IMD「世界競争力年鑑2019」からみる日本の競争力 第2回 日本の競争力向上の方向性
日本の競争力の強みと弱み。何をすべきか?

政策・経済研究センター  酒井博司

今回は、IMD「世界競争力年鑑2019」から競争力を構成する項目を分野別、項目別に詳細にみることで、日本の競争力構成要素の強みと弱みを示す。その際、特に順位が急落した大分類である生産性関連指標にも多く含まれる「ビジネス効率性」の構成項目に注目する。そこから、日本の弱点を把握し、競争力向上のためのヒントを探りたい。

変動する日本の分野別競争力:「ビジネス効率性」の著しい悪化

IMD「世界競争力年鑑2019」の示すところによれば、日本の競争力総合順位は30位と、前年より5位ランクを下げ、1989年の統計開始以来、過去最低の順位となった。特に4大分類でみた「ビジネス効率性」が前年の36位から46位へと大幅に下落していることが、総合順位の下落に寄与した。以下においては、詳細項目を含め順位を確認し、日本の競争力の強みと弱みを探る。
大分類項目(表1)では、景気変動の影響を大きく受ける「経済状況」は、高水準の物価が競争力をそいでいるものの、雇用の安定もあり、前年とほぼ変わらず16位となった。「政府の効率性」は38位と、近年の傾向は変わらず低迷している。「ビジネスの効率性」は2014年の19位をピークに下落傾向にあり、2019年は46位と、前年から10位もランクを落とした。特に生産性・効率性および経営関係指標の悪化が著しい。「インフラ」は科学インフラや健康・環境分野の強さもあり、前年と同順位の15位を維持しているが、基礎インフラにやや陰りがみえる。

表1 IMD「世界競争力年鑑」における日本の大分類・小分類別競争力順位の推移

20152016201720182019
1. 経済状況 29 18 14 15 16
1.1 国内経済 17 15 10 11 21
1.2 貿易 43 36 32 41 44
1.3 国際投資 15 14 8 15 11
1.4 雇用 8 7 5 5 4
1.5 物価 59 54 57 55 59
2. 政府効率性 42 37 35 41 38
2.1 財政 61 59 61 61 59
2.2 租税政策 40 39 42 46 40
2.3 制度的枠組み 15 15 14 18 24
2.4 ビジネス法制 31 28 25 31 31
2.5 社会的枠組み 26 29 28 27 31
3. ビジネス効率性 25 29 35 36 46
3.1 生産性・効率性 43 42 48 41 56
3.2 労働市場 37 34 28 30 41
3.3 金融 12 15 19 17 18
3.4 経営プラクティス 23 27 45 45 60
3.5 取り組み・価値観 36 36 40 39 51
4. インフラ 13 11 14 15 15
4.1 基礎インフラ 29 30 40 42 42
4.2 技術インフラ 23 10 19 13 20
4.3 科学インフラ 2 2 2 5 6
4.4 健康・環境 15 15 12 7 8
4.5 教育 38 35 36 30 32

出所:IMD「世界競争力年鑑」各年版より三菱総合研究所作成

小分類項目ごとにみた注目点

以下では、小分類項目(表1)および個別項目から注目されるポイントをみていく。

経済状況:対内直接投資の低迷が課題

経済状況(16位)を小分類ごとに状況確認すると、失業率などからみた雇用環境が改善していることから、「雇用」はすべての小分類項目の中で最も高い順位となった。「国際投資」は11位と高順位を維持したが、その構成要素をみると強い対外直接投資(金額は1位、ストックGDP比は6位)に比して対内直接投資の弱さが目立つ(対GDP比でストックは63位、フローは53位)。
国外の企業が国内に対して行う対内直接投資は、多様な参入を通じた有形・無形の経営資源の流入による競争促進のもと、ネットワーク形成や雇用の創出・人材流動化、消費者便益の増加などのメリットをもたらす。総合的な観点から、日本の投資先としての魅力度を高めることで、対内直接投資の増加を図ることは日本の大きな課題の一つである。

政府の効率性:競争を促す環境整備に遅れ

政府の効率性(38位)分野では、「財政状況」の順位が恒常的に低く(59位)、短期的な改善は見込めない。「租税政策」(40位)は社会保障負担関連の構造的要因に加え、法人税関連(税収対GDP比、税率、法人税に対する意識)項目の順位が低い。「制度的枠組み」(24位)では、中央銀行の政策が経済に与える影響(前年39位→50位:以下同様)と、法や規制が企業の競争力へもたらす影響(同41位→49位)で順位を落としており、経営者の政策を見る目は厳しくなっている。「ビジネス法制」関連では、市場に対する信頼はあり(公正な競争市場やブラックマーケットが存在しないなどの評価項目の順位は高く)、スタートアップに要する日数や手続き数で改善がみられる。その一方、海外から見た投資インセンティブや契約の開放性などの評価は低く、透明性や開放性の課題は残存している。
自由競争のもと企業の活発な新陳代謝を促す法や規制、税制の整備や閉鎖性の打破が日本の課題と指摘されて久しいが、それらの環境整備は遅れている。

ビジネス効率性:市場環境変化に対する企業の迅速かつ柔軟な対応力が課題

大分類として大きく順位を下げたビジネス効率性(46位)分野には、消費者満足の重視(4位)や企業の社会的責任感の強さ(5位)、企業倫理(14位)といった高評価項目もある。しかし小分類では「生産性・効率性」、「経営プラクティス」、「取り組み・価値観」の低下傾向が著しく、個別項目を詳細にみると、市場環境の変化に対する企業の迅速かつ柔軟な対応力に問題があることが分かる。
「生産性・効率性」の分野では、実質労働生産性成長率が大きく悪化し(同29位→58位)、企業の効率性に関する国際的な基準から見た評価も下落(大企業は同56位→61位、中小企業は同49位→52位)している。その背景としては、「経営プラクティス」に属する企業の市場変化への対応(61位)や企業の意思決定の迅速性(63位)、機会と脅威への素早い対応(63位)、「取り組み・価値観」に属する変化に対する柔軟性や適応性(60位)など、市場環境変化に対する対応力に弱点があることが分かる。
そしてこの弱点は、人材面の弱さ(管理職の国際経験(63位)や有能な管理職の厚み(60位))や閉鎖性(海外のアイデアを広く受け入れる文化の開放性(61位))に加え、デジタル対応の遅れ(ビッグデータ分析の意思決定への活用(63位)やデジタルトランスフォーメーション(企業がICT技術を活用し、事業の対象を積極的に変化させる)(51位))とも強く関連している。
人的資本を整備したうえで、デジタル化を活用した意思決定や市場対応の迅速さなどの追求は、生産性向上にとっての必要条件である。

インフラ:知識資本の強みを生かす仕組みや人材が弱点

インフラ分野では「科学インフラ」(6位)の順位が最も高い。特に研究開発支出(額、GDP比)、研究開発人材数(総数、人口当)、理工系学位取得者比率、論文数、特許(総数、人口当)などの個別項目はいずれも一桁順位である。
しかし、イノベーションを促す法制の整備(41位)や知的財産権保護(31位)、産学間の知識移転の活発さ(45位)の順位の低さからは、研究開発で得られた知識資本を有効に活用する仕組みの整備は不十分とみられる。昨年の13位から20位へと順位を落とした「技術インフラ」の構成要素をみると、コンピューター、インターネットユーザー比率やハイテク輸出額はいずれも一桁順位である一方、デジタル技術者(60位)や専門的技術者(46位)の利用可能度の順位が低く、日本の経営者層から技術人材の層の薄さが問題と認識されていることが分かる。「教育」(32位)分野では、項目により評価が二極化している。高順位の項目としては中等教育入学率(4位)、専門学校、大学以上の教育を受けた比率(6位)、学習到達度(PISA、4位)などが挙げられる。一方、教育支出の対GDP比(55位)や大学レベルでの海外からの留学生数比率(47位)、海外への留学者数比率(56位)が弱い。さらに経済の要請に見合った大学教育(51位)、ビジネスニーズに見合った経営者教育(53位)の評価が低く、グローバル化進展下における実学的な部分に弱点があることが分かる※1
研究開発により蓄積された知識資本は生産性向上の基盤であるが、それが企業の持続可能な成長に結びつくには、知識資本を有効に活用する仕組みと人材を整備することが条件である。

日本の競争力向上に向けて

競争力の観点で日本の最大の強みは研究開発により蓄積された知識資本である。知識資本は、品質の向上、生産費用の削減、財・サービスの範囲の拡大、イノベーションの活発化などを通じ、生産性の向上をもたらす基盤となる。それゆえ、豊富な研究開発により蓄積された知識資本に相対的な優位性を持つ日本は、企業が持続可能な成長を達成するための条件を有している。
しかし、優れた知識資本を活用するには、それを使いこなせる豊富な人的資本と、市場変化に迅速かつ柔軟に対応できる企業、さらには知的資本を保護するとともに生成を促す法制度が整っている必要がある。その観点から改善可能な日本の弱点と、克服の方向性をまとめると、以下の図1のように整理できる。

図1 IMD「世界競争力年鑑2019」の小分類項目からみる日本の弱点分野と克服の方向性

IMD世界競争力年鑑2019の小分類項目からみる日本の弱点分野と克服の方向性

(図クリックで拡大します)

注:順位にある*項目は、経営者アンケートによるもの。
出所:IMD 「世界競争力年鑑2019」 より三菱総合研究所作成

大きな方向性としては、産学連携、海外交流の視点を入れた教育の充実により、競争力ある専門人材や管理職、デジタル化対応人材の厚みを出し、知識資本を活用できる人的資本の高度化を図る。さらに企業においてはデジタル化の利点を生かし効率化や市場分析、市場開拓を進め、人的資本の高度化よる意思決定の迅速化や新市場の創造を達成することで生産性の向上を図る。なお、企業活動を活発化させ、新市場開拓を促進するには、法人税などの税制や知的財産保護などの環境整備も必要である。さらに、アイデアを持つ多様なベンチャー企業が自由に市場に参入できる環境を整えることは、日本の市場の魅力度を高めるために不可欠な条件である。市場が活性化するとともに、オープンかつ透明な環境が整備されれば、市場の魅力度向上に応じた対内直接投資の増加が見込まれ、多様な参入を通じた競争促進のもと、ネットワーク形成や雇用創出・人材流動化、消費者便益の増加などの好循環が発生し、競争力の向上がもたらされることが期待される。

第3回の連載では、2019年版のデータを用い、国の分類と競争力構成項目の分類を行う。国の分類では、競争力を構成する要素の強みと弱みが類似している国をグルーピングする。競争力構成項目の分類では、20の小分類項目を相互に関連する度合いの高さによりグルーピングする。それにより日本が類似している国はどこかを探るとともに、日本の弱点克服にむけた手掛かりを得ることを試みる。


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