2011・2012年度の内外景気見通し
―出口のみえない欧州債務危機、リスクを抱える世界経済

 
Point
震災後の供給制約は解消するも、海外情勢悪化から回復テンポは緩慢にとどまる見込み
日本も含めた世界経済の最大のリスクは欧州債務危機の深刻化である
2012年に日本が取り組むべき課題は、震災復興と財政再建。もはや先送りは許されない

1.日本経済の概況

 日本では、東日本大震災発生直後、主として供給面の制約から生産活動が大幅に低下した。その後、サプライチェーンの急速な復旧から供給制約が解消に向かうとともに、需要も回復傾向をたどり、内閣府発表の11年7-9月期の実質国内総生産(GDP)は、前期比+1.5%(年率+6.0%)と、4四半期ぶりのプラス成長となった。しかし、足元では、欧州債務危機の深刻化、海外経済の減速、急激な円高進行、タイの洪水など、日本経済を取り巻く外部環境は急速に悪化している。とくに、欧州債務危機の深刻化が、投資家のリスク回避姿勢を強め、市場の不安定化を招いているほか、実体経済面でも、輸出だけでなく、家計や企業のマインドにも悪影響を及ぼし始めている。

2.世界経済の概況

米国:バランスシート調整圧力が重石に。緩慢な回復続く

 米国経済は、自律的な回復力が弱い状況が続いている。雇用・所得環境の回復は緩慢にとどまっているほか、住宅市場の長期低迷からバランスシート調整圧力が米国経済の重石となっている(「内外経済指標②米国:住宅市場」を参照)。日本のバブル崩壊後の経験に照らしても、バランスシート調整の克服にはなお長期間を要しそうだ。
 さらに、足元で起きている国際金融市場の不安定化を通じた家計・企業マインドの悪化、海外経済の減速感の強まりなどもあることから、先行きも緩慢な成長にとどまる可能性が高い。
 12年の大統領選挙を前にした政治の混乱も懸念材料である。昨年12月に成立した減税延長法に盛り込まれた「給与税税率の引き下げ措置」の期限は11年末である。オバマ大統領は、同措置の期限延長を含む景気対策を提案したが、議会承認の目処は立っていない。このまま終了すれば、消費の鈍化を導く可能性が高まる。また、中長期的な財政再建策を巡る民主・共和両党の理念の隔たりは大きく、政治的対立も強まっている。1.5兆ドル規模の追加赤字削減策も、期限とされた11月23日までに合意には至らなかった。これにより、13年以降、予算を強制的に一律削減するトリガー条項が発動される見込みだが、来年の大統領選次第では強制措置が見直される可能性もあり、今後も紆余曲折が予想される。

欧州:急激な信用収縮から大幅に減速へ

 欧州債務危機は深刻の度を強めている。金融市場の混乱が続くなか、欧州連合(EU)各国の景況感は、8月以降、急速に悪化している。とくに南欧諸国では、緊縮財政により内需が冷え込んでいる。
 欧州経済の先行きは、域内の政治情勢や「包括戦略」の実現性とそのスピードなど欧州債務危機への対応に大きく依存するため、不確実性が非常に高い。後述の標準シナリオの下でも、財政・金融・経済の負の連鎖から、家計や企業のマインド悪化、欧州系銀行の資産削減による信用収縮、域内貿易の縮小が続くとみられ、外需・内需ともに一段と減速することが予想される。財政に余裕のあるドイツでも、域内輸出の減少が設備投資の鈍化につながるとみられるほか、家計のマインド萎縮が消費を下押しする可能性が高い。したがって、EU全体の成長率は11年10-12月期から12年にかけて前期比ベースでゼロないしは小幅のマイナスとなる可能性は高く、リセッション入り(景気後退)も否定できない。

新興国:4つの下押し圧力から成長率は鈍化

 新興国経済は、総じてみれば、堅調な内需を背景に景気拡大は続いているものの、このところ成長が幾分鈍化しており、12年にかけてもこの流れが続くと予想する。その背景には、4つの要因が挙げられる。
 まず、インフレ圧力の残存と金融政策の困難化である。今夏以降、欧米経済の減速懸念の広がりや国際商品市況の落ち着きによる輸入インフレの緩和から、金融引き締めを見合わせる国が増加した。しかし、各国の物価上昇率は依然として高く、インフレ圧力の残存は、消費・投資の減速要因となっている。インフレを沈静化し、経済を軟着陸させることが出来るのか、不確実性が高い状況にある。
 第二は、国際投資資金の流出である。世界の主要銀行の新興国向け与信の内訳をみると、欧州系による保有残高が大きい。今後、欧州系銀行による資産圧縮の動きが加速する可能性は高く、そのことがこれまで堅調な成長を支えてきた消費・投資を急減速させかねない。
 第三に、新興国からの欧米向け輸出の減速がある。アジア新興国からの米国、欧州向け輸出シェアは、10年時点でも合計で25%程度を維持している。また、残りの多くを占めるアジア域内向け輸出も生産工程の国際分業に伴う部品取引に起因する部分が大きく、重要な最終消費地である欧米各国の景気減速は、アジア域内の中間財貿易をも滞らせ、アジア新興国の減速要因となる。
 第四に、タイの洪水によるサプライチェーン寸断である。一定の前提条件を置いて試算を行うと、タイからの中間財などの輸入減少による各国の生産下押しやタイ向け輸出の減少を通じ、アジア各国の実質GDP成長率は11年末から12年にかけて▲0.1~▲0.4%程度下押しされると見込まれる。

3.欧州債務危機が日本経済へ波及する3つの経路

 欧州債務危機は、次の3つの経路から日本経済にも波及するであろう。
 第一に、金融市場を通じた経路である。投資家のリスク回避姿勢の強まりから、世界の株価が軟調に推移しているほか、安全資産への逃避の動きが根強い円高圧力を招いている。今後もこうした展開が続けば、三つめの経路の輸出に影響するだけでなく、家計や企業のマインド悪化を招き、消費や投資など内需の下振れ要因ともなる。
 第二に、金融システムを通じた経路である。財政悪化国向けの与信を多く抱える欧州系銀行は、世界的に資産圧縮を行っている。信用収縮の影響は、欧州系銀行の与信残高が圧倒的に高い新興国にも及びつつある。これが新興国経済の失速につながれば、次の三つめの経路から日本の輸出や収益の強い下押し圧力となるほか、日本企業のグローバル展開そのものに影響を与えかねない※1
 第三に、輸出を通じた経路である。日本の直接的な欧州向け輸出比率は10%程度である。しかし、中国などの海外現地法人を通じた欧州向け輸出や、米国や新興国向けなど輸出への間接的な影響まで考慮すれば、上記2つの経路とも相まって、相応の下押し圧力となろう。

4.シナリオ別にみた世界経済の見通し

 日本経済の先行きを展望するうえで、カギを握るのは世界経済の見通しである。欧州債務危機の展開を軸に据えると、世界経済の先行きとして次の3つのシナリオが想定される。

標準シナリオ:欧州の信用不安がくすぶり続けるなか、世界経済は減速しつつも成長を持続

 欧州債務危機の解決には、どの方向に進むにせよ、大きな政治的決断や多国間調整が必要となるため、出口まで長期間を要するとみられる。しかし、世界的な金融危機回避のため、EUは小出しながらも対策を打ち出さざるを得ない。
 標準シナリオでは、「包括戦略」のもとでギリシャが「無秩序なデフォルト」には至らず、EFSFの資金枠拡大によりイタリアやスペインのデフォルトのリスクは回避されると想定する。こうした想定下、欧州経済がゼロ近傍の低成長にとどまる一方、米国経済は緩慢な成長を続け、新興国経済も内需の下支えにより失速は回避するとみられる。このため、世界経済は減速しつつも緩やかな成長を持続するとの見通しとなる(図1)

リスクシナリオ1:世界的な金融危機は回避するも、世界経済が標準シナリオ以上に急減速

 欧州では、財政・金融・経済の負の連鎖が強まっており、それらの相乗作用による深いリセッション入りの可能性がある。米国も、バランスシート調整など構造問題による成長下押しが続くなか、欧州債務危機の影響が一段と表面化する可能性がある。また、来年の大統領選を控え、財政再建を巡っての政治混乱も考えられる。財政再建に向けた取り組みが頓挫し、米国債格下げ懸念が再び強まれば、欧州債務危機で脆弱になっている国際金融市場を一段と不安定化し、世界経済へ負の影響を与えることになろう。
 さらに、現時点では総じて内需が堅調な新興国においても、インフレや既往の金融引き締めの影響、欧米向け輸出の鈍化を背景に、減速の兆しがみられる。加えて、タイの洪水によるサプライチェーン寸断の影響が懸念されるほか、市場のリスク回避姿勢や欧州系銀行の資産圧縮を背景に、新興国市場から海外投資資金の流出が加速する可能性もある。こうした動きが強まれば、中国の不動産バブル崩壊の引き金となる恐れもある。
 リーマン・ショック後、世界経済を牽引してきた新興国経済、とくに中国経済が失速すれば、世界経済の急減速、すなわち0~2%程度※2への低下は避けられないであろう。新興国経済は世界のGDPの約3割を占め、いまや米国(約2割)、EU27各国(約2割)を上回る。新興国経済の失速を回避できるかが、標準シナリオとの一つの分かれ道となろう。

海外経済の展望 (単位 : %)

リスクシナリオ2:世界的な金融危機へと発展、世界経済はリセッションへ

 欧州債務危機は、月を追って深刻化の様相を呈しており、収束には長期間を要するとみられる。仮に「イタリアやスペイン国債などへの売り圧力の継続→欧州系銀行の経営不安→フランス国債の格下げ懸念→EFSFの資金規模への不安」という悪循環を断ち切れずにイタリアやスペインなど中核国の危機へと発展すれば、一気にリーマン・ショック並みか、それを上回る世界的な金融危機へと広がる可能性も高まる。この場合、世界経済はリーマン・ショック以来のマイナス成長に陥るであろう。
 リーマン・ショック時と比べ、中央銀行間の通貨スワップ協定など流動性危機を未然に食い止める体制整備は進んでいる一方で、先進国における財政・金融政策の対応余地は限られる。中国など新興国には一定の政策対応余地があるとはいえ、世界経済の長期停滞につながる可能性も否定できない。

5.日本経済の見通し

 われわれの見通しにおける金融・商品市場や政策の前提は、次のとおりである。為替相場(ドル円レート)は、12年度までの予測期間中、70円台半ばから後半での推移を想定する。欧州債務危機の長期化が予想されるなか、逃避先として円の選好は続くとみられる。また、米連邦準備制度理事会(FRB)が少なくとも13年半ばまで低金利政策を維持するとの時間軸を示すなか、金利差の観点からも円安には振れにくい。ユーロに対しても円高基調が続くであろう。原油相場は、中長期的な新興国での需要拡大期待と、市場のリスク回避姿勢の強まりが交錯し、振れを伴いつつも90ドル/バレル台での推移が続くと想定する。政策面では、12.1兆円の第三次補正予算成立を受けて、12年度に4兆円程度の震災関連の公共事業費や災害対策費を見込む。後述の日本の成長率見通しでは、その波及効果も織り込んでいる。なお、復興増税は、13年初から実施される見込みであり、12年度のGDPへの影響は軽微と予想する。

復興需要を考慮しても、回復力に乏しい状況は続く

 最後に、これらを踏まえた日本経済の先行きであるが、結論として回復の足どりは引き続き鈍いとみざるを得ない。
 日本では、来年度にむけて復興需要が徐々に顕現化し、成長の押し上げに寄与するとみられる。しかしその一方、欧州債務危機が3つの経路を通じて下押し圧力となるほか、短期的にはタイの洪水の影響も加わることが想定される。
 鉱工業生産は、5-6月に大幅に回復した後、増勢が鈍化しており、9月は震災後初めて前月比マイナスとなった。先行きは、海外経済の減速、円高に加え、10月に深刻化したタイの洪水の影響が懸念される。タイからの中間財調達が困難になることで国内の生産にも影響が出始めており、自動車を中心に国内生産を短期的に下押しする可能性が高い。続いて外需は、海外の需要動向が先行きのカギを握る。標準シナリオのもと、海外経済は緩やかに減速するとみられ、輸出の伸びの鈍化が見込まれる。これに円高やタイの洪水の影響も加わって、製造業を中心に企業収益の下方修正を招くであろう。円高の影響を一定の前提に基づき試算すると、5円の円高進行はマクロの企業収益を3%程度減少させるとの結果が得られる。
 こうしたなか、設備投資には、被災地域での復興需要など一部に後押しする動きもみられる。しかし、海外情勢や収益の先行きに対する不確実性は高く、経営者の投資姿勢は依然慎重とみられる。また、新興国の成長期待を背景に、震災前から増加傾向にあった海外投資の動きが、円高や電力問題によって加速する可能性もある。したがって、12年度の国内の実質設備投資は、復興需要を織り込んでも+3.5%程度の伸びにとどまると予想する※3
 消費は、自粛ムードの緩和によって、震災直後の落ち込みからは持ち直した。しかし、足元では、先行きに対する不透明感が高まるなかで消費者マインドの持ち直しテンポは緩やかになっている。また、所得環境も消費の懸念材料である。製造業を中心に企業の業績下方修正が相次ぐなか、今冬以降の賞与の減少が予想される。雇用市場では、失業率はやや改善しているものの、震災後に職探しをあきらめ労働市場から退出した潜在的失業者が増加している可能性がある。こうした所得環境の悪化に加え、10年に実施された消費刺激策や11年夏の地デジ移行による需要先食いの反動から耐久財消費の低迷も見込まれ、12年度の実質消費支出は+0.4%と低い伸びを予想する。
 物価を取り巻く環境をみると、需給ギャップは縮小傾向にあるが、なおマイナスとみられる。消費者物価指数(除く生鮮食料品)の前年比が安定的なプラスに転じるのは、13年度以降と予想する。
 以上の生産や需要の見通しを踏まえ、来年度にかけての日本の成長率を展望すると、復興需要を下支えに成長率は高まるが、海外情勢の悪化から、その成長率は震災直後に予想したよりも緩慢なものにとどまるとみられる。われわれのマクロ経済モデルでは、日本の実質GDP成長率は、11年度前年比+0.2%、12年度同+1.8%と予測する。震災からの復興が見込まれる割には、回復力に乏しい成長といえよう。企業を取り巻く経営環境も、海外経済が鈍化するなか、国内需要も低調な推移が想定され、厳しい情勢が続くと考えられる。

日本の実質GDP成長率の推移

6.新年に向けて:わが国が取り組むべき2つの課題

 このように、世界の情勢は厳しさを増している。こうしたなかで、12年に向けてわが国は2つの課題に集中的に取り組むことが求められる。
 第一の課題は、震災復興である。本格的な復興予算となる第三次補正予算はようやく成立したが、放射性物質の除染を含む復興の実現への道のりは長い。まず、被災地域に将来にわたって存続可能な都市や産業の創造につなげるグランド・デザインや、それぞれの地域の特徴や事情を踏まえた街づくりの具体的な設計が重要である。また、これらの設計や計画に沿って、速やかに予算が執行される必要がある。さらに、復興を着実に実現していくためには、長期にわたって復興計画の進捗管理や状況に応じた計画変更などを担う体制の整備も求められよう。
 第二の課題は、財政再建である。長い目でみて日本の成長力を維持していくためには、積年の課題である財政再建への取り組みが急務である。欧州債務危機の広がりを受けて、ソブリンリスクに対する投資家の目がますます厳しくなっている。日本の一般政府の債務残高※4はGDP対比で約2倍にものぼる。ひとたび市場の信認が低下すれば、これまで低位にとどまってきた長期金利が上昇、利払い費の増加により財政赤字が拡大することは、欧州の現状をみれば明らかであり、そうなれば復興財源の確保も一層困難となる。つまり、第一の課題である震災復興のためにも、財政再建による信認維持は不可欠である。政府が掲げる財政健全化目標「国・地方の基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を15年度までに対GDP比で半減、20年度までに黒字化」を達成するためには、税と社会保障の一体改革を実現させる必要がある。
 もとより、日本が抱える課題は上記2点にとどまらない。①全国レベルでの安心・安全社会の再構築、②日本企業の対外競争力向上とグローバル展開を支える外交・通商戦略、③高齢化や環境・エネルギー問題などの課題解決につながる国内産業構造の転換、④国内外での構造変化に適応した人材育成や教育改革などが挙げられよう。
 しかし、まずは12年に震災復興と財政再建という2つの課題に正面から取り組む必要がある。その解決は、わが国がこれまで先送りしてきた積年の課題の克服にもつながる。これ以上、課題を先送りすることなく、政府、企業、国民が正面から一丸となって取り組むことで、「失われた20年」といわれる経済の長期停滞を克服し、新たな活路を拓き、内外の注目に成果をもって応えることが、新年の日本全体の課題と言えよう。

2011・2012年度の実質経済成長率 (日本) の展望 (単位 : %)

※1 銀行間取引市場でのドル資金調達コストは上昇傾向にあり、欧州以外の世界の金融機関にも影響は波及しつつある。日本の金融機関による欧州の財政悪化国向け与信額は少ないため、直接的な影響は軽微とみられるが、一つめの経路から日本でも株価の下落が続けば、相対的に株式保有比率が高い邦銀のリスク量が増加する懸念がある。

※2 国際通貨基金(IMF)による9月時点の世界経済の成長率見通しは、2011年、2012年ともに4%である。

※3 10年度の実質設備投資の実績は前年度比+4.2%である。

※4 2010年暦年の一般政府(中央政府、地方政府、社会保障基金を合わせたもの)ベースの日本の債務残高は、対GDP比199.2%(出典:OECD“Economic Outlook)。


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