福島第一原子力発電所事故からの回復を目指して
―─福島復興トータルプランに関する提言

 
Point
被災地の復興を実現する方策として、「安全」「回復」 「持続」の3つの視点に基づいた10の提言を提示
地域の実情に応じて、放射線防護対策と線量限度を最適化し、除染作業に則した目標値を設定
地域コミュニティの存続限度から、3年をめどに、住民が帰還し、安心して永住できる環境の回復
 

 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた福島第一原子力発電所事故は、周辺20km以内の警戒区域とその周辺区域に暮らす住民に対して避難を余儀なくした。また、大量の放射能放出と家屋・地表・森林などへの沈着は、福島県の復興にとって大きな障害となっている。
 自治体・研究機関・大学・マスコミなどの調査によると、原発事故により避難された住民の大多数は故郷への帰還を望んでいる。そのことを踏まえれば、原子炉事故と放射線被ばくへの不安を取り除き、帰還を希望する全員が故郷に戻って生活が再建できることを念頭において復興策を検討する必要がある。また、現状では避難はしていないが、平常より高い放射線量率を示す地域住民に対しては、その不安を一刻も早く取り除かねばならない。
 人類がかつて経験した大規模な放射能放出を伴う原子炉事故は、1986年に起こったチェルノブイリ原子力発電所事故がある。この事故では強制移住対策が取られており、原子炉周辺地域の復興は行われていない。したがって、除染による原発事故からの復興は人類がいまだ経験したことのない困難な挑戦であることを意味している。
 しかし、福島第一原子力発電所事故による汚染地域は、チェルノブイリ原子力発電所事故による汚染地域と比べて約1/10の面積であり、そのうちの森林などを除く可住地面積は約30%である。わが国のもつ科学技術力や住民の力を結集し、地方と国が総合的に対策に取り組めば、汚染地域の環境を回復し、さらに地域の雇用や産業を復活させることは不可能ではない。
 このような考えから、その方策に欠かせない視点について「福島復興トータルプラン」を提言する。
 本提言では、「安全(安全の確保)」「回復
 (放射線被ばくの不安のない環境の回復)」「持続
 (生活・経済基盤の回復と持続的な発展・成長)」の3つの視点から、10の提言を挙げる。
 本提言が、復興対策を立案する国や地方自治体、復興に協力しようとする企業や研究機関の参考となれば幸いである。

福島復興トータルプランに関する提言

第一の視点 安全 安全の確保

 福島第一原子力発電所の安全が確保されていることが、周辺住民や国民から認められるようにする。そのため、新たな放射性物質を放出しない安定状態にし、かつ復旧・復興に障害を与えないための取り組みについて確認すべき項目を示す。
提言1:福島第一原子力発電所の安定化を客観的に判断する要件と確認方法の公表

国への提言:ロードマップ「ステップ2」の終了要件と確認方法を定め、残存する潜在的危険を公表する

 福島第一原子力発電所の安定化に向けての対策は、東京電力によるロードマップ(4月17日発表、その後、4回にわたり改訂)に従い、「ステップ1」が7月中旬に終了、新たな放射性物質放出の抑制や安定的な炉心冷却などの目標が達成された。続く「ステップ2」では、原子炉の冷温停止などを目標として、2012年1月までの予定で行われているが、年内に達成できるとの見込みが9月20日に発表された。
 国と東京電力は、「ステップ2」を達成したことを確認するための要件と確認方法、終了後に残存する潜在的な危険性リスク(例:格納容器内の水素爆発、汚染水の溢水、長期運転を行うにあたっての機器故障など)を国民が理解しやすい形で説明する責任がある。
 「ステップ2」終了の確認要件として、次の4点を提案する。また、これら4要件と、その確認のために国と東京電力が分担して行う実施項目案を図1に示す。

東京電力への提言:「ステップ2」の終了要件を達成するための対策とリスクへの対策を公表する

 東京電力は、(1)4要件を達成するための具体的な対策(例:冷却維持に関しては、各種温度測定結果と、解析に基づき推定した残留崩壊熱との比較による冷却機能の確認など)、(2)「ステップ2」終了後に残存するリスクと対策を国民に公表して理解を得るべきである。

「ステップ2」の終了確認=安定化の4要素

国・東京電力への提言:国内外の専門家からレビューを受け、国民の理解を得るための努力をする

 前述の確認方法や対策などを公表することにより、国内の研究機関や学会、国外のIAEA(International Atomic Energy=国際原子力機関)やNRC(Nuclear Regulatory Commission=米国原子力規制委員会)などによるレビューが期待できる。これらのレビュー結果を積極的に公開することで透明性を確保し、国民からの信頼と理解を得るようにする。
提言2:長期的な安全性の確保

国への提言:「廃炉措置完了」までの工程表を策定する

 「ステップ2」終了後、福島第一原子力発電所の廃炉に向けた工程を進める必要がある。原子炉内から燃料を抜き取る第1フェーズには10年以上、高汚染状態にある廃炉措置が完了する第2フェーズには、さらに数十年程度を要すると思われる。その間に、大規模地震や巨大台風といった自然災害の発生は否定できない。
 そこで、廃炉措置完了までの安全性を確保するために、主要なマイルストーンを含めた工程表を策定し、脆弱性を早期に改良していくことが求められる。

国への提言:廃炉措置完了までの間、福島第一原子力発電所の安全性を確保するための要件・判断基準と、その確認体制を定める

 国(安全規制機関)は、「ステップ2」の終了要件と同様に、「ステップ2」以降の廃炉措置完了までの主要なマイルストーンにおいて、安全に作業を行うための要件や安全性の判断基準を策定すべきである。また、これに従って作業が行われていることを確認する体制(通常は安全規制機関にて実施)を築く必要がある。

東京電力への提言:国が定める「安全性」を達成するための対策と、残存するリスクを定め、その対策を公表する

 国の安全性の判断基準に従い、東京電力は廃炉措置完了までの対策を進めるが、その対策と、これを実施した後に残るリスクへの対策(再度の避難の可能性など)を公表し、周辺住民の理解を得るべきである。

原子炉安定化の4要件と達成するための8対策

国・東京電力への提言:国内外の専門家からレビューを受け、国民の理解を得るための努力をする

 「ステップ2」と同じく、上記の対策を公表することにより、国内の研究機関や学会、国外のIAEAやNRCなどによるレビューが期待できる。その結果、国民からの信頼と理解を得られるよう努力する。

第二の視点 回復 放射線被ばくの不安のない環境の回復

 現在においては、低線量の放射線被ばくによる障害について知見が十分にない。そのため合理的に受け入れられる被ばく線量の低減目標を、国は科学的かつ統一的に定め、目標値を国民が受け入れられるような活動を行う必要がある。放射能の汚染状況の把握と防護対策の立案においては一元的に対応する組織を国に設置し、地方自治体の協力を得ながら進めなければならない。
 国は、(1)放射能の汚染状況の把握、(2)これからの防護対策の立案を一元的に行う組織を確定、(3)汚染の除去(除染)を地方自治体の協力を得ながら推進、(4)除染で生じる放射性物質の付着した廃棄物の処理と処分、(5)農水産物の汚染対策と風評被害の防止、などの一連の対策を着実に実施していくことが求められる。
提言3:放射線による被ばく線量の低減目標の設定

国への提言:ALARAの考え方に基づき、周辺住民の放射線被ばく線量を低減するための目標値を示す

 放射能汚染は、陸、海、空に広がっている。人体への健康影響や農水産物の汚染をどのように防ぐかは、復興を考えるうえで最も重要なポイントであり、できる限り低くするよう低減目標値を定める必要がある。最終目標は、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(放射線障害防止法)」で定められた、一般人の被ばく線量限度=年間1ミリシーベルト(以下、mSv/年)まで低減することとなるが、短期間(2~3年)ですべての場所をこの値にまで低減させることは現実的には難しい。
 そこで、ALARA(As Low As Reasonably Achievable: 被ばく線量は合理的に達成できる限り低く保たなければならない)の考え方に基づき、避難住民の生活の回復と放射線防護対策、線量限度の最適化により、現実の除染作業に則した目標値を設定する必要がある。この目標値は設定プロセスも含め、避難住民の納得が得られなければならない。
 8月26日に国の原子力災害対策本部が発表した「除染に関する緊急実施基本方針」では、20mSv/年以上の地域は国が責任をもって除染を行い、それ以下の地域は市町村や住民が協力しつつ1mSv/年以下を目指すこととしている。
 これは、ICRP Publication 103(International Commission on Radiological Protection=国 際 放 射 線 委 員 会、2007年勧告)で示された「現存被ばく状況」とその「参考レベル」に基づいており、参考レベルは、年間予測線量を1mSvから20mSvの範囲に設定すべきとしている。
 そこで当社では、国の方針をさらに具体化し、ALARAの考え方に基づいた除染による線量低減の目標値設定の方法として、地域に応じて段階的に低減目標値を下げていく方法を図2に示す。
 なお、除染期間の目安は、国の除染ガイドラインなどに示された除染手段を行っても、1mSv/年以下にすることが難しい地点に関するものである。避難対象となっていない地域を含め、可能な限り速やかに除染し、1mSv/年以下を目指すのが原則である。
 また、この参考レベルは除染の進展により見直しできるものとし、各参考レベルの設定と見直しの手続きにおいて、国は地域社会の合意を得るプロセスを確立しなければならない。

被ばく線量の低減目標の設定例

国・関係機関への提言:統一性のある線量限度や除染による線量目標値を示す

 住民の放射線被ばくは、さまざまな経路によるものであるが、許容限度の設定は、各省庁が行っており、必ずしも統一的な考え方は取られていない。
 たとえば、環境省が定めた遊泳できる海水中の放射性セシウムの濃度限度は1リットルあたり50ベクレルである。これは厚生労働省が示した飲料水(成人)の摂取制限に関する指標値、1キログラムあたり200ベクレルよりも厳しい。このような不統一や矛盾は、周辺住民や国民の不信を招かないとも限らない。
 そこで国は、復旧・復興の状況に基づき、周辺住民や国民全体で受け入れられる被ばく線量の統一的な低減目標を設定する必要がある。
提言4:わかりやすい放射線健康影響の説明
 町内会レベルでの家屋や施設ごとの詳細な線量分布と住民の生活パターン(家屋、学校・職場、公共機関、野外などでの滞在時間)から、実際に住民が受ける累積線量を簡易的に評価する手段を提供するか、あるいは典型的な生活パターンでの累積線量を例示することにより、実際にどれだけの線量を受けるかを住民が、自分や家族の放射線被ばくによるリスクを知ることができるようにする。

国への提言:地元住民の視点に立った「放射線健康影響が見える・見渡せるマップ&チャート」を作成する

 放射能汚染については、空間線量率(Sv/y)、土壌汚染濃度(Bq/㎡)、農水産物汚染濃度(Bq/kg)など、いくつものデータが公表されているが、住民が知りたいことは「当該地域に住み続けたら、健康にどの程度の影響があるのか」ということである。公表されたデータのみで地域住民が知りたい答えにたどり着くことはほぼ不可能である。また「各測定結果が基準値を下回っているから安全です」という論法は、基準値そのものへの理解、信頼感が得られていない状態では困難である。
 そこで、さまざまな経路による被ばく線量の総量については、そのリスクの程度と実態を、住民自らが判断できるようなわかりやすい表現を使うといった工夫が重要である。具体的には、図3のような「リスクのモノサシ 」を示すことで、身近なリスクと放射線のリスクとを比較できるように工夫するなど、多くの方法を専門家と市民が知恵を出し合って考えていく必要がある。

放射線健康影響のリスクチャートのイメージ

1 「リスクのモノサシ」、中谷内一也、NHKブックス、2006

国・地方自治体への提言:長期にわたって住民の健康をケアする

 被災住民にとっては、環境回復が達成されても、それまでに自分や家族が被ばくした線量値や、それによる健康への影響は重大な懸念事項として気になるとこだ。

 この懸念を払拭して安心を得るためには、事故以来の被ばく線量を可能な限り正確に把握し、とくに高い線量(例えば一般人の年限度である1mSv以上)を受けた人に対しては、国や地方自治体が生涯にわたって健康状態のケアを実施することが望まれる。
提言5:放射能汚染状況の把握と防護対策の立案

国への提言:地方自治体と協力して、防護対策に必要となる汚染状況のモニタリングを継続的に行う

 福島第一原子力発電所周辺の放射能汚染状況は、除染をはじめとする防護対策立案の基盤的な情報であることから、責任をもった機関が、汚染状況を科学的かつ客観的に測定・評価し、得られた結果をわかりやすく示すことが必要である。
 居住や就学・就労に関連する地域では、速やかに線量を測定し除染対策へ反映すること、また除染後の継続的なモニタリングにより、線量の低減を確認しなければならない。一方、森林などは、50~100年単位の長期にわたってモニタリングを行い、責任をもって結果を集約する組織も求められる。
 モニタリングは、陸域や海域の汚染状況のみならず、建屋内、農水産物、工業製品、加工製品などにも行う。また、その結果については、国民の信頼を確かなものとするために、IAEAなど、国際的な機関に定期的に報告し、国際的なレビューを受けるべきである。
提言6:放射能汚染の除去による環境回復

国・地方自治体への提言:3年をめどに希望する住民全員を帰還させ、安心して永住できる環境を回復する

 被災地コミュニティの存続を考えると、3年が環境回復のための目安となる。被災者の不安を払拭するうえでも一刻も早い帰還スケジュールを提示しなければならない。

地方自治体への提言:環境回復は、県および市町村が主体となり、地域の特色に応じた対策を立案する。また、環境の回復に向けては、専門組織を創設し、民間企業の力も結集した一元的な除染事業を行う

 被災者の帰還を実現するためには、居住環境や就労・就学環境の放射線被ばく線量を受容可能なレベルまで引き下げなければならない。そのため、居住・就労・就学環境に合わせた除染プランを作成し、地方自治体が主体となり、除染活動を行うことが望ましい。
 除染活動において、屋根の雨どいや排水路などに見られる高濃度の放射能汚染の除染は、地方自治体単位の細かな活動(ミクロな除染)が求められる。一方で、農地や森林などの大規模な除染(マクロな除染)を効率的に行うには、海外も含む専門家・機関の科学的な知見や技術を集める必要がある(図4)。
 除染プランを効率的に遂行するには、実施能力に長けた専門の組織に一元的に知恵(と資金)を集約すべきである。この組織は、マクロな除染では実施主体として活動し、ミクロな除染では実施主体である地方自治体へ技術的支援を行うことが望ましい。

環境回復までのロードマップ案

研究機関・地方自治体への提言:科学的根拠に基づき、効率的かつ効果的で実施可能な方法で環境回復を行う

 日本原子力研究開発機構などの研究機関は、環境回復に向けての地方自治体を技術的に支える。地方自治体は継続的な研究活動を支える研究センター機能をもつことで、長期にわたる除染作業を、科学的な根拠に基づき、効率的かつ効果的に行うことが可能になる。
提言7:放射性廃棄物の処理・処分

国への提言:災害からの復興を第一と考え、住民の安全を確保できる最善の対策を検討し実施すべき

 福島第一原子力発電所の事故により、非常に広範囲の土地や廃棄物が放射能に汚染された状況にあり、これら地域の災害廃棄物の大半は、汚染物として扱わねばならない可能性が高い。その量は、保守的に見ても80万トン相当であり、土壌汚染除染のために1平方メートルあたり50万ベクレル以上のセシウム137に汚染された土壌(約1300㎢)を、深さ5cmで除くと仮定(実際は、森林が大半を占める)すると、神戸空港を埋め立てた体積(6500万㎥)に等しい。
 したがって、これまでの原子炉からの放射性廃棄物を対象とした処理・処分方法や法規制、体制にとらわれることなく、災害からの復興を第一とした放射性廃棄物の処理・処分方法や規制を検討する必要がある。

国・住民への提言:処理・処分方法の検討については安全性を十分に検討したうえで最善策を策定する。この策定過程には住民が参加する

 放射性廃棄物に限らず、廃棄物の処理・処分を行う施設は、周辺住民にとって迷惑施設となりやすい。廃棄物処理・処分施設の安全性を十分に住民に理解してもらうには、ステークホルダー参加型の処理・処分方策検討が意思決定の方法として考えられる。
 専門家は、複数の処理・処分方策に関する課題や長所、短所について住民代表を含む意思決定者に説明し、技術的な安全性とともに住民の合意も決定要素に加えた最善策を策定していくプロセスである(図5)。
提言8:農水産物の安全確保と風評被害の解消

放射性廃棄物処理・処分の「最善策」の検討アプローチ

国・農林水産業者への提言:食品の汚染状況を正しく評価するとともに、流通過程における放射能付着を防ぐ

 土壌から作物への放射性物質の移行や、海洋・河川・湖沼の汚染状況を明らかにする。そのうえで流通における汚染拡散の防止策を検討するとともに、農林水産業者と連携して流通における汚染拡散の可能性とその防止策を検討する必要がある。
 具体的には、流通過程における農水産物のフロー(いつどこに運ばれるか)を流通の専門業者に作成してもらい、放射能汚染の専門家がフローの中の各地点で考えられる汚染経路を想定して、食品が汚染されるおそれのあるプロセスを特定する。国は、これらの地点における汚染防止を行うよう流通業者を指導する。

国への提言:風評被害防止のためのモニタリングや、食品安全性に関する「認定制度」を実施する

 実際の汚染以上に「福島県産」の農水産物に対する風評被害は長期的に県の農水産業にダメージを与え、農水産物のみならず、工業製品にまで及ぶ可能性がある。
 そこで、風評被害の実態をモニタリングし、農水産物の安全確保と風評被害防止に対応する組織を国に設置して、産業復興対策として取り組み、福島県産の農水産物の安全が継続的に確保されていることを県内外に伝える。
 また、汚染されていない農耕地や除染が終了した農耕地については、国が除染済みの証明書を発行。そこで生産された農作物には非汚染農耕地の出荷品であることを示す表示を許可する、あるいは農作物に固有の識別番号を付与して、非汚染農耕地からの出荷品であることを消費者が確認できる仕組みをつくるなどの「認定制度」を広く浸透させて、風評被害の防止を図るべきである。

第三の視点 持続 生活・経済基盤の回復と持続的な発展・成長

 福島県の復興には原子力発電を補うような新たな産業の創生が必須である。また、3万人を超える県外の避難者を含めた被災地域コミュニティの維持・再生や、原子力災害を教訓にした産業の復興を目指す方策を検討しなければならない。
提言9:被災地域コミュニティの維持・再生

国への提言:被災地域住民の意向に沿い、希望者全員を対象とした柔軟な帰還のための選択肢を検討・準備する

 震災に伴う避難数は9万8000人で、県内避難所に5万8000人、全国各地の避難所には3万4000人が入所、これ以外にも相当数の自主避難者が存在する。
 そこで国は、事故収束後の数年先までを見据え、地方自治体と協力して、希望者全員を対象とした柔軟な帰還への選択肢を検討し、準備することが必要である。さらに、帰還後の雇用について、国が責任をもって住民の意思や地域の特色を活かした対策を立てて実施すべきである。

国・地方自治体への提言:全国に「汎ふくしまコミュニティ」を創造する

 全国各地での避難長期化も予想されることから、希望者全員が帰還することを念頭に、避難期間中、旧来コミュニティを統合的に維持しておくことが必要である。
 県内外での生活を余儀なくされた被災地域住民と、受け入れ地域住民との間に生まれた交流を通じて、永続的な関係を意識しながら、全国に「汎ふくしまコミュニティ(福島県を身近に感じるコミュニティが全国に広がった状態)」を構築する契機としたい。
提言10:被災地域の産業復興

国への提言:被災市町村・住民の意向に基づき、国が責任をもって、福島県の産業復興を支援する

 「福島県全体」が放射能汚染・物理被害を受けたかのようなイメージの悪化を招いている。福島県のブランドイメージにとって重要な産業・地域を優先した復興を進めることも一案であり、その前提として、復興を妨げている要因を産業ごとに把握し、技術的・人的な支援を行うべきである。

国・地方自治体・企業への提言:福島第一原子力発電所事故を経験した福島県だからこその新規産業創出を狙う

 既存の産業については、復旧のみを目的とするのではなく、さらなる発展を目指し、とくに相双地域では、新規産業の模索が必要である。その際、原発事故を経験した福島県だからこそ実施する意義のある新規産業を誘致することが望ましい。
 とくに新規産業は計画から定着まで、長期を要するのが一般的であることから、各段階で、福島県としてどのような位置づけ・役割を期待するのかを計画しておくことが望まれる。

国・地方自治体・企業への提言:柔軟な就業シナリオの準備・雇用確保策を実施すべき

 職を失った人々は、「従来の職にとどまれる人」「新たな産業創出で雇用される人」「県内では雇用しきれない人」など多様で対応も異なる。したがって、これらの状況を把握し、復興の経過を考慮した柔軟な就労シナリオを用意する必要がある。
 今年度の第二次補正予算予備費から除染への支出は2200億円にのぼる。除染を含む復興事業は数千億円、あるいは1兆円を超える大規模な事業となる可能性が高く、地元雇用の重要な受け皿となる。県、および市町村は、このような暫定的な雇用対策と将来を見越した長期的な雇用対策の双方のプランを描く必要がある。

おわりに

 今回提言の対象とした原発事故からの復興は、人類がいまだ経験していないことへの挑戦でもある。現在も多くの方々が、事態の収束と復旧に向けて活動され、福島復興に知恵を振り絞っている。三菱総合研究所も、福島県の未来を信じ、その一助となる活動を継続していく所存である。

提言の詳しい内容については、三菱総合研究所HP のプレスリリース(http://www.mri.co.jp/fukkou0929/)をご覧下さい。


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