製鉄の将来動向
─2030年までの中長期需給とトピック─

経営イノベーション本部  中嶋壮一

1.はじめに

鉄鋼は二次産業の基礎材料として幅広く利用されており、その消費動向は世界経済を占う上での重要な指標の一つとなっている。2030年までの消費量の伸びは過去20年間よりも低率にとどまり業界として停滞期に入るほか、環境対応や中国でのリサイクル増加などが生産方式に変化を与える可能性がある。

しかしながら製鉄業が依然として重要な産業であることに変わりはなく、連綿と続けられてきた研究開発の蓄積により鉄鋼の金属材料としての使いやすさは随一と言えよう。世界的に強みを有するとされる他の材料分野の日本企業にもヒントになる産業だと言えよう。

2.製鉄業の概要

2.1 鉄鋼の需給

古くは紀元前1500年頃から、武器や農具など、さまざまな用途で人類は鉄を利用してきた。近年でも建物、自動車、鉄道、電気機械、産業機械、容器など、工業化社会を支える基礎素材として幅広く鉄を利用している。用途の中でも建物・インフラは、世界全体の粗鋼消費量の50%以上を占めるといわれている(※1)

図1 鋼材の製造プロセス

図1 鋼材の製造プロセス

出所:各種資料をもとに三菱総合研究所作成

2016年時点では世界全体で約16億トンの鉄(粗鋼換算)が生産されており(※2)、そのうち鉄溶鉱炉(高炉)と転換炉(転炉)を組み合わせた銑鋼(せんこう)一貫方式で約12億トン、電炉方式で約4億トンが生産されている。

銑鋼一貫方式とは、鉄鉱石・石炭・石灰石を主原料として高炉で銑鉄を生産し、転炉で銑鉄を鋼鉄とする方法である。大量の鉄鋼を生産する方法であり、自動車用の高品位な鉄鋼から比較的低品位の鉄鋼まで幅広く用いられている。ただし、鉄鉱石を還元するプロセスなどで、多量の二酸化炭素が発生することから、本方式だけでは、環境負荷が高くなる特徴がある。

電炉方式とは、スクラップを主原料として、鉄鋼を生産する方法である。銑鋼一貫方式と比較して、一つの炉で生産できる量は少ないが、生産量の調整が行いやすく、二酸化炭素の発生量が少ない特長がある。電炉メーカーの技術力にも依存するが、自動車向けの高品位な鉄鋼などを生産することは苦手とする。

2.2 地域別の需給

世界全体の鉄鋼需要・供給の約半分を中国が占めるのが近年の潮流である。2006年時点では世界全体の30%程度にとどまっていたが、国内インフラの整備、製造業の成長などによる鉄鋼需要の高まりに応えるかたちで、主に銑鋼一貫生産方式での鉄鋼供給力を高めてきた。

図2 地域別の鉄鋼の需給

図2 地域別の鉄鋼の需給

出所:World Steel Association “WORLD STEEL IN FIGURES 2017”(閲覧日:2018.1.31)
https://www.worldsteel.org/en/dam/jcr:0474d208-9108-4927-ace8-4ac5445c5df8/World+Steel+in+Figures+2017.pdf

3.製鉄業の今後

3.1 粗鋼消費量の予測

前述の通り鉄鋼は幅広い産業で利用されており、その消費量は各国の景気動向を知る一つの指標となっている。また価格変動性の高い原料炭・鉄鉱石や鉄スクラップなどの需要動向を分析する際にも、鉄鋼の消費量を把握することは欠かせない。

本レポートでは、使用強度仮説をもとに粗鋼換算ベースでの消費量(以下、粗鋼消費量)を予測している。使用強度仮説とは、一人あたりGDPと一人あたり粗鋼消費量の間に以下のような関係があるとする考え方である。

  • 二次産業が発展する前の段階の国では、鉄の消費量が少ない農業などを中心とする一次産業が中心であり、一人あたりGDPには一人あたり粗鋼消費量は伸びない。
  • その後、鉄の消費量が多い建物・インフラを中心とした投資の増加や、自動車などの製造業の成長に伴い、従前よりも一人あたりGDPに対する、一人あたり粗鋼消費量の伸び率が拡大する。
  • やがてインフラなどへの投資が一巡することや、サービス産業の成長、二次産業の海外移転や生産の効率化に伴い、一人あたりGDPに対する一人あたり粗鋼消費量の成長率は鈍化し、一定の水準で落ち着く。

一人あたりGDPと一人あたり粗鋼消費量の間に単純な比例関係はなく、急激な上昇とそれに次ぐ減少を仮定している点に特徴がある。

あくまでも「仮説」であり、すべての国にそのまま適用できるわけではない。たとえば産油国では、一人あたりGDPは多いが、一人あたり粗鋼消費量は少ない傾向がある。他にも、例えば韓国の一人あたりGDPは本来であれば一人あたり粗鋼消費量が減少しはじめる水準に到達しているが、自動車などの輸出用途で粗鋼が消費される量が多いため、一人あたり粗鋼消費量は依然として高い水準を保っている。

各国の足元の産業構造や産業政策を勘案し、どの段階にあるのかを判断しながらモデル化していく必要がある。

3.2予測結果

一人あたり粗鋼消費量を被説明変数、一人あたりGDPを説明変数とするモデルを国ごとに作成し、一人あたり粗鋼消費量を推計、その推計結果に対し今後の人口変動の予測を掛けることにより、2030年までの各国の粗鋼消費量を予測した。

図3 世界全体の粗鋼消費量(千トン)の予測

図3 世界全体の粗鋼消費量(千トン)の予測

出所:三菱総合研究所

世界全体における2030年の見掛け粗鋼消費量の推計値は、約17億トンと推計される。2016年時点の約16億トンと比較して15年間で約7%の微増となると推計される。

粗鋼消費量が最も増加するのはインドである。一人あたりGDPの成長と人口の増加の両面から、見掛け粗鋼消費量が増加する。使用強度仮説に基づけば、まだインフラ整備が十分ではないため、今後、建材などの見掛け粗鋼消費量がさらに増加すると考えられる。なお、特に建材用途の場合、単位重量あたりの単価が低く輸送費がかさむことから、基本的に地産地消が行われることが多く、インド国内での製鉄所が増加することが考えられる。

一方で、直近20年程度の期間にわたって、世界を牽引してきた中国の粗鋼消費量の成長が頭打ちとなることや、日本を始めとする先進国での粗鋼消費量が減少すると考えられる。

増加する国と減少する国の双方が相まって、微増となると予測した。なお、今回、推計に利用したモデルの検証のため、1980年から2015年の期間を対象として、実績値と推計値を比較した。

図4 実績値と予測値の比較(千トン)

図4 実績値と予測値の比較(千トン)

出所:三菱総合研究所

積み上げ棒グラフが国別の推計値であり、その合計値が世界全体の推計値である。黒線はWorld Steel Associationが公表した一人あたり粗鋼消費量の実績値であり、積み上げ棒グラフの輪郭をほぼトレースする結果となった(※3)

今回は鉄を対象に分析したが、銅・アルミなどでも各々の特性を考慮することにより、使用強度仮説は適用可能であると考えられる。

4.今後のトピック

今後の粗鋼消費量の動向を検討するうえで、使用強度仮説だけでは説明できないトピックを展望する。

今後は、中国からの鉄スクラップ排出の増加を受けた電炉生産の拡大、CO2削減圧力をうけた銑鋼一貫方式の改善、鉄以外の材料との競争が想定される。

4.1 中国の鉄スクラップ排出量の増加

中国は2000年以降、累積で約75億トンの粗鋼を消費してきた。2016年の「世界全体」の見掛け粗鋼消費量(約16億トン)の約5倍に相当する膨大な分量である。そのうち地産地消されることが多い建設用途が約50% を占めている。

耐用年数が一桁である自動車はすでに廃棄物として排出されていると考えられるが、消費量が多い建設分野は今後、耐用年数を迎え、排出されることとなる。

これにより、鉄スクラップを鉄源として利用する電炉の増加や鉄スクラップの輸出などが中国で発生する可能性がある。この兆候の一端として、中国からの鉄スクラップの輸出量が増加し、日本の鉄スクラップ輸出を圧迫し始めているとの報道もある。

4.2 CO2の削減圧力の高まり

2017年6月に米国がパリ協定から離脱することを宣言したことは記憶に新しいが、まだ離脱したわけではない。

単純に鉄製造時に限定すれば電炉は高炉の約1/4のCO2発生量で同量の粗鋼を生産できるため、温暖化ガスの削減圧力が高まり、カーボンプライシングなどが導入されると、電炉の増産が期待されることとなる。その際、前述の中国で排出される鉄スクラップが、鉄源として利用される可能性が高い。

また銑鋼一貫方式でも、CO2を地下に貯留するためのCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)を搭載する高炉が増加することにより、温暖化ガスの排出量削減に応えられる可能性がある。また、わが国では、製鉄時に発生するコークス炉ガスから水素を分離し、還元剤として利用する水素還元法と組み合わせることで、CO2排出量を約30%削減することを目標とするCOURSE50の取り組みも進んでいる。

4.3 金属材料の代替

自動車に代表されるように、軽量化などの観点から他の素材(アルミや樹脂など)に代替しようとする動きも見られる。技術的観点からは興味深いテーマではあるが、鉄鋼の低価格と膨大な消費量、長年にわたる品質や製造技術の蓄積は圧倒的である。高付加価値品が代替脅威にさらされることは避けられないが、供給量という意味では影響は小さいだろう。

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