「日本的雇用慣行」からの脱却と新たな働き方の模索

政策・経済研究センター  酒井博司

 前回9月のトレンドレビュー(「日本的雇用慣行」の成立と定着)では、「年功処遇」、「長期雇用」、「企業特殊技能」などにより構成される「日本的雇用慣行」が高度成長期に定着し、普及した背景要因を整理した。高度成長期からバブル期に至るまでは、「日本的雇用慣行」は企業の競争力の源泉となったが、バブル崩壊から「失われた20年」を経て、経済・社会環境は大きく変化した。それに伴い、「日本的雇用慣行」が機能する前提は崩れ、その問題点である「労働市場の硬直化」、「キャリアパスの画一化」、「男女性別役割分担」、「正社員と非正社員の二極化」などの問題が顕在化してきた。だが「日本的雇用慣行」を構成する要素の相互補完性により、そこから他の雇用形態への転換は遅々として進まなかった※1。しかし、今後のさらなる「少子高齢化の進行」、「機械化の進展」、「新興国の成長」と言った環境変化のもとでは、新たな働き方を模索することが不可避である。

今後の「働き方」に影響を与える3つのメガトレンド

 今後、中長期的に働き方に影響を与えるメガトレンドとしては、大きく以下の3点が挙げられる。
 第一に人口減少・少子高齢化の一層の進展である。2030年までに、労働力人口は600万人減少する一方、後期高齢者は1,300万人程度も増加する。
 第二に、機械化・IT化の進展である。昨今では、急速な機械化・IT化の進展による雇用の「破壊」※2が、新たな雇用の「創出」を上回っている。機械化の進展に伴う雇用の破壊は、反面、人間が行うべき仕事を明確にする。今後は機械化・IT化、さらには人工知能(AI)などの一層の進展を所与として、それらと共存し、補完しあう労働力の必要性が高まる。
 第三に新興国の成長と、成長市場の変化である。中長期的にも主要なマーケットが先進国から新興国へシフトする傾向は持続し、それに伴い日本の労働者の比較優位構造(強みと弱み)も変化する。

メガトレンドに対応する働き方の変化

 恒常的な人手不足への対応として女性と健康な高齢者のさらなる活用を可能とする「働き方」が必要である。特に日本は女性の活躍余地が大きく、女性労働参加率がG7平均に引き上げられれば、成長率が0.25%ポイント上昇するとの分析※3もある。
 高齢期における健康状況や、子育てや介護の必要性と時期は、人それぞれ事情が異なる。場所、時間、業務等について柔軟に働くことができる環境を整備することで、高齢者や女性などがワークライフバランスを取りつつ柔軟に働くことを可能にする方向が望まれる。例えば、日本の一部企業においても導入されつつある「勤務地」、「時間」、「職種」などを限定した限定正社員は、仕事と家庭の両立を目指す女性や、健康状態に不安のある高齢者に対しても適用が可能な仕組みである。ただし、この働き方が機能するには、個々の労働者が適切なスキルを身に着けていることが前提である。さらに企業側においても、「社内における位置づけの明確化」、「非正規社員から正社員へのステップアップ条件の明確化」、「雇用保障要件の明確化」、「職務や能力に応じた処遇とキャリアパスの明示」、「処遇や能力開発機会の均等」という条件整備が必要であろう。
 「機械化進展」への対応としては、機械化と共存し、機械と補完しあう労働力の必要性が高まる。例えば、アイデア出しや戦略策定、高度な対人コミュニケーションが必要な仕事は機械化が進展する中で一層重要度を増す※4。そのために必要なスキルも変化するため、それを身に着けられるような再訓練プログラムの充実は、対応のための前提条件となる。なお、例えば、機械化の「迅速さ」と「正確さ」といった利点を活かすには、フラットな組織づくりや機動的なワークスタイル変革が求められる。一部の製造業を除いては、時間や場所、手段に縛られない労働力が主流となっていく可能性がある。 
 成長市場の変化は、日本の旧来の「強み」を、強みでなくする可能性を高める。新たなマーケットの下で、新たな「強み」を見いだし、作り出す必要がある。例えば、従来の改善型の「持続的イノベーション」から、企業の既存事業の延長線上にない、あるいは利益相反するような「破壊的イノベーション」への転換は促進されよう。その過程においては、既存の技術やスキルを他分野に応用する試みや外部の技術と組み合わせる試みが求められる。その活動を促すには、各自がネットワークを張り巡らせることに加え、一人ひとりが分野の異なる複数の業務を兼務するような方向も考えていくべきであろう。

「新たな働き方」のキーワード

 上記のトレンド変化から考えられる「新たな働き方」のキーワードとしては「急速に変化する必要スキルへの対応」、「他分野への技術/スキルの応用」、時間や場所、職務に対する「柔軟性」などが挙げられる。専門性の高いスキルを持つ労働者が多数を占めるようになれば、企業は技術や技能を持つ人的資源を「所有」することから、「結びつけ、活用する」方向へと転換していくことも考えられる。それに伴い「柔軟な雇用」も適したシステムとして活用されていく。そして、その中で、自分なりのビジネスアイデアや価値観を持つ、起業家のような働き方が増えていくであろう。

※1:2000年代初頭までに終身雇用に変化はみられないとした、Kambayashi, R., and T. Kato (2009), The Japanese employment system after the bubble burst, FRB San Franciscoなど。なお、2008年までのデータを用い分析した濱秋、堀、前田、村田(2013), 低成長と日本的雇用慣行、日本労働研究雑誌, 611, 26-37.は、終身雇用と年功処遇がようやく昨今において同時に衰退し始めた可能性を指摘している。

※2:McKinseyによると先端製造業、金融サービスでは機械化による生産性向上で6-9%の労働者が職を失う。労働インプット(労働者の総数と労働時間の短縮)は9%減少するとの見方を示している(McKinsey (2014), Future of Japan)。

※3:Steinberg and Nakane (2012), Can Woman Save Japan? IMF Working Paper, 12, 248.

※4:なお機械で対応するよりも人間が行った方が安上がりな仕事もあるが、それらは長期的には機械化により代替される方向であろう。


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