、「オープンイノベーションを阻害する立場になる可能性のある三大抵抗勢力」を紹介した。以下では、その三大抵抗勢力がもたらす代表的な六つの阻害要因を提示し、それへの対応策を紹介しよう。

代表的なオープンイノベーションを阻害する六つの社内要因

代表的なオープンイノベーションを阻害する六つの社内要因

出所:三菱総合研究所

経営トップの心変わり1:「はしごを外される事態」に事前に備える

「経営トップやイノベーション責任者の交代」により、新事業や新サービスに関して見直しの圧力がかかってしまうような事態に、いかに備えるべきか?

その対策は、まずは経営トップのみならず、経営陣全体を巻き込みながら検討を進めていくことである。新事業の検討段階で、あえて役員などへ事前に意見を聞きつつ進めていくことで、役員たちに「自分たちも参画してここまできた」と思わせることが重要である。経営トップの交代があっても、役員の中から次のトップが選ばれることが多いため、見直し圧力を軽減することができる。ただし役員は既存事業と同じ見方で新事業の判断をしがちであるため、新しい需要を見逃すことがある。その場合には、社内的軋轢を生まないために、役員の意見が必ずしも正しくないことをターゲット顧客の口から言わせることが重要である。よりリアルに顧客の声を伝えるために、顧客ヒアリングの様子を動画で撮影し役員報告で活用するのもポイントである。

経営トップの心変わり2:「急に欲をかいてしまう病」に適切に対応する

経営者が前のめりになりすぎて「急に欲をかいてしまう」事態もたびたび目にする状況である。

妥当な打ち手としてはビジネスモデルが見えてきた段階で、収益の分配ロジックや権利関係を早めに詰めておくことが挙げられよう。バリューチェーンの企業間の役割分担の明確化、ジョイントベンチャーを作るのであれば出資比率の明確化、またビジネスモデル特許などを共同出願する際の割合の明確化などを行っておくことである。この段階では、まだ海のものとも山のものとも分からないため、比較的冷静に利益の分配方法についての議論を行うことができる。

加えて、自社ではできないスタートアップの強みを明確化し、いつでも経営陣へ説明できるようにしておくことが重要である。例えば、スタートアップが独自に保有している知財やネットワークなどが挙げられる。また、事業収支計画上の利益はあくまでスタートアップと連携した際のものであり、自社で行った場合には人件費や一般管理費などが大幅に増大してしまう。そのため、想定しているような利益が出ないときなどに、コスト的な面でもスタートアップ側の強みが存在することも多い。

社内他部門に求められる対応1:大企業への既存ルール・システムを必要に応じてベンチャーに導入⇔逆に大企業側のシステムの見直しを検討

社内の取引先基準や既存の決済システムなどが阻害要因となるような場合、どのような対応をとるべきだろうか?

まず社内基準への対策であるが、個人情報保護などの基準はスタートアップであっても厳守してもらうことが原則である。そのための体制構築などのノウハウがスタートアップ側にない場合は、大企業側の担当者が連携担当としてスタートアップに出向するなど、スタートアップ側の社員として機能するとよい。あくまでスタートアップ側の社員として行うことが社内の責任上ポイントとなってくる。一方で取引先には3年間など一定期間の収支データの提出を求めるという社内ルールを持つ企業も多いが、設立数年以内のスタートアップに対しては、やはり社内的な特例措置として一定期間以下でも認めてもらう働きかけが必要となってくる。

また新たなマネタイズを行う場合は、既存の社内システムの改修ではなく、サブスクリプションモデル向けのプラットフォームなど他社が提供している決済代行サービスを活用するほうがコスト面、スピード面で優れていることが多い。これらのメリットにより社内を説得し、外部サービスを柔軟に活用していくことで、社内決済にかかる時間の大幅な短縮が見込めるだろう。

社内他部門に求められる対応2:営業部隊の協力を得られる仕掛けを考える

社内の営業部隊の協力が得られないときに、どのように対応すべきだろうか?

この点はプル戦略が一つの対策となり得る。新しい商流を作って少量でも良いので販売を行い、メディアなどで取り上げられた後に、顧客から既存の営業担当者に問い合わせが入るように仕向ける戦略である。この場合、営業担当者は顧客からの要請には全力で対応する傾向があるため、むしろ営業担当部から逆に売らせて欲しいという流れができ、以後の販売に関しても既存の商流を活用できる可能性が高まる。

イノベーション担当部門に求められる対応1:外部の力を活用する

事業化フェーズでは、イノベーション担当部門だけでなんとかしようという発想は、そもそも捨てるべきである。第一に、商流開拓やPRの伴走型コンサルサービスを活用することを考えるべきだ。コンサルの選び方としては、戦略や戦術の立案だけでなく、遂行まで含めたサポートを行ってくれる伴走型コンサルを選ぶことが重要である。商流開拓であれば、新規チャネルに対してのドアノックや提携交渉、PRであれば、メディアに対する記事作成やイベント実施までを遂行してくれることが条件となってくるだろう。

もう一つの方法として、スタートアップ側でスキルのある人材をキャリア採用することがあげられる。大企業側でキャリア採用する場合と比べ、採用にかかる手続きやコスト面で優れていることが多い。

イノベーション担当部門に求められる対応2:顧客との直接の関係を維持し続ける

事業化フェーズでは、それまでの実証実験以上に担当者の負荷が精神的にも肉体的にも大きくなってくる。そのため担当者のモチベーションが、事業化をやりきるまで維持できない場合が出てくる。担当者を変更することもあるが、事業化への負荷を乗り切るためのモチベーションという観点からすると、あまり思い入れのない社員が担当者になることも望ましくない。

担当者のモチベーションの原点の一つはターゲット顧客の課題解決であるため、事業化フェーズでも常にターゲット顧客との接点を持ち続けることが、モチベーション維持の観点からは重要となる。事業化フェーズであっても定期的に新サービス体験会や個別ヒアリングなどを実施し、自らの取り組んでいる新事業が課題解決になっている実感を得ることこそがモチベーション維持への一番の特効薬である。また、やむなく担当者変更を行う場合であっても、新担当者に対して定期的にターゲット顧客とのリアルな接点をもつ仕掛けを作っておくことが、モチベーション育成に大きく役立つ。ここで得たモチベーションを減らさないためにも、トップが方針を変えずに担当セクションや担当者を庇護し続けることも必要不可欠である。

以上、本稿で述べてきた通り、事業化フェーズでは思わぬ阻害要因が社内から出てくることが多い。それまではイノベーション担当部署内でほぼ完結していた話が、経営トップの注目を集めはじめ、他部門と連携して行うフェーズに入ってくることが背景にある。基本的には社内とはいえ、他部署は異なるミッションとロジックで動いているため、社外との交渉に近いぐらいの緊張感をもち、社外の知見や社内ネットワークをうまく活用して対応することが求められる。

(本稿は、『月刊 研究開発リーダー第148号 2018年7月号』への寄稿「オープンイノベーションによる事業化を阻害する社内要因とその対応方法」を加筆修正して作成した)


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