モビリティ進化がもたらす社会・産業へのインパクト 第2回 政策が自動車を変える
~三菱総研「未来の産業連関表」による予測~

政策・経済研究センター  木根原良樹、酒井博司

EV・シェアリング・自動走行・MaaSに対して各国政府が積極策を打ち出している。特に欧州と中国では、モビリティの進化に自国の重要政策を実現しようとする姿勢が見て取れる。

各国政府がモビリティ進化を推進

2017年夏から秋にかけて、フランス、英国、中国の政府がEVをはじめ、自動車の電動化を推進する政策を打ち出した。これらの国々に先立ち、ノルウェー政府は2025年にCO2を排出する乗用車の新規登録を禁止する方針を掲げている。

Uber、滴滴出行といった配車サービス会社がライドシェア事業を展開している米国および中国ではその円滑化のため政府が、ライドシェアの普及に向けて法的環境を整えている。

米DARPA(国防高等研究計画局)が2003~07年に自動走行車の競技会を開催したことは、その技術進展に大きく貢献した。近年、米国とEUの当局が自動走行の実用化に向けた政策方針を提示、中国政府は百度(バイドゥ)による技術開発を支援、シンガポール政府はバス・配車サービス・港湾物流にわたる技術開発を主導している。

MaaSについてはフィンランドの動きが活発である。政府がスタートアップによる事業化を助成(2012~15年)、欧州の産学官20組織からなる「欧州MaaS連合」を結成(2015年)するなど、海外展開も視野に推進している。

図表2-1 各国政府によるEV・シェアリング・自動走行・MaaSに関わる取り組み

区分 内容
EV
  • ノルウェー:2025年にCO2を排出する乗用車の新規登録を禁止
  • フランス:2040年までにガソリン車・ディーゼル車の新車販売を禁止(2017/7)
  • 英国:2040年までにガソリン車・ディーゼル車の新車販売を禁止(2017/7)
  • 中国:2019年新車販売台数の10%以上をEVなど新エネルギー車にすることを自動車メーカーに義務付け(2017/9)
シェアリング
  • 米国:州・市がライドシェアを法的に位置づけ(2014)
  • 中国:ライドシェアに関する法律制定(2016)
自動走行
  • 米国:NHTSA(国家道路交通安全局)がFederal Automated Vehicle Policyを発表(2016)
  • EU:2019年までに自動運転の実用化・導入に関する統一枠組みを構築
  • 中国:百度(バイドゥ)による自動走行技術開発を支援
  • シンガポール:2015年以降、バス・配車サービス・港湾物流の分野で自動運転技術を開発
MaaS
  • フィンランド:MaaSの事業化を助成(2012~15)
  • EU:産学官20組織が「欧州MaaS連合」を結成(2015)

出所:報道記事に基づき三菱総合研究所作成

環境政策がモビリティ進化を加速

ノルウェー政府は2025年にCO2を排出する乗用車の新規登録を禁止する方針を掲げる。免税など強力なインセンティブ提供により、市民はガソリン車並みの価格でEVを購入できる。こうした政策により、ノルウェーでは乗用車登録台数の約17~18%をEVが占める(2015~16年)。

ノルウェーでは電力の約96%を水力発電で賄っており、EV普及によるCO2の追加削減効果が大きい。仮に保有台数の1/3がEVになれば国全体のCO2排出量は約9.9%削減される。〔図表2-2〕

フランスも同様である。電力の約78%を原子力発電が占め(※1)、仮に保有台数の1/3がEVになれば国全体のCO2排出量は約13%削減される。

パリ協定(2015年採択)を受け、各国はCO2排出量の削減目標を掲げている。ノルウェーやフランスにとってEV推進は環境政策の強力な実現手段である。

図表2-2 自動車保有台数の1/3がEVになると仮定した場合のCO2排出量の削減率

図表2-2 自動車保有台数の1/3がEVになると仮定した場合のCO2排出量の削減率

出所:三菱総合研究所による試算(ガソリン車の燃費15km/ℓ、EVの電費7.5km/kWh と仮定し、各国の発電・熱供給プラントCO2排出係数(2014年)等を用いて算出)

産業政策がモビリティ進化を加速

中国政府がEV・シェアリング・自動走行を積極的に推進している。中国は世界最大の自動車市場であり、この市場を背景に自動車産業の育成を目指す政策としての意味合いが強い。

中国で販売される自動車のうち、中国ブランド車は現在4割強に止まる。自動車産業のさらなる育成を狙って、中国政府は「中国製造2025(※2)」および「自動車産業の中長期発展計画(※3)」を制定、また「NEV(ニューエネルギービークル)法(※4)」によりEVの普及に注力している。

中国は既にEV大国であるとも言える。EVの保有台数販売台数は2016年には約48万台と世界最多であり、中国ブランドが上位を占める〔図表2-3〕。また車載用LiB(リチウムイオン電池)についても、中国メーカーが世界シェア6割強(2016年時点、矢野経済研究所調べ)を占める勢力となっている(※5)

図表2-3 国別のEV保有台数(2016年)

図表2-3 国別のEV保有台数(2016年)

出所:IEA, “Global EV Outlook 2017”, June 2017,p49から三菱総合研究所作成

中国企業と海外企業とのアライアンスも活発である。例えば、百度(バイドゥ)は、2017年に完全自律走行車の公道試験を始めるとともに、自動走行に関するプラットフォームのオープンソース化を目指す「アポロ計画」を始動、米フォード・モーター、独ダイムラー、米NVIDIAや米インテルなど約50社が参画している。

図表2-4 中国自動車市場に関わる企業アライアンス形成の動き

区分 報道年月 関係国 内容
EV 2017/4 日本・中国 パナソニックは、中国大連に現地産業用電器メーカーとの合弁で車載用LiB新工場を開所。投資額は非公表だが数百億円規模とみられる
2017/7 中国・ドイツ ダイムラーと北京汽車は、中国でのEVとバッテリーの生産に向けて、50億元(約835億円)を共同出資し合弁会社を設立
2017/8 日本・中国 日産自動車はLiB事業(AESC社)を中国ファンドのGSRキャピタルに譲渡すると発表。買収総額は10億ドル規模(約1,100億円)
2017/10 中国・ドイツ 寧徳時代新能源科技(CATL)は、2020年めどで現在世界需要の約2倍相当まで生産能力増強。まずは上海汽車と共同で100億元(1,670億円)を投じ工場建設。独BMWがCATL製電池の採用を決めた
2017/10 韓国・中国 LG ChemやSamsung SDIは中国に生産拠点を設けたが政府認証を得られず。中国攻略をいったんあきらめ、それぞれハンガリーとポーランドに新工場を建設
自動走行 2017/7 中国・米国 ・ドイツ等 百度(バイドゥ)が「アポロ計画」を始動。米フォード・モーター、独ダイムラー、米NVIDIAや米インテルなど約50社が参画。2020年までの完全自動走行と自動運転に関するプラットフォームのオープンソース化を目指す
2017/9 中国・ドイツ 独ZFが百度(バイドゥ)と、中国における自動運転に関する広範囲な技術ソリューション開発で提携
2017/12 日本・中国 本田技術研究所が中国センスタイム社と自動運転AIに関する5年間の共同研究開発契約を締結
シェアリング 2016/8 中国・米国 中国配車サービスの滴滴出行が米同業大手Uberの中国事業を買収
2017/11 中国・スウェーデン 浙江吉利控股集団はボルボと共同開発した新ブランド車「Lynk&Co」を中国で発売。車を使わない時間帯に貸し出すことができるカーシェアリング機能を標準装備

出所:報道記事に基づき三菱総合研究所作成

一方、シンガポールでは、2015年以降、バスから配車サービス、港湾物流までさまざまな分野で自動運転技術を利用したモビリティ・サービスの事業化を、欧州自動車メーカーや米国スタートアップなどを巻き込み進めている(※6)。シンガポール政府は、限られた土地と人的資源を効率化させる、輸送の解決策の核として自動運転技術を捉え、世界の先駆者を目指している。

第2回おわりに

ノルウェーとフランスは環境政策、中国、シンガポール、フィンランドは産業政策として、政府がモビリティ進化を強力に推進している。中国とシンガポールは海外企業からの技術導入にも積極的であり、シンガポールやフィンランドは海外展開も視野に入れている。

これらの国々では、フランスを除き大手自動車メーカーは存在しないが、世界に先駆けてモビリティ・サービスが構築されれば、その開発や事業に参画した企業が今後、モビリティの世界市場において大きな存在感を示していく可能性がある。


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