岐路に立つ日本の国際標準化戦略
―産業競争力に結びつける実効的な戦略へ

 
Point
産業のグローバル化にともない、国際標準化の重要性が増しつつある。
欧州、米国、中国は各々の事情から国際標準化戦略を強化し成果を挙げつつある。
日本は出遅れ気味。官民が協力し重点分野の選択と戦略的推進を急ぐべき。
 

1. 産業の競争力を左右する国際標準化

 国際標準化とは、国・地域同士が話し合い、大きさ、形状、性能などの規格を国際的に作っていくこと。もともと標準化は、人々が便利で豊かな生活を実現することを目的として作られているゆえ、いまや企業活動においても重要な役割を果たすようになっている。
国際標準化の影響が決定的になったのは、1995年に発効されたWTO(世界貿易機構)のTBT協定(貿易の技術的障壁に関する協定)の導入からだ。この協定は、WTO加盟国は関連する国際標準が存在するときには国内標準を整合させる義務を負うというもので、例えば国際市場に製品を出そうとする場合に、国際標準と異なる日本標準にもとづいた製品は出せなくなる。逆に考えればもともと品質の高い日本製品の規格が国際標準となれば、大きな市場を獲得することができる。
このため、最近では、国際標準策定に熱心であった欧州勢ばかりでなく、世界市場に急速に進出してきた中国や韓国なども国際標準化を重要な産業政策と位置づけ戦略的取り組みを強化してきている。
これに対して日本では、規格の提案数や各分野の国際標準化の議論を主導していく幹事国引き受け数が、米独仏などに比して低い(図1)ことが課題として挙げられる。また、国際競争力を生み出す根幹となる企業の国際標準化活動への参画が、欧米主要国企業や、中国・韓国に比して低調であるとも言われている。

ISO及びIECにおける主要国の幹事国引受数の推移

2. 世界と日本の国際標準化の現状

【欧州】

 欧州は域内での製品やサービスの円滑な流通を促すことをめざし、早くから地域標準化、国際標準化に取り組んできた。ISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)における決定は1国1票であるため、27カ国という加盟国の数は有利に働く。このため、他の国や地域に比べてEUが主導して国際標準機関と密接に連携し、国際標準の策定に積極的に取り組んでいる。このことは、2010年2月に欧州委員会に提出された「競争力あるイノベーティブな欧州のための標準化:2020年に向けたビジョン」にも次のように明示されている。「ISO、IECなどの活動を欧州が主導し、欧州規格が国際標準になるように努める。そのため欧州の多数の票を活用する」「国際標準の多くは欧州から生み出され、欧州の企業がこれらの規格の作成者として優位を享受、市場を獲得する」である。
欧州の企業でもこの政策方針が理解され、国際標準化に携わる人材を重要視し30年単位で雇用するとともに、国際会議の場や国際機関にも人材を送り込んで積極的な活動を行っている。

【米国】

 米国は、北米・中南米に巨大な市場を抱えていることもあり、これまでは市場メカニズムを重視する立場をとってきた。しかし、TBT協定により、各国の標準をISOやIECの国際標準に整合させねばならないこと、中国が2001年にWTOに加盟したことを背景に、国際標準化への取り組みを強化してきている。特に、1992年以降は幹事国引き受け数を伸ばしており、1990年は独仏英に次いで4位であった引き受け数が、現在は1位のドイツに匹敵するまでに至っている。このことは、米国の産業競争力を向上させる一因と考えられる。

【中国】

 世界第2位の経済大国に躍進した中国は、2001年のWTO加盟で、世界全体を市場として捉えるようになったため、国際標準にも積極的に関与するようになった。幹事国引き受け数も2006年の12から2010年には32と増加している。また、中国の標準化機関であるSAC(中国国家標準化管理委員会)は、欧米諸国の標準化機関であるANSI(米)、BSI(英)、DIN(独)などと協力協定を結んでいるだけでなく、エマソン、シーメンス、フォルクスワーゲンといったグローバル企業とも国際標準化活動に関する協力協定を結んでいる。中国は協定締結企業が開発する規格を自国標準として採用し、それらの企業には莫大な中国市場を提供する。いずれはそれを国際標準化することで、中国発の製品が世界市場を占めることを目指す動きもある。

【日本】

 2006年12月、知的財産戦略本部により「国際標準総合戦略」が決定された。これと並行して出された経済産業省の「国際標準化戦略目標」では、日本技術に基づく国際標準を戦略的に獲得することが重要とし、2015年を目途に以下の目標を掲げた。①国際標準の提案数を倍増する。②欧米並みの幹事国引き受け数を実現する。
この結果、①の提案数倍増に関しては、2001-03年平均で63件だったものが、08-10年平均で125件と2015年の目標年次を待たずに達成、②の幹事国引き受け数についても着実に増加している(図1)。しかしその一方で、経済産業省では国際標準化に対する日本産業界の意識が未だ不十分であるとの認識がある。2011年度に当社が行った企業の標準化担当者への調査では、日本企業の標準化担当部署は縮小傾向にあること、企業内において標準化に携わる人材の人事的な評価が低いことなどが明らかになった。このことは日本企業の標準化担当者が欧米に比べて少ないことに表れている(図2)

3. 国際標準化戦略の推進方策

 では、日本が実効的に国際標準化を進めるためにはどうすればよいか。以下の点の充実が必要であろう。

①戦略的な重点分野の選定と、認証までを含めた標準化戦略の策定

 多数ある標準化の分野を、日本がすべて主導することは不可能である。そこで日本が世界で強みを発揮できる技術分野に注力する。なかでも、今後世界市場を獲得できる分野を選定し、重点的に官民の資金、人材、力を結集する。すでに経済産業省では重点7分野※1を選定し進めているが、各分野それぞれが認証までを含めた具体的な全体戦略を立案し、官民が協力して実行することが求められる。認証は製品やサービスが標準に適合し品質や安全性を保っていることを証明するもので、標準規格と対になる重要な役割を担っている。日本の機関は、1世紀以上の歴史を有する欧米の認証機関と比べ規模や経験で見劣りする分野も少なくない。今後、注力すべき領域である。
なお、技術を1つに集約する本来の標準化分野とは異なり、エレクトロニクス系などハイテク分野の製品標準では、マルチスタンダード化が一般化しつつある。この分野では技術進歩が速く、技術が1つに集約化される前に新しい技術が従来の技術を淘汰することが多い。このような環境では日本発の標準制定に拘らず、各国市場ごとの標準に従って市場参入を優先することも必要な視点であろう。

②国際標準活動ができる人材の確保および育成

 国際標準化を推進するための人材確保・育成は図2のデータからも喫緊の課題と考える。2011年度の当社調査によれば、国際標準化人材とは、「国際会議でリーダーシップを取れる力」「英語力(文書作成力)」「プレゼン力」「相手の理解力」「社交力」といった基礎力に加え、「卓越した技術的知見」「未来と全体を見通せる力」「政治的スキルなどの卓越した力」をもった人材である。これらすべてを兼ね備えた人材はなかなかいないだろうし、すぐに育成することも難しい。そこで人材が育つまでは、企業のOBも活用するなど、個々の力をもつ人材が団結してチームとなって国際標準活動を行うことが求められる。また、力をもった海外の人材を日本のために活用する方法も考えられる。
一方で、人材育成においては、特に企業の経営者が国際標準化の重要性を認識し、これらに携わる人材を事業戦略の中に組み入れて活用することである。具体的には、経営戦略に直結した国際標準部門の設置、企業内における国際標準担当者の適切な評価と人材の増強、長期的な配置などである。
三菱総合研究所は国際標準化推進事業を経済産業省から受託し、国際標準化推進を支援している。日本の産業競争力強化に向け、今後も国際標準化戦略の推進に貢献したい。

日本と各国企業の標準担当者事例

※1 7つの重点分野先端医療、水、鉄道、次世代自動車、エネルギーマネジメント、コンテンツメディア、ロボット


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