エネルギー関連技術の展望

経営コンサルティング本部 事業戦略グループ  杉下寛樹

1. はじめに

2020年における世界の一次エネルギー年間消費量は石油換算で149億トンと、2010年の127億トンから17%の大幅な増加が予測されている。この増加量は日本の4年分以上の消費量に相当する。

エネルギー需給の動向は、各国の政策のみならず、関連技術の開発と普及にも大きな影響を与える。以下では、2020~2030年頃の中期的な視点から、エネルギー需給の動向とエネルギー関連技術の開発・普及について展望する。

2. 中期的なエネルギー需給の動向

中期的なエネルギー需要の増大を先導するのは、中国やインドを中心とする新興国である(図1)。増加する需要の多くは化石燃料(石炭、石油、天然ガス)で賄われる見込みであり(図2)、これらの化石燃料の需給が逼迫すれば、その影響は世界全体に及ぶことが予想される。

図1 世界のエネルギー需給見通し(地域別)


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出所:World Energy Outlook2012等を基に三菱総合研究所作成

図2 世界のエネルギー需給見通し(エネルギー源別)


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出所:World Energy Outlook2012等を基に三菱総合研究所作成

3. エネルギー政策の決定要因

以下では、各国のエネルギー政策を決定する要因を列挙する。

3.1 気候変動(地球温暖化)対策

2013年11月に開催された第19回気候変動枠組条約締約国会議(COP19)では、京都議定書約束期間後の2020年以降の世界全体の温室効果ガスの削減に関して、すべての国や地域を含む新たな枠組み策定に向けた合意が行われた。具体的な目標設定の見通しは不透明だが、先進国・途上国間の対立が続いていた中で、一歩前進と言える。特に、今や世界最大の温室効果ガス排出国となった中国を含む途上国にも削減努力を求めたことから、世界全体で気候変動対策を推進する素地ができたと言える。

3.2 エネルギー安全保障とコスト削減

中国、インド、東南アジア諸国では、増大するエネルギー需要を自国内産のエネルギー資源のみでは賄いきれず、今後エネルギー自給率が大きく低下する見込みである(表1)。そのため、エネルギー安全保障の確保が重要となる。

表1 各国のエネルギー資源の自給率の変化(2010年→2035年)
石油天然ガス石炭
中国 47% → 18% 90% → 58% 102% → 97%
インド 26% → 8% 80% → 54% 85% → 66%
欧州 33% → 21% 53% → 32% 56% → 39%

※欧州はOECD加盟国のみの値

出所:World Energy Outlook2012等を基に三菱総合研究所作成

同時に、エネルギーコスト削減も主要な目的となる。例えば中国では、2010年から2035年の25年間で年間エネルギー支出額が1.3兆ドル程度増加すると見込まれているが、省エネ投資を最大限に行った場合、その支出額を約30%抑制できると予測されている。インドでも、省エネ投資により年間数千億ドル規模のコスト削減が見込まれている。日本や欧州でも、引き続き石油や天然ガスの輸入依存度は高まる見込みであり、対策の重要性は共通している。

3.3 関連産業の競争力強化

こうした気候変動対策やエネルギー安全保障・コスト削減を進めるために、自国のエネルギー関連産業の育成も重要な目的となる。主に先進国においては、国策として省エネや再生可能エネルギー関連の技術開発が進められている。日本で2012年7月に開始された再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)やエコカーを対象とした税優遇等も、その一環と言える。

4. エネルギー関連技術の概要

2030年頃までに普及が期待されるエネルギー関連技術を例示する(表2)。

表2 2030年頃までに普及が期待されるエネルギー関連技術の一例(下線は本稿で概説した技術)
分野技術区分技術の例
供給 再生可能エネルギー 太陽エネルギー(光・熱)利用、洋上風力発電、地熱発電、海洋エネルギー
高効率火力発電 高効率火力発電
消費・需要 運輸 次世代自動車、高効率航空機・船舶・鉄道、高度道路交通システム
デバイス 次世代パワー半導体、高効率照明、ディスプレイ
エネルギー利用技術 省エネ住宅・ビル、エネルギーマネージメントシステム、高効率ヒートポンプ
製造プロセス 革新的製造プロセス
エネルギー変換・貯蔵・輸送 蓄熱・断熱等技術、燃料電池、蓄電池

出所:総合科学技術会議「環境エネルギー技術革新計画」等を基に三菱総合研究所作成

以下では、これらの中でも市場の大きな伸びが期待され、かつ日本が強みを有する技術として、洋上風力発電、高効率火力発電、次世代自動車、蓄電池について概説する。

4.1 洋上風力発電

再生可能エネルギーは、全エネルギー供給量に占める割合こそ小さいものの、先進国・途上国の双方で普及が見込まれている。中でも風力発電は2035年までの投資額が2兆ドルと予測され、市場規模は非常に大きい。すでに、2013年までに世界で318GW(ギガワット、一般家庭約30万~40万戸分)が導入され、再生可能エネルギーでは水力発電に次ぐ発電量となっている。導入が進んでいる欧州では、陸上風車の設置に適した平野部の土地の減少から、洋上風力発電を導入する動きが高まっている。2012年末までに55箇所(5GW)、さらに2013年には1.4GWの新規建設が見込まれている。これらのうち最大の導入量を誇る英国では22箇所(3.7GW)が稼働中で、2020年までに18GWを導入して国内電力の18~20%を洋上風力発電で賄う計画を立てている。

四方を海に囲まれた日本でも、その導入ポテンシャルの大きさ(環境省推計で1,382GWと太陽光発電の7倍以上)から、洋上風力発電が注目を集めている。2020年には最大で80GWまで導入が進むとの予測もあるが、これまでに建設された洋上風力発電は0.1GWにも満たない。この理由としては、固定価格買取制度(FIT)の下で太陽光発電に投資が集中したこと、日本は欧州と比べて遠浅の海域が少ないため、水深50mよりも浅い海底に固定する「着床式」風力発電の設置余地が限られていることが挙げられる。

そこで、より深い海域でも設置できる「浮体式」風力発電の開発が日本を中心に進められている。浮体式は着床式よりも建設の難易度が高いと言われているが、国も実証試験を行うなど積極的に支援を行い、2020年には着床式と浮体式とを合わせた洋上風力発電の規模を1GW以上に拡大する目標を打ち出している。コストや安全性など実用化に向けた課題は多いが、海外でも将来的には浮体式が増えると予想され、日本企業が強みを有する技術となることが期待される。

4.2 高効率火力発電

化石燃料を用いた火力発電は、低コストで大規模な電力供給に向いているという特性から、主に途上国で伸びが期待され、2035年までの投資額は約3兆ドルと見込まれている。

長年、効率的に発電するための燃焼条件の研究や、その条件(高温・高圧等)に耐える部材の開発が行われてきた。この分野における日本企業の技術力は高く、例えば三菱重工は、1,500℃以上の高温で高効率発電を行う大型ガスタービンを世界で初めて実用化している。ガスタービンで発生した高温の排熱を蒸気タービンでもう一度発電に利用する「ガスタービン複合発電(GTCC)」では、世界最高水準である61%の発電効率を達成している。

石炭の高効率・低環境負荷燃焼技術である「クリーンコールテクノロジー」に関しても、高温・高圧下で発電を行う「超々臨界圧石炭火力(USC)」や石炭をガス化させてガスタービンで発電を行う「石炭ガス化複合発電(IGCC)」等では日本の技術が世界トップレベルにある。現在、発展途上国では発電効率30%前後の亜臨界圧式が大半を占めているが、これらの技術を導入することで、発電効率が40~50%と従来と比べて大きく上昇するとともに、地球温暖化の原因となる二酸化炭素や、大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOx)・硫黄酸化物(SOx)が大幅に削減できると期待されている。

これらの技術に対しては、日本政府も技術開発や途上国への技術移転等に積極的な支援を行っている。

4.3 次世代自動車

次世代自動車の販売台数は、2020年には世界全体で年間1千万台以上に達すると予測され、30兆円程度の市場が期待されている。次世代自動車の主流は、エンジンとモーターを併用して走るハイブリッド自動車(HV)、モーターのみを利用して走る電気自動車(EV)、家庭用コンセント等から直接充電が可能でEVとHVの両方の特性を備えるプラグインハイブリッド自動車(PHV)の3種類である。これらの中では、2020年までは価格が手頃なHVが需要を先導するものの、EVやPHVの市場も次第に拡大すると考えられている※1

日米欧韓の自動車メーカーに加え、国策でエコカーの開発・普及を進める中国を加えた五極で、激しい技術開発競争が行われている。EVやPHVの普及に最も重要と考えられるのが、車載用リチウムイオン電池の大容量・小型化と低コスト化である。そのほかにも電気をより効率的に推進力に変えるためのモーターやインバーター等、関連部材の市場拡大も見込まれる。

4.4 蓄電池

ピーク時の需給逼迫や、天候に影響を受けやすい再生可能エネルギーの普及等、電力供給の不安定化が懸念されている。

その対策のため最も期待されているのが、蓄電池の活用である。電力が余る深夜に電力を貯め、不足時に放出することにより、需給の変動を吸収(負荷平準化)することができる。また、再生可能エネルギー等の発電量の変動を秒単位で調整し、電力品質を安定させる機能(周波数制御)も担うことができる。

蓄電池には多様な原理・特性のものがあるが、いずれも低コスト化と高密度化(小型化)を目指して研究が進められている。電力の安定供給に関連する蓄電池は主に以下の3種類である。

(1)系統用大型蓄電池
変電所において再生可能エネルギーの出力変動等を吸収する数千~数万kWh規模のもの。国内では経済産業省主導で、再生可能エネルギーの大量導入が予想される北海道と東北において世界最大規模の実証実験が行われている。

(2)需要家向け定置用蓄電池
地域コミュニティや工場、ビル、家庭等の電力消費地に、ピークカットやピークシフト、停電時のバックアップ等の目的で設置される数十~数百kWh規模のもの。

(3)家庭用電源として利用する車載用電池(V2H)
EVやPHVに搭載されている数十kWh規模のもの。ピーク時や停電時に自動車から家庭に電力を供給する技術(V2H)は実用段階にあり、蓄電池の中では最大の市場である。

5. まとめ

エネルギー問題は世界的な重要課題であり、その解決のための技術開発・普及には一層の進展が期待される。今回取り上げた4つの技術は、いずれも日本企業に先進性があるとされているが、世界市場への展開に際しては、他国企業との激しい競争が予想される。技術力を磨くことはもちろんだが、コスト、標準化への対応、ビジネスモデル等、それ以外の要因も事業性を大きく左右する(表3)。これらを十分に把握した上で、技術を戦略的に展開していくことが重要である。

表3 事業展開における技術開発以外の要因
要因対応策(例)
コスト
  • 顧客ニーズ合わせた性能・コスト最適化
  • 生産の現地化
安全性・信頼性
  • 国際的な標準化・認証等への対応
ビジネスモデル
  • O&M(維持管理)事業等の展開
  • 他社との連携によるシステムパッケージ売り
ファイナンス
  • 国等の支援制度の利用
  • 機器のリース等金融機関との連携

出所:三菱総合研究所

6. 参考資料

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