連載コラム

[ 2011.10.19 ]

ニューノーマル時代のマーケティング再考
<3> 潜在個客を深く知るために
(4)市場変化への対応 ―新商品・新業態の必要性

未来情報解析センター 研究員 中尾成政

■今後の市場変化を捉える観点
人口減少が進む日本。2010年時点の人口は1億2,800万人(※1)、15年後には1億2,000万人となり、35年後には1億人(※2)を割込むと見込まれている。
「国内市場は縮小するのだからこれまでのような成長は期待できない」と、未来を悲観的に捉える企業も少なくないだろう。しかし、市場をボリューム(人口や世帯数)という観点だけではなく、質的な観点も含めて捉えることで、持続的成長に向けた事業戦略のヒントが得られるのではないだろうか。

■見込まれる質的変化
市場で見込まれる質的変化として、高齢化、女性の社会進出(働く女性の増加)、非婚・晩婚化、世帯の単身化等があげられる。これらのうち、例えば世帯の単身化の観点に着目してみる。
戦後、日本の標準世帯といえば夫婦と子供からなる世帯を指し、2000年頃まで同世帯が全世帯に占める割合は3~4割であった。一方、単身世帯は2割程度で、どちらかといえばマイノリティに分類されていた。しかし2000年から2005年にかけて、単身世帯と夫婦と子供からなる世帯の構成比は逆転。現在(2010年)、単身世帯が全世帯に占める比率は31%、今後も一貫上昇し15年後には36%となる見込みである(図表1)。これは、高齢単身世帯(一人暮らしのお年寄り)が増加するものと予想されているからであり、今後は単身世帯が標準世帯となるのである。

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■世帯の単身化が進展することによる影響は?
世帯の単身化が進展することにより、消費市場にはどのような変化が見込まれるのであろうか。三菱総合研究所が行った「首都圏における将来の生活需要推計」の結果から、食品の需要を例にして消費市場への影響を考えてみたい。

単身世帯における消費が相対的に多い中食用食品については、単身世帯が牽引する形で総需要も増加する見込みである(図表2)。一方、生鮮食品の総需要は人口ならびに総世帯数の推移にあわせて横這い~若干減少していくものと推計されている。興味深いのは、この需要を単身世帯と単身世帯以外の世帯(=二人以上の世帯)に分けた場合に、単身世帯以外の世帯の需要は減少するものの、単身世帯の需要は増加が見込まれる点である(図表3)。つまり世帯構成が単身世帯にシフトすることによって、需要の構成もシフトするのである。

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■市場の質的変化への対応事例
このような市場の質的変化を見据えながら、その成長を実現するために自社業態(販売する商品、方法、店舗ポートフォリオ等)を柔軟に変化させて新商品の開発、販売方法や店舗構成の見直しを行っている企業がいくつか存在する。

例えばコンビニエンスストアチェーンA社。従来、コンビニエンスストアのメインターゲットは学生やサラリーマンといったような若年・壮年層であり、取り扱い商品もこれらの層のニーズに見合った加工・保存食品が中心であった。しかし、メインターゲットである若年・壮年層の増加が見込めないうえに国内店舗数が4万店を超え、市場は飽和状態にある。また、前出の当社推計でわかるとおり、人口減少下において一企業が持続的成長を達成するためには、単身世帯需要の取り込みが一つの鍵となることが示唆される。そこでA社では、近年の単身世帯、特に高齢単身世帯の増加を見越して、野菜・果物等の生鮮食品を取り扱う店舗の出店を加速させている。

また、世帯の単身化以外の変化に対応した商品開発の事例もある。そのひとつが、女性を対象とした生命保険だ。これまで、乳がんの治療費は比較的少額のため、預貯金でも賄えるものという認識が強かった。しかし、女性の就労が一般的となり、家計に占める女性の収入の割合が高まる近年においては、治療費に加えて治療期間中の収入低下についても実質的な損失・負担と認識されるようになり、これに対する保障ニーズが高まりつつある。働く女性の増加に伴って、扶養者を中心とした従来の保障ニーズとは異なるニーズが生まれているのである。こうしたニーズ変化に対し、生命保険会社は乳がんや子宮がんなど女性特有の疾病に対して手厚い保障を備えた保険商品を積極的に開発している。

■まとめ
一見、市場の成長が見込めないと思われがちな人口減少社会。ただし、セグメントによっては市場拡大を見込めるケースも存在する。重要なのは、既存の顧客基盤や業態を前提とせず、一般消費者・生活者の動向や業態変化も視野に入れながら、定常的かつ客観的に市場・顧客を観察し、その質的変化の予兆を的確にとらえることである(※3)。少し視点を未来に向け、このような取り組みを始めてみてはいかがだろうか。


※1 総務省統計局「平成22年国勢調査」の速報値。
※2 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)」による推計値。
※3 当社が提供している「生活者市場予測システム(MIF)」は、生活者(男女3万人)の意識・行動を調査したもので、2011年以降も定点的に実施していく予定である。生活者の新たな動きを捉えるための強力なツールとして、是非活用いただきたい。
 

執筆者: 中尾成政、伊藤友博、小野祐樹

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