長期ビジョンで企業変革を実現する
第2回:将来の変化シナリオを共有する

経営イノベーション本部  藤澤広洋 宮川貴光 山越理央

本連載では、長期ビジョンの有効性と、その策定プロセスに関して紹介する。第1回では、なぜ今長期ビジョンが求められるのか、いつだれが策定するべきなのかについて解説した。今回は、社外で起きる事業環境変化をどのように捉え、自社の変革方針にどのように方向付けを行うべきかについて解説したい。

長期ビジョン策定の初期段階では、将来にかけて対応すべき重要な外部要因およびその要因がもたらす自社へのインパクトについて、策定メンバーの間で共通認識をもつことが重要である。このことができるか否かが、この後の方針検討の成功を大きく左右する(図1)。

図1 長期ビジョン策定の5ステップ

長期ビジョン策定の5ステップ

出所:三菱総合研究所

(1)「変わらなければいけない」という覚悟を共有し、変革チームを作り出す

長期ビジョン策定にあたっては、最初の段階で「なぜ今長期ビジョンを策定するのか」ということを、策定メンバー全員が腹落ちすることがポイントとなる。全員が、「将来の飛躍に向けた変革を推進するのは自分でありこの策定チームである」という覚悟をもつことが重要なのである。

とは言え、この段階では往々にして、経営幹部や次世代リーダーの中にも長期ビジョンの具体的なイメージをもてていないメンバーが存在することも事実だ。

そこで有効になるのが、策定メンバー全員で将来の事業環境認識を共有するアプローチである。将来の変化を踏まえ、自社が変われば大きな成長機会を取り込める一方、変化に対応できなければ、自社の競争力が低下するという認識を共有するのである。

(2)重要な変化を見つける

通常、長期ビジョンの設定年は10~15年程度先に据えることが多い。長期ビジョンの期間中に起こりうる変化のトレンドを特定し、自社へのインパクトの大きさや現実化の可能性から、自社にとって重要な外部要因を特定する。

三菱総合研究所では、10年20年スパンのメガトレンド(蓋然性の高い社会変化の潮流)についての見立てを蓄積し絶えず更新している(図2)。

検討においては、まずこれらを策定メンバーにインプットする。策定メンバーは、社会変化の潮流に関する情報を元に、自社にとっての意味合いを検討し、将来にかけて優先して検討すべき外部要因を洗い出す。

図2 メガトレンドの一例

メガトレンドの一例

出所:三菱総合研究所

洗い出した重要な外部要因は、自社の事業に対する具体的なインパクトとその大きさをプラス・マイナス両面で検討し、そのインパクトが現実化する可能性について整理する(図3)。なお、定量化が難しいものは定性的な見立てでも構わない。ここでは策定メンバーの間での共通認識を生み出すことが最大の目的だ。

図3 外部要因のプロット整理例

外部要因のプロット整理例

出所:三菱総合研究所

抽出した外部要因の中で、大きなインパクトをもたらし、現実化する可能性も高い領域(図3①の領域)は、全社を挙げて優先対応するべきものである。この領域はすでに全社として認識されていることが多く、長期ビジョンのベースのシナリオとして位置付ける。

ここで見落としてはいけないのが、大きなインパクトをもたらすが、現実化する可能性が低い、もしくは不透明な領域(図3②の領域)である。例えば、新たなプラットフォーム・ビジネスの出現が、多くの企業の既存ビジネスモデルを長期的に脅かしうるといった例が該当する。こうした外部要因は、社内で存在自体は認識されてはいても検討が後回しにされていることが多い。後回しではなく、長期ビジョンの検討においてその対応方針を明確化していく。

閑話休題:プラットフォーム・ビジネスの台頭

近年、米国GAFAや中国BATに代表されるデジタルプラットフォーマーが、巨大な顧客基盤から得られるデータを蓄積・活用することで、消費者や市場への影響力を高めている。

データの収集・蓄積・活用を意識したプラットフォームの構築を目指す動きは、伝統的なバリューチェーン型の業界でも増えている。代表例が、2018年のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でトヨタ自動車が発表したモビリティサービス・プラットフォーム「e-パレット」だ。

プラットフォーム・ビジネスは、業界の既存の競争ルールを根元から変えてしまうほどの変化をもたらしうる。例えば、ある商材の購入・利用における顧客接点をプラットフォームが握るようになると、顧客と自社の間に乖離が生じる。そうなるとプラットフォーマーが顧客へ自社商材を推奨してくれなければ、自社の商材の顧客認知すら難しくなるかもれしれない。

大半の企業にとって、プラットフォーム・ビジネスは、自社のビジネスモデルの競争力に大きな影響をもたらしうる重要な変化と捉えることが必要だ。

(3)特定した外部要因について変化のシナリオを描く

外部要因が特定できたら、自社にとっての意味合いを検討し、対応方針を描いていく。自社が現状見えている範囲に発想がとどまらないよう、まず市場や顧客、競合の変化についての将来シナリオを描いた上で、自社へのインパクトを検討するアプローチが有効である(図4)。

具体的には、重要な外部要因が引き起こす市場や顧客の変化を把握し、そうした変化に合わせて、競合が取ると想定される行動を検討する。この時に競合の行動の動機となるだろう狙いや背景まで考察することが重要だ。当然、ここで取り上げる競合は既存企業のみならず、まったく異なる分野からの参入者も含めて検討する必要がある。

図4 シナリオ整理のフレーム例(記述内容はイメージアップのための例)

シナリオ整理のフレーム例(記述内容はイメージアップのための例)

(図クリックで拡大します)

出所:三菱総合研究所

(4)自社へのインパクトを分析する

市場・顧客と競合の動向まで特定できたら、自社にとってのインパクトとして各事業や各機能にもたらされる変化を、機会と脅威の両面から検討する。自社としてどのような対応を取るべきかをこの時点で洗い出しておくことで、具体的な変革方針を設定する際の材料とする。

なお、ここでの対応施策はあくまでも外部環境を踏まえた仮説にすぎず、自社リソースや自社らしさを踏まえた、自社ならではの戦略に磨き込んでいくことが重要となる。


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