福島事故と事故対応 ~アポロ13号に学べ~

原子力安全事業本部  中島清

いま、わが国では、世界的にみて前例のない取り組みが進められています。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に起因して炉心溶融や建屋爆発が連続して発生した福島第一原子力発電所(1F)の廃止措置の取り組みです。

本稿では、1F事故の概要を示した上で、震災後から進められている1F廃止措置の取り組みについて示します。事故の問題点、廃止措置の難しさなど、関連する疑問点に対するヒントとなれば幸いです。

なお、本稿に含まれる見解は、あくまでも執筆者個人の考えとして述べるものです。

1.1Fの概要

1Fは、1号機から6号機まで、6基のプラントを擁する大規模な発電所で、1~4号機は互いに近接して立地し、少し距離を置いて5、6号機が立地しています。それらは沸騰水型原子炉(BWR)で、原子炉格納容器(PCV (※1)以降PCVとします)の型は1~5号機はMarkⅠ型、6号機はMarkⅡ型で、いずれも1970年代に商業運転に入っています。事故当時、1~3号機が運転中でした。4~6号機は定期検査のため停止中で、4号機の燃料は使用済み燃料プールに保管された状態でした。

2.3.11に1Fで起きたこと

(1)わが国で初めて発生したシビアアクシデント (a) (b)

2011年3月11日 14時46分に発生した地震で、稼働中の1~3号機は自動停止しました。発電プラント本体には、目視で確認できる損傷はなかったとされていますが、外部からの送電線および関連設備が損傷したことにより、外部電源を喪失しました。外部電源喪失後、非常用ディーゼル発電機が起動し電力を供給していましたが、地震から約50分後に到達した津波によって、非常用ディーゼル発電機、冷却用海水ポンプ、電源盤が冠水し、6号機の1台を除く全ての非常用ディーゼル発電機が停止し、6号機を除いて全交流電源喪失の状態となりました。

さらに、1・2・4号機では津波によるバッテリーの浸水、3号機ではバッテリーの枯渇により直流電源も失われ、1~4号機は全電源喪失状態となりました。電源が全て失われたことにより炉心燃料の冷却手段が失われ、炉心が損傷して溶融するというわが国の原子力発電所で初めてシビアアクシデント (※2)と呼ばれる事故状態となりました。

1~3号機では、炉心冷却手段が失われたことにより、原子炉水位が低下して炉心が露出し、炉心溶融に至り燃料から放射性物質が放出されました。炉心溶融の過程で、燃料被覆管のジルコニウムと水の反応による大量の水素生成が生じ、これらはPCVを経て原子炉建屋に漏えいし、1・3・4号機の原子炉建屋で水素爆発が発生しました。これによって、大量の放射性物質が環境中に拡散されました。放射性物質の放出量は、ヨウ素131換算で約90万TBq(テラベクレル (※3))と推計されています。

なお、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故における大気中への放出量はヨウ素131換算で520万TBqです。チェルノブイリ原子力発電所事故では、建屋ではなく、原子炉そのものの爆発によって放射性物質が放出・拡散したため、1Fに比べ放出量が多くなっています。

地震、津波、電源喪失、シビアアクシデントへの対策は講じられていましたが、1F事故は、これらの事象が発電所内の全ての施設で同時に進行するという、想定を大幅に超える規模の事故だったといえます。まさに、想定外の事態で、地震による外部電源喪失をきっかけとする電源喪失状態が長期化し、地震および津波による被害が発電所全体に及んだため事前の事故対策の効果も限定的でした。

(2)事故が残した課題 (c)

希ガス、ヨウ素、セシウムなどの放射性物質が大気中に放出され、食品・水道水・大気・海水・土壌などから事故由来の放射性物質が検出されました。住民避難、作付け制限、飲料水・食品に対する暫定規制値の設定や出荷制限といった施策がとられ、多岐にわたる影響を社会・経済に及ぼしました。

現在、安全確保を大前提として1F廃止措置の取り組みが進められていますが、発電所内には放射性物質によるリスク源がさまざまな形で残されており、取り組みの進捗を困難なものとしています。リスク源としては、汚染水、廃棄物、燃料、燃料デブリがあります。

汚染水は、津波、炉心冷却水の流入、雨水の侵入、地下水の浸透などにより原子炉建屋やタービン建屋などに滞留したもので、多核種除去設備(ALPS (※4))など、複数の浄化設備で処理され、放射性物質が取り除かれています。処理水や放射性核種が濃縮された溶液はタンク等に保管されています。

廃棄物は、汚染水処理の二次廃棄物(使用済みの吸着塔、容器、フィルタ)、がれき、伐採木などの放射性固体廃棄物です。また、原子炉圧力容器(RPV (※5) 以降RPVとします)およびPCV内には、放射能で汚染された構造物や機器が存在しており、これらは解体作業に伴って廃棄物となります。

各号機の使用済燃料プールには、使用済燃料と未使用の燃料が保管されており、燃料デブリに先立ち、取り出す必要があります。4号機については、2014年に全ての燃料が取り出されています。

1F廃止措置をとりわけ困難としているものは燃料デブリの存在です。計画では、リスク源である燃料デブリを取り出す予定ですが、次のような点から取り出しには技術的困難さが伴っています。

・放射線源である点

事故から7年が経過し、放射性崩壊により線源が弱まっているとはいえ、依然強い放射能を持つため、人が近づくことはできません。そのため、燃料デブリの取り出しには遠隔技術や監視技術が必要となります。また、燃料デブリには核燃料物質が含まれているため、再臨界を防止するための対策が必要となります。

・施設内に分散している点

施設内部の状況は、シミュレーション、宇宙線ミュー粒子による内部の透視、カメラを使った内部調査によって少しずつ解明されてきています。事故によって炉心燃料が溶融し、RPV底部に落下して蓄積し、さらにRPV底部を破損してPCV底部に落下したと推定されており、この過程でPCV内に燃料デブリが広く分散したと考えられています。号機によって状況は異なりますが、燃料デブリは炉心部、RPV底部、PCV底部または周辺部に存在しているとされています。そのため、場所に応じた燃料デブリへのアプローチ方法を検討する必要があります。
また、燃料デブリは、シミュレーションで、1~3号機をあわせ600~800トン存在すると推定されており、膨大な量を取り出す必要があります。値に幅があるのは、シミュレーションの条件やモデルには不確実さが含まれており、使用する計算コードによって結果が変わってくるためです。なお、1979年に発生した米国TMI (※6)事故の燃料デブリは約20トンでした。TMI事故の場合、炉心溶融は限定的でRPV内にとどまったため、1F事故に比べ、燃料デブリ量は少なくなっています。

・性状がばらついている点

燃料デブリは、RPV内で溶融混合した炉心燃料と構造物が冷却固化したもの、溶融燃料が付着し破損した構造物、PCV底部に落下した溶融燃料がコンクリートとの相互作用により、コンクリート成分と混合して再び固まったものなど、形、大きさ、材質などさまざまなものが推定されており、燃料デブリの取り出しでは、その性状に応じた切削や収納などの技術が必要になります。

3.これまでの取り組みとこれから (c) (d)

(1)取り組みの体制

1Fの廃炉・汚染水問題の根本的な解決に向けて、政府が中長期ロードマップを策定し、それに基づく廃炉・汚染水対策の進捗管理を実施しています。2013 年11 月に、1Fは原子力規制委員会によって特定原子力施設として指定され、東京電力が廃止措置を実施しています。技術的な難易度が極めて高い課題を多く伴うため、東京電力自らによる取り組みに加え、政府による補助事業や施設整備事業を通じ、現場への適用を目指した信頼性の高い技術の研究開発が進められています。

国際廃炉研究開発機構(IRID (※7))および日本原子力研究開発機構(JAEA (※8)) をはじめとする研究機関が、中長期ロードマップに基づき、国内外の叡智を結集し、廃炉に必要な技術開発に取り組んでいます。中長期的な視点から、廃炉を適正かつ着実に進めるための技術的な検討を行う役割を原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF (※9))が担い、政府から重要課題の提示を受けて検討した結果を「戦略プラン」として報告し、廃炉工程の着実な推進に向けて、東京電力に対して技術的見地から助言、指導をするとともに、研究機関とも進捗状況および課題を共有して研究開発の円滑な推進を図っています。

(2)取り組みの内容

中長期ロードマップは、廃炉作業が終了するまでのマイルストーンを明示し目標となる工程を立てたものです。使用済燃料プール内の燃料取り出し開始 (※10)までの期間(第1期)、燃料デブリ取り出しが開始するまでの期間(第2期)、廃炉完了までの期間(第3期)に分けられており、現在は第2期にあたり、廃炉完了時期を2011年12月を起点として30~40年後としています。

汚染水対策 汚染水発生量を150 m3/日程度に抑制 2020年内
浄化設備等により浄化処理した水の貯水を全て溶接型タンクで実施 2018年度
滞留水処理 ① 1、2号機間および3、4号機間の連通部の切り離し 2018年内
② 建屋内滞留水中の放射性物質の量を2014年度末の1/10程度まで減少 2018年度
③ 建屋内滞留水処理完了 2020年内
燃料取り出し ① 1号機燃料取り出しの開始 2023年度目処
② 2号機燃料取り出しの開始 2023年度目処
③ 3号機燃料取り出しの開始 2018年度中頃
燃料デブリ
取り出し
① 初号機の燃料デブリ取り出し方法の確定 2019年度
② 初号機の燃料デブリ取り出しの開始 2021年内
廃棄物対策 処理・処分の方策とその安全性に関する技術的な見通し 2021年度頃

汚染水対策としては、2020年内に汚染水発生量を150m3/日程度に抑制するとともに建屋内滞留水の処理完了を目指しています。使用済み燃料プールからの燃料取り出し開始時期については、1、2号機が2023年度目処、3号機が2018年度中頃とされています。燃料デブリ取り出しは、2019年度に初号機の燃料デブリ取り出し方法を確定し、事故発生から10年後に当たる2021年度内に初号機の燃料デブリ取り出しを開始するとしています。

廃棄物対策については、2021年度頃に、処理・処分の方策とその安全性に関する技術的な見通しをつけるとしています。燃料デブリの取り出しについては、NDFが「戦略プラン」で技術的検討を行っており、以下の方針としています。

  • ステップ・バイ・ステップのアプローチとし、作業は小規模なものから始め、状況を確認しながら、得られる情報に基づいて柔軟に見直しを行いつつ段階的に拡大していく
  • 取り出す方法としては、PCVを完全に水で満たす「冠水工法」は技術的難易度が高いことなどから、容器内に存在する燃料デブリを「気中工法」で取り出すことに軸足を置く
  • まず、PCV底部の横からアクセスして燃料デブリを取り出すことに軸足を置く

4.最後に

当社は原子力安全に関わる調査・研究に取り組んできています。また、廃炉・汚染水対策事業事務局として、廃炉に必要な技術開発のための政府による補助事業のマネジメントを担当しており、今後も、1Fの廃止措置に貢献していきます。

最近、原子力安全関係で一緒に仕事をした米国の知人から一冊の本をもらいました。タイトルは、“Failure is not an Option(失敗は許されない)”。 3人の宇宙飛行士を乗せ、月面探査のため月に向かう途上で事故を起こしたアポロ13号を、無事、地球に帰還させた飛行管制主任ジーン・クランツの自伝でした。失敗の許されないミッションに長年取り組んできた方の重たい言葉です。廃炉・汚染水対策は失敗が許されません。リスク、コストを十分把握し、念には念を入れ、確実に廃止措置を進めていくことが重要であると認識しました。

最後に、ジーン・クランツが自身の仕事を通じて残した、十か条の教訓を紹介して、この稿を終えます。

  1. 先を見越して積極的に動く。
  2. 自分の担当は自分で責任を持つ。
  3. やるときは全力で。手を抜かない。
  4. わからないことはその場で必ず確認する。
  5. 考えられることはすべて試し、確認する。
  6. 連絡も記録も、重要なことはすべて書く。
  7. ミスは隠さない。それがチームメイトへの教訓になる。
  8. システム全体を掌握する。
  9. 次に来るものを常に意識する。
  10. チームワークを尊重、信頼感を持つ。

出所:宇宙航空研究開発機構(JAXA)「宇宙に挑むJAXAの仕事術」216頁(2014年3月、日本能率協会マネジメントセンター)


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