震災1年後提言
―地域ハブ拠点を明確化し、広域的な地域連携による復興を

 
Point
避難住民の早期帰還のために、中核的な都市サービスを広域に提供する地域ハブ拠点の機能強化を
地域ハブ拠点を核とした市町村の広域的な役割分担・連携により「新たな東北」の実現を
国と県が、地域の復興ロードマップを公表し、着実な実行を
 

1.被災地復興の現状と課題

 震災以来、被災地の現場では住民、ボランティア、NPO、民間企業、行政、学界のさまざまな関係者が、それぞれの立場で復興に向けた真摯な取り組みを行ってきた。1年経った今、仮設住宅への入居、電気・ガス・水道といったライフラインの仮復旧など、最低限の生活環境の整備が進みつつある。同時に、故郷の再生を切に願われている住民の方々の努力により、生活再建に向けた動きが少しずつ始まっている。
 とはいえ、がれき処分やインフラ復旧の遅れ、農業や漁業、水産加工業などの回復の遅れ、被災地域外への人口流出など、被災地復興は順調ではない。被災地や故郷の暮らしがいつ、どのような姿で再生するのか、明確なイメージは描けていないのが実情だ。

国の動きの遅れ、国・地方のギャップ

 国レベルでは、昨年12月、ようやく震災復興特別区域法(復興特区)が施行され、今年2月に復興庁が立ち上がった。しかし、こうした法制度や体制の構築に手間取ったこともあり、復興に向けた本格的な事業はまだ緒に就いていない。例えば、復興特区における復興推進計画は、国が準備した特例措置を活用するためのエリア指定を行うにとどまっている。
 また、国の復興事業メニューを被災市町村に適用しようとする場合、納税者への説明責任から適用条件を明確化しようとする国の担当者と、柔軟かつ迅速な適用を求める県や市町村担当者との間で調整が難航するケースもあるようだ。

担い手、労働力の不足

 一方、各被災市町村は、そもそも行政職員が少ないこともあり、復興計画策定や予算執行を行う人材が不足している。民間人材の活用も、透明性や公平性などへの配慮もあり思ったほどには進んでいない。
 また、復興関連工事の発注では、被災地の技術者不足や人件費増に起因した入札不調が発生するなど、需給のミスマッチが顕在化している。これに対して、国土交通省は、被災地と被災地以外の建設業者がジョイントベンチャー(JV)を組むことを可能とする復興JV制度を創設した。それでも、労務単価の高騰や作業者のための宿泊施設の不足などの課題は残っている。

放射性物質の除染

 放射性物質汚染地域では、除染の早期実施が不可欠である。しかし、汚染範囲が広域なうえに、汚染度合が高い地域の約70%が森林であること、数万人が従事すると想定される除染事業は世界に前例がないこと、効果的な除染技術やノウハウも手探り状態にあることなど、難問は尽きない。
 環境省は、放射性物質汚染対処特措法の施行に伴い市町村における除染計画の策定促進、除染作業者の被ばく管理、除染事業の推進ビジョン策定を行いつつあるが、現状は市町村からの膨大な問い合わせに追われているようだ。また、基準以下の放射能濃度のがれき処分に関しては、多くの自治体が受け入れを表明していても、住民の合意形成が進まないといった課題もある。
 産業界では、除染や汚染廃棄物の処理・処分において主導的な役割を果たす「除染・廃棄物技術協議会」を設立し、活動を開始している。除染に関するこれらの各種取り組みを早期・円滑に進めるためには、全体プログラムのマネジメントが必要である。

2.必要なのは地域ハブ拠点を核にした復興計画

地域連携による持続的な広域地域経営を目指せ

 被災地では、震災以前から人口減少・高齢化が全国平均よりも早く進んでいたが、震災により、その傾向に拍車がかかることも危惧される。復興が遅れれば遅れるほど問題が深刻化するという点で、すべての被災地が一刻も早い復興・再生を迫られている。
 もっとも、震災がなかったとしても、個別の市町村ごとの地域経営では人口減少・高齢化に歯止めをかけるのは極めて難しい。また、復興においても、行政・公共サービスを維持・充実させ、産業振興・再生など将来に向けた戦略を立てるには、従来の市町村単位では大きな困難を伴う。
 今後は、将来にわたって中核となる教育、医療、金融などの都市サービスを広域に提供する拠点(地域ハブ拠点と呼ぶ)を明確化し、地域ハブ拠点を核とするネットワークを通じて各市町村の役割分担と相互連携を実現するのが合理的である。各市町村も、そうした広域的な地域経営を意識しながら、それぞれの地域特性や固有事情を政策や計画に織り込む形で、長期ビジョンを見直していくことが期待される。
 すでに、各地域で消防や廃棄物処理などを連携して実施する広域市町村圏が存在する。また、保健医療圏など医療施設についても機能別に広域的な枠組みがつくられている。例えば、二次保健医療圏として、岩手県の沿岸の被災エリアでは4つの圏域が設定され、広域で入院医療や専門的な保健サービスに対応している。
 地域として一体的に考え、行動するためには、こうした現状の地域連携を一つのモデルとし、それぞれの地域にハブ拠点を位置づけていくことが有効である。その上で、補助金などの申請単位としても、地域ハブ拠点を核とした広域市町村圏を補助対象とし、優先的に支援していくことも重要である。

民間企業の被災地進出の条件

地域ハブ拠点が必要な3つの理由

 復興を迅速かつ効果的に進めるために、地域ハブ拠点が必要と考えられる理由は、下記3点である。

【理由1】

 被災地の避難住民には、故郷に早く帰りたいと希望している方も、子供たちの将来や教育・医療サービスなどの生活面で躊躇している方もおられる。地域ハブ拠点が担う都市サービス機能を、必要に応じ周辺市町村からも利用できるルートを明らかにすることは、避難住民に安心感を与え、結果として、早期帰還を促すことにつながる。

【理由2】

 被災地復興には基幹産業(企業)の再生が必要である。人口減少・高齢化のなかで、個別市町村単位での企業誘致には限界がある。地域ハブ拠点を明確化することで、地域資源を活用した産業の集積密度を高め、基幹的な民間ビジネス・産業の長期的成立条件を整えていくことが重要だ。そのことは、周辺市町村にも波及的なプラス効果を及ぼす。

【理由3】

 国の財政が厳しいなか、被災地に対してもメリハリのある投資が必要である。集落・市街地の集約化とともに、特に、地域ハブ拠点に効率的・集中的にインフラ投資を行うことが、震災復興の早期化と国力の維持・再成長を両立させる。

地域ハブ拠点を核とした広域的な地域連携のイメージ

広域的な地域連携による「新たな東北」の姿

 地域ハブ拠点は、地域の中核的な病院・学校の配置、各種サービス機能の集積、防災面での拠点化などにより、地域の核としての役割を果たす。同時に、ICTインフラを強化・活用して市町村間の連携を図ることで、物理的な移動の難しさも克服できる。周辺市町村も、地域ハブ拠点を中心とした広域的な連携により地域全体の再生・活性化の利益を享受することになる。
 結果的に避難住民の早期帰還につながれば、被災地は「新たな東北」として再生するだろう。

【教育・医療】

 地域ハブ拠点に立地する大学・高校や総合病院と、周辺市町村の教育・医療施設との連携で、地域全体の教育・医療サービスの底上げを図る。地域ハブ拠点は、福祉分野や震災後のこころのケアなど、多様な分野で都市サービスのネットワークの核となる。

【産業(雇用)・業務】

 地域ハブ拠点を中心に、交通基盤、ICT基盤、エネルギー基盤、生活基盤などの早期整備によって企業誘致を図り、産業の集積を目指す。周辺市町村は、情報ネットワーク、生産・流通ネットワークなどを活用し、地域ハブ拠点の産業や金融といった各種サービスとの連携を図り、地域全体としての産業復興の一翼を担う。
 また、地域全体としてサービスやモノの地産地消モデルを支えるスモールビジネス、ソーシャルビジネスを育成するため、必要な人材を誘致・育成する。
 なお、地域ハブ拠点を中心とした広域的な地域は、今後の長期滞在型観光スタイルが普及した際の受け皿としての観光圏にもなりうる。

【新たな生活・産業拠点整備】

 被災地における住宅確保は喫緊の課題であり、公営住宅が重要な役割を果たすが、一方で多くの被災者は、戸建住宅の自立再建を指向している。用地確保の目処が立てばこれらの需要が顕在化する。
 その機をとらえて、地場産材、再生可能エネルギー、資源循環などの環境配慮復興住宅の建設を支援し、新たな地域産業創造の起爆剤とする。

【防災】

 防災面の強化は、地域の重要課題だ。地域ハブ拠点の防災機能強化と周辺市町村へのネットワーク強化により地域防災の向上を図る。特に地域ハブ拠点では、震災直後の情報収集力、食糧備蓄、ヘリポートなど救出拠点の整備などを強化し、地域の防災の核とする。

3.「新たな東北」実現の方策

地域の資源を活かした産業再生

 宮城県では、県の震災復興会議の提言を踏まえ、太陽電池製造企業が、大衡村(おおひらむら)に新工場を建設予定である。提言で打ち出されたグリーンエネルギー関連産業の集積構想に企業側が応えたものだ。震災復興のなかで再生可能エネルギーに関心が高まっていることに加え、すでに地元に半導体産業の集積があり、地元人材に期待できることが理由とされている。
 また、園芸産地形成を目指す岩手県陸前高田市では、経済産業省の「先端農商工連携実用化研究事業」を利用して、自然エネルギーを活用した植物工場の進出が決定した。加工施設も併設し、産業復興の起爆剤として期待されている。
 このように、各地で産業再生・新産業創出に向け、官民の関係者が工夫や努力を重ねている。成功例を被災地全域に展開できれば、地域の再生も加速する。
 その際、一過性ではなく、地域の産業として定着させるためには、被災地の自然環境や資源、地場産業の特徴などを活かすことが重要である。例えば再生可能エネルギーの導入に伴う関連産業の誘致や、一次産業の効率化・高度化(六次産業化)により競争力のある産業として再生しようとする企業群の形成が必要である。

国と県への期待

 被災地復興の早期化と雇用の確保は例えるならクルマの両輪である。企業誘致に際しては、復興特区制度による税制優遇などが活用できるが、単に制度を準備しただけでは企業誘致は難しい。国としてのR&D拠点設置など、国が主導していくことも時に有効である。
 国の予算を県や市町村に配分する従来的な仕組みのなかでは、縦割り行政による事業制約などに加え、市町村側の計画立案のための人材・経験の不足、市町村単位で取り組むことによる連携の不足が、合理的な復興の全体像を描くことを難しくしている面もある。こうした観点からも、国と県には市町村間の広域連携を支援するための制度設計、補助制度などをサポートしていくことが期待される。また、こうした新たな地域構造を見据えたインフラ整備などを支援していくことが重要である。
 長期的な視点からは、被災市町村が今回の災害および復興対応で体験した苦難、住民の負担などを分析し、基礎自治体のあるべき姿、もつべき機能を再考する機会でもある。事情次第では、基礎自治体の広域化(合併)、現在の広域市町村圏に代わる多面的な自治体連合などの選択肢も考えられよう。

4.長期的な復興ロードマップ(工程表)を

 被災地の復興は長期に及ぶ。地域連携をベースに、今後10年で、将来も持続できる「新たな東北」を実現することを目指したい。
 そのためには、長期的かつ広域的な復興のロードマップ(工程表)が必要となる。このロードマップのデザインには、全体的・俯瞰的な視点が欠かせないため、国と県も能動的に参画し、調整・調和の取れた復興計画とすることが期待される。
 もちろん、地域の復興計画である以上、地域が自らの将来を見通し、地域の特性や住民の声も反映した自主的な構想・発案がベースになければならない。これを出発点とし、関係する市町村が協議・連携して、地域全体の計画に仕上げていくことになる。国と県は、計画の全体整合性と実現性を高めるためのサポートを行い、いわばボトムアップとトップダウンの組み合わせで計画が策定・公表され、関係者全員が責任を負うのが望ましい。
 このような観点から当社が考える復興ロードマップを図3に示す。
 除染を含めて地域復興に必要なことは膨大にあり、予算制約もある。各地域の早期復旧と地域ハブ拠点を核とした将来の地域づくりは、地域によっては矛盾する場合もあるだろう。地域内の合意形成も思いどおりにはかどらず時間を要することだろう。しかし、それでも目標を定めて関係者が心を一つにするために、一定のマイルストンを決めてロードマップを作成・共有することの意味は大きい。
 また、震災復興と同時に、当該地域を高齢化・エネルギー環境問題に対応した先進地域として整備することにより将来の都市の姿を提示することも、再生に向けた重要なポイントである。
 着実な取り組みのなかに、このように未来への種を埋め込んでおくことは、高齢化が進む地域に若者を呼び戻す力になるだろう。同時に、高齢化・環境という世界の2大テーマへの解決の道すじをつけるという、大いなるチャレンジとも考えるべきである。

復興ロードマップ

5.次に来る災害への備えを

 東日本大震災は、残念ながら政府・行政・専門家への不信感を高めた。また、ともすると効率性を優先しがちな社会において自然災害に強い都市やインフラの重要性、エネルギー戦略の見直し、災害時の自治体の広域連携強化の必要性などを再認識させた。その意味では、社会の価値観の変化をもたらした災害といえる。
 今回の震災を教訓とし、次に来る災害への備えとすることが重要である。例えば、検討はすでに始まっているが、より広域に影響を与えると考えられる三連動地震(東海、東南海、南海)の想定と対策、人命のみならず日本の機能喪失にもなりかねない首都圏直下地震などへの対応強化、ICTネットワークを基盤にした災害にも強いインフラの整備基準の見直し、立法府ならびに政府におけるBCP(業務継続計画)の見直しや横断化・高度化などを人々の記憶が薄れる前に行うことが重要である。
 最後に、わが国は、今回の震災への対応から得られた知見を世界に発信していく責務を負っていることも忘れてはならない。
 三菱総合研究所は、本文中の除染・廃棄物技術協議会事務局を務めるほか、陸前高田市の植物工場の支援を行うなど、さまざまな場面で震災復興に参画しています。また、岩手県復興局に研究員を派遣し復興をご支援しています。当社理事長の小宮山宏は、宮城県震災復興会議の議長を務めております。公共的使命として、今後とも積極的な役割を果たしてまいります。


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