2012・2013年度の内外景気見通し
―復興に向け歩みを進める日本、世界経済に暗雲も

 
Point
世界経済は減速傾向にあるが、2012年後半以降は、新興国を中心に緩やかな持ち直しへ。
日本では復興需要が表面化。民間部門への波及も加わり、回復基調を維持する見込み。
先行きの不確実性は高い。欧州債務危機の再燃により世界・日本経済に暗雲も。

1. 概観

 世界経済は、欧州経済の低迷や新興国経済の減速を背景に、昨年後半より鈍化傾向にあるが、米国経済の緩慢な成長持続や新興国経済の持ち直しにより、12年後半以降は緩やかな改善を見込む。
 わが国経済は、昨年後半にかけて、外部環境の悪化を背景に足踏みの状況にあったが、12年1-3月期の実質国内総生産(GDP)は、復興需要の表面化によりプラス成長を示した。先行きを展望すると、12年度は復興需要の本格化とともに、日本経済の回復が明確になるであろう。13年度は復興需要の押し上げ効果は徐々に弱まるが、民間部門への波及などを背景に、回復基調を維持すると予想する。
 しかし、先行きの不確実性は高く、海外情勢を中心に下振れリスクがくすぶる。とくに欧州債務危機の展開次第では、世界経済、ひいては日本経済が大きく下振れする可能性がある。

2.世界経済の見通し

米国:金融危機後の構造調整圧力が重石。緩慢な回復が続く

 米国経済は、金融緩和政策の持続に支えられ、緩やかな回復基調を維持している。実質の個人消費支出を「所得」「資産(住宅・株式)」「エネルギー価格」に要因分解すると、11年以降、エネルギー価格の上昇が下押し圧力となる一方、株高による資産効果と所得要因が消費の押し上げに寄与してきた。
 ただし、金融危機後の構造調整圧力は、徐々に和らいでいるとはいえ、なお米国経済の重石となっている。構造的失業※1の存在から雇用の回復は緩慢にとどまり、住宅市場も低迷が続いている。家計のバランスシート調整圧力も残存する。
 こうしたなか、米国経済の先行きは回復傾向は続くが力強さに欠ける展開を見込む。12年、13年の実質GDP成長率は2%前後と予想する(図1)。
 リスク要因として、まず足元の世界株安を受けた家計や企業のマインド悪化が挙げられる。また、財政政策を巡る不透明感も懸念される。13年初以降、連邦政府の一律支出削減が予定されているが、12年末にはブッシュ減税※2や給与税減税なども失効を迎える。標準シナリオでは、現政権は高所得者層向け以外の減税を延長すると想定する。しかし、大統領選やねじれ議会により対応が遅れ、すべてが失効することもありうる。そうなれば、13年前半に米国経済が急減速する可能性が高まる。

欧州:高まるギリシャのユーロ離脱リスクと長引く景気低迷

 11年末以降、欧州債務危機に対する市場の緊張は一時和らいだ。しかし、12年春以降、フランス大統領交代、ギリシャ議会選挙の与党惨敗、オランダ内閣総辞職と、政治情勢が大きく揺らぐなか、①ギリシャのユーロ離脱の可能性、②独仏の足並みの乱れへの懸念、③スペインの銀行不安などから、スペイン、イタリアの国債利回りが上昇、世界株安を招くなど市場の緊張は再び高まっている。

 ギリシャでは、5月6日の総選挙で財政再建を担ってきた2大政党が過半数割れとなり組閣に失敗、6月17日に再選挙が実施される予定である。3月には欧州連合(EU)・国際通貨基金(IMF)によるギリシャへの第2次支援策が決定されたが、ギリシャが次回の融資を受けるためには、新政権が6月末までに具体的な財政再建策を提示する必要がある。再選挙の結果、再建策を否定する少数政党が躍進する事態となれば、同支援策が白紙に戻り、同国のユーロ離脱の可能性が高まる恐れがある。ユーロ離脱が現実となった場合には、①新通貨暴落による外貨建て債務の膨張やインフレの加速、②同国向け債権を抱える欧州金融機関への影響、③ギリシャからの資金流出加速や周縁国への危機伝播などから金融システム不安へと発展するリスクは否定できない。
 同じく5月6日のフランス大統領選では、「成長重視」を掲げるオランド氏が勝利し、独仏の協調体制がこれまでどおり維持できるかは不透明である。
 スペインでは、2000年代後半の不動産バブル崩壊や緊縮財政による景気悪化により不良債権問題が深刻化し、銀行の健全性への懸念が高まっている。
 このように、欧州債務危機の先行きは不透明である。標準シナリオでは、EU・IMFによる資金基盤拡充や、ECBによる大量資金供給や証券市場プログラムを通じた国債買い入れなどにより、ギリシャ以外の周縁国への危機伝播は抑止されると想定する。このシナリオを踏まえた先行きの成長率は、ドイツは緩やかながらもプラス成長を続ける一方、南欧諸国の景気後退が続き、12年はEU全体でゼロ成長と予想する(図1)。
 ただし、ギリシャがユーロ離脱に追い込まれ、スペインなどへ危機が伝播する場合、欧州経済全体が深いリセッション入りを余儀なくされよう。

海外経済の展望

新興国:成長鈍化が継続、12年後半から緩やかに持ち直す

 新興国経済は、既往の金融引き締めや輸出鈍化を背景に軒並み減速しており、各国はマクロ経済政策を緩和方向へ転換している。先行きは、足元の漸進的な金融緩和による下支え効果もあって、12年後半以降、緩やかに成長率を高めると予想する(図1)。
 ただし、新興国の先行きにも、いくつかの懸念材料がある。まず、インフレ圧力の残存が挙げられる。多くの新興国では物価上昇率が鈍化するなか、景気減速を受けて金融緩和へ転じている。しかし、インド、ベトナムなどではインフレ圧力が根強く、インフレを沈静化し、経済を軟着陸させることができるのか不確実性が高い。第二に、欧州債務危機の再燃により、輸出減速圧力が強まる可能性がある。また、今後の展開次第では海外資金の流出が加速するリスクもある。欧州系銀行による新興国向け与信残高は大きく、資産圧縮の影響も受けやすい。第三に、12年秋以降の政権交代に伴う中国の政治情勢や政策運営に対する不透明感がある。標準シナリオでは、円滑な政権移行を前提に、中国の実質GDP成長率は、12年+8.4%、13年+8.6%と予想しているが、その前提が崩れ中国経済の失速を招けば、新興国経済はもちろん、世界経済にとって大きな打撃となる。

日本の実質GDP成長率の推移

3.日本経済の見通し

 日本経済の見通しにおける政策や為替相場の前提は次のとおりである。政策面では、復興需要は、12年度中に本格化し、12年度の実質GDPを1%程度押し上げると想定。また「税と社会保障の一体改革」による消費税引き上げ(14年4月に5%→8%)を前提とし、13年度後半に駆け込み需要を見込む。※3為替相場(ドル円レート)は、80円近傍から80円台前半での推移を想定。2月の日本銀行による「中長期的な物価安定の目途」の公表後、いったん円安に振れたが、米国の追加緩和期待も台頭しており、金利差の観点から円安には振れにくいであろう。足元では欧州情勢の不透明感が高まるなか、逃避先として円の選好が強まり、想定以上の円高水準にある。

復興需要にけん引され、緩やかな回復を持続

 上述の世界経済の見通しと政策や為替の前提を踏まえた日本経済の先行きであるが、標準シナリオでは、緩やかな回復傾向をたどると予想する。12年4-6月期の実質GDP成長率は、1-3月期の高い成長の反動もあって、やや伸びを低めるとみられるが、プラス成長を維持するであろう(図2)。
 鉱工業生産は、12年1月以降、自動車生産の増加や米国向け輸出の回復により、持ち直しつつある。12年度は復興需要が生産の押し上げ要因となろう。
 輸出は、欧州向けの停滞は続くとみられるものの、米国・アジア向けを中心に12年後半にかけて緩やかに回復すると予想する。ただし、上述の海外経済や為替の動向次第では、再び鈍化する可能性がある。
 設備投資は、総じてみれば緩やかな回復基調にある。もっとも、製造業は国内の設備過剰感が強く、趨勢的な海外投資比率の上昇もあって回復力に乏しい。先行きは、復興需要が期待される建設・小売業や、スマートフォン普及により設備増強ニーズが強い情報通信業など、非製造業がけん引役となろう。
 消費は、マインド改善やエコカー補助金に支えられ底堅く推移している。先行きは、雇用環境の緩やかな改善とともに回復基調を維持すると予想する。ただし、エコカー補助金は早ければ12年夏に終了するとみられ、終了後は伸びが鈍化するであろう。
 公共投資は、復興需要の表面化により、12年1-3月期に高い伸びを示した。公共工事の請負金額も、昨年10月以降、明確に増加している。12年4月以降、港湾、道路などの大規模な復旧工事が続々と着手される予定であり、12年度半ばにかけて高い伸びを予想する。ただし、技術者・技能者不足や人件費・建設資材価格の高騰などから、入札に参加する業者が揃わない「入札不調」もみられ、復興需要の本格化の時期が想定よりも遅れる可能性はある。
 物価は、生鮮食品を除く消費者物価指数をみると、12年2月以降、小幅ながらも前年比プラスに転じている。先行きは、需給ギャップの緩やかな縮小などを背景に、0%台前半の小幅プラスを見込む。
 以上の生産や需要の見通しを踏まえ、日本経済の先行きを展望すると、12年度は、復興需要の本格化とともに、回復が明確になるであろう。13年度は、復興需要の押し上げ効果は徐々に弱まるが、復興需要の民間部門への波及などを背景に、回復基調を維持するとみられる。実質GDP成長率は、12年度+2.1%、13年度+1.6%と予測する。日本経済が復興に向けて着実に歩みを進める時期となろう。

日本経済を取り巻く3つの下振れリスク

 ただし、こうした日本経済の先行きの不確実性は高く、3つの下振れリスクが存在する。
 第一に、最大のリスク要因として、欧州債務危機の深刻化が挙げられる。ギリシャのユーロ離脱への懸念が広がるなか、スペインの銀行不安も重なり、先行きの不透明感は再び高まっている。こうした情勢下、仮にギリシャがユーロ離脱に追い込まれ、スペインなど周縁国へ危機が伝播する事態へと発展する場合には、市場の緊張は一気に高まるであろう。
 その場合、日本経済には、①市場(円高進行、株安によるマインド悪化)、②金融システム(欧州系銀行の世界での信用収縮による間接的影響)、③輸出の3つの経路から下押し圧力がかかる。
 リーマン・ショック時と比べ、先進国における財政・金融政策の対応余地は限られる。世界的な金融危機へと発展すれば、わが国も含めた世界経済は、リーマン・ショック以来のマイナス成長に陥るであろう。したがって、周縁国への危機伝播を未然に防ぐことが重要である。ECBによる「最後の貸し手」としての役割とともに、「防火壁」といわれるEU・IMFによる資金基盤拡充が求められる。
 第二に、新興国経済の軟着陸への懸念である。多くの新興国では、物価上昇率がやや鈍化するなか、景気減速を受けてマクロ経済政策を緩和方向へ転換している。しかし、インフレ圧力が残存するなか、思い切った金融緩和が採れない国も多く、景気失速への懸念がくすぶる。
 新興国経済は、いまや世界GDPの約2割を超える。したがって、新興国、とくに中国経済が失速すれば世界経済の0~2%程度※4への急減速は避けられず、日本の輸出・企業収益の強い下押し圧力となろう。
 第三に、エネルギーを取り巻く環境が挙げられる。足元では、投資家のリスク回避姿勢の強まりなどから、原油価格も下落に転じており、上記の二つのリスクに比べ懸念は後退しているが、中長期的な需要拡大見通しや中東情勢を巡る不透明感など上昇圧力は根強い。震災以降、わが国は、燃料輸入の増加から資源価格の影響をより受けやすい経済構造となっているだけに、原油価格の高騰もリスク要因の一つと言える。また、国内では今夏の気温次第では、電力不足が生産の下振れ要因となる可能性がある。
 このように、わが国を取り巻く環境は引き続き不透明感が高い。海外情勢に翻弄され続けている日本経済が、少しでも抵抗力を高めるには、潜在需要の開拓、財政再建、人的資本の再構築など、わが国が抱える積年の課題を一つひとつ克服するとともに、復興を着実に実現していくことが求められよう。

統計データでみる被災地の復旧状況

 震災後1年間のストック、フローの統計データを用い、被災地の復旧の現状を把握する。まず、ストック面をみると、電気・ガス・水道などライフラインの復旧、瓦礫の仮置場への搬入、仮設住宅の建設など、緊急性の高い復旧はかなり進んだ。しかし、瓦礫の最終処理・処分は未だ1割に満たない。産業面では、製造業の主要生産拠点において2月以降工場設備の本格再稼働が相次いでいる一方、小売業などでは津波被災地域を中心に本格的な再開が見通せないところも少なくない。また、農業・水産業では、地盤沈下・塩害・放射能汚染、従業者の高齢化要因も相まって、経営再開は50%前後にとどまる。
 一方、経済活動(フロー)面では、震災前の水準を上回る動きもみられ、「復興特需」が東北経済の押し上げ要因となっている。補正予算の執行が進み、公共工事請負金額が震災前の3倍超であるほか、生活基盤の再建に向けて住宅着工や新車販売が、震災前水準を大きく上回って推移している。鉱工業生産もほぼ震災前の水準に回復している。東北を訪れる人も震災前の水準に戻りつつあり、宿泊客数や小売販売額の回復につながっている。

図3 ストック面の復旧状況 図4 フロー面の復旧状況

※1 産業構造の変化などにより、求人に必要な労働スキルと失業者の持つ労働スキルが一致しない需給のミスマッチにより発生する失業。

※2 ブッシュ前大統領が2001年、03年に導入した個人所得税率を中心とする減税策の通称。オバマ政権下で12年末まで延長された。

※3 駆け込み需要による13年度の実質GDP成長率の押し上げ効果は+0.4%程度と想定。

※4 IMFによる12年の世界経済見通しは3.5%である。

(注)本稿の記述は2012年6月3日時点の情報に基づき作成しました。


関連するコラム・レポート

関連するサービス