観光プロモーションをKPIでマネジメントする-東京都及び東京観光財団の取り組み

社会システム研究本部 主任研究員 尾花尚弥

■なぜKPI※なのか ※Key Performance Indicator(重要業績評価指標)

東京都及び東京観光財団(TCVB)は、東京を訪れる外国人旅行者を増やすことを目的とした戦略的な観光プロモーションを実施していくため、ターゲット市場における有望な需要層(有望セグメント)の特定やこれらを対象としたプロモーションの企画立案に取り組むとともに、プロモーションの成果を計測するための指標(KPI)の開発に取り組んでいる。当社は、この取組みを支援している。

KPIとは、“Key Performance Indicator”(重要業績評価指標)の略であり、民間企業の業績管理ツールの一つとして普及している。組織の業績目標を達成するうえで重要な成功要因(CSF:Critical Success Factor)を特定し、この変化の状況を把握するのに適したデータをKPIとして設定する。KPIを計測すれば、CSFの変化ひいては業績目標の達成に向けた進捗状況がわかるという仕組みだ。
このKPIを、観光プロモーションのマネジメントに取り入れる事例が国内外で増えている。国内では、観光庁が先駆的にKPIの導入を試みている。観光プロモーションのマネジメントにおいて、KPIは例えばこのように適用できる。

  1. 業績目標(最終目標)としては「観光入込客の増加」、「観光産業の収益増加」などが挙げられる。しかし、これらは一朝一夕には達成できない。
  2. そこで、CSFとして「域内観光地のアピール強化」、「訪問意欲を喚起するための優遇・特典の拡充」などさまざまな方策を特定し、観光地のブランドを消費者の間に浸透させる活動を始める。
  3. 活動がどの程度進んでいるかを定量的に測るため、「観光地のキャッチコピーを認知している人の割合(多くの人が知っていることを目指す)」、「観光客向けのサービス・割安チケットを利用する人の割合(大半が利用することを目指す)」をKPIとして設定する。これらを用いて最終目標にどこまで近付いているかを把握する。

■東京都及び東京観光財団の取り組み

東京都及び東京観光財団(TCVB)(※1) では、東京を訪れる外国人旅行者を増やすことを目的とした戦略的な観光プロモーションを企画立案しており、その効果を計測するためのKPIの開発に取り組んでいる。
TCVBでは、マーケティング分野で構築されたAIDAモデル(※2) の段階毎にKPIを検討しているが、さらに外国人旅行者の誘致を目的とした観光プロモーションの効果をより的確に捉えるとともに、そのマネジメントに役立てるために、次の3つの工夫を講じている。

  1. 観光プロモーションを“B to B”と“B to C”に分けてKPIを開発

    TCVBは、ターゲットとなる外国の有望な需要層(有望セグメント)を直接対象としたプロモーション(B to C)に加え、有望セグメントが接するメディアや旅行代理店を対象としたプロモーション(B to B)も重点的に実施している。このため、有望セグメントだけでなく、メディア・旅行代理店についてもプロモーションによる意識や行動の変化を捉える必要があり、これらがわかるKPIを開発している。

    【メディア・旅行代理店向けプロモーション(B to B)のKPI例】
    ・「訪日旅行のうち東京を含むツアーの割合」が前年より増加した旅行会社の割合
    ・プロモーション実施後の露出記事数
  2. KPIを補足する2つの指標の設定

    プロモーションが計画どおりに行われているかどうか、その実施状況を把握するための指標としてアウトプット指標をKPIに対応付ける形で設定している。
    また、プロモーションによる効果としては「KPIで計測する効果に至る前に発現する中間的な効果」、「プロモーションのみでは実現し得ないがその波及により発現が期待される効果」などもある。TCVBでは、これらの効果の状況も把握するために、モニタリング指標を設定している。

    【モニタリング指標例】
    ・訪日ツアーにおける東京での平均滞在日数、宿泊数
    ・キャンペーン実施店舗への来訪者数
  3. 観光プロモーションの前提条件の変化及び外部要因の影響を把握するための指標

    プロモーションを計画どおりに実施したとしても、「プロモーションの前提となっていた条件の変化」や「ターゲット国の海外旅行需要の減退」などの事態が発生した場合、期待していたプロモーションの効果が発現しない可能性が高い。そこで、このような状況をモニタリングするための指標を別途設定している。

    【前提条件の変化を把握するための指標例】
    ・所得分布
    ・直行便就航都市数

    【外部要因の影響を把握するための指標例】

    ・対象国・地域の国内総生産(GDP)
    ・国際イベント、災害などの有無

図 観光プロモーションの効果と影響を与える要素
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■観光プロモーション・マネジメントの今後

現在、地方自治体の多くが東日本大震災の影響で落ち込んだ外国人旅行者数を回復すべく、精力的に観光プロモーションに取り組んでいる状況にあって、そのマネジメントの重要性はいっそう高まっている。KPIは、プロモーションの進捗状況を管理するツールとして有効であるが、この他にも以下のような取り組みが考えられる。

  • 市場の変化に応じてプロモーションを機動的に見直す仕組み(PDCA)の構築。例えば、KPIを四半期毎に計測し、その変化に応じてプロモーションの内容を調整する。
  • 観光地のポジショニングを踏まえた戦略策定。例えば、プロモーション対象となる観光地と競合する観光地のどちらが訪日旅行ツアーに含まれる割合が多いかを比較し、今後のプロモーションに反映させる。

東京都とTCVBの取り組みは、これらの先鞭を着けるものであり、今後の動向が注目される。

※1 TCVBは、東京都関連団体、東京商工会議所、民間企業・団体が出捐する公益財団法人。各団体と連携を図りつつ、東京への外国人旅行者誘致、コンベンション誘致、地域観光振興、観光情報の発信などの活動に取り組んでいる。

※2 AIDAモデルとは、顧客が商品を知り、購入に至るまでのプロセスを“Attention(注目)”、“Interest(関心)”、“Desire(意欲)”、“Action(行動)”の4段階に区分するモデルである。