原子力発電のあり方に関する国民の多様な認識
―議論の前提として明らかにすべき点とは

 
Point
原子力発電に対する国民的議論では、賛成・反対の意見の背後にある考え方の把握・分析が重要。
国民が重視する視点への的確な情報提示と正しい理解の浸透が、今後の議論に有用。
国民の認識に加え、産業・経済、環境、安全保障も含めた総合的・長期的な指針が期待される。

1.原子力発電に対する国民の意識は存廃に二分

 東日本大震災と福島原子力発電所事故を受けて、わが国のエネルギー政策を見直す議論が行われている。政府は「2030年代に原発稼働ゼロを可能とする」との目標を盛り込んだ「革新的エネルギー・環境戦略」を打ち出した。このエネルギー政策に関する議論を進めるにあたり「一握りの人々で作る戦略」ではなく、「国民的議論で作る戦略」への転換を図った。このために、いわゆる「国民的議論」が実施されたことは、今回のエネルギー政策見直し議論の1つの特徴であった。
 今回の議論では、原子力発電のあり方について、現在も平行線をたどっている。三菱総合研究所では、一般市民を対象としたWEBアンケートを実施し、回答結果の分析を通じて、原子力発電利用のあり方への意見の構造分析を試みた。その結果から、原子力発電のあり方に関する議論の前提とすべき項目を整理した。
 WEBアンケートは、2012年7月下旬に三菱総合研究所が運用する「生活者市場予測システム(mif)」を通じて実施※1。都道府県別の回答数を人口比(2012年3月)とほぼ等しく保ちながら、合計3,000の有効回答を収集した。
 まず、将来の原子力発電のあり方について、「今後、2030年ごろに向けて日本の原子力発電をどうすべきか」と尋ねたところ、図1左のとおり、概ね1/3の回答者が「今すぐ、または2030年までにゼロにすべきである」と回答した。今すぐではなくとも「将来的にはゼロにすべき」という意見とを合わせると6割以上が原子力発電の廃止を望んでいる。一方で将来もある水準で維持すべきだという意見は27%であった。こうした傾向は「国民的議論」で言及された既存の各調査結果と同様である。
 また、原子力発電所再稼働の是非については、「暫定的な安全基準でも再稼働して問題ない」という考え方に対して「そうは思わない」とする意見が半数近くを占めた(図1右)。

※1 それぞれ「そう思う」~「そう思わない」まで5段階で回答

今後の原子力発電のあり方(左)と、再稼働に対する意見(右)

2.原子力発電廃止の影響認識で賛否が分かれる

 今回のWEBアンケートでは、「どの意見が多かったか」に加えて、「なぜそのような意見になったのか」の分析・推定を試みた。環境面やエネルギー安全保障、さらに原子力発電廃止による生活への影響など、関連するさまざまな設問も用意した。
 例えば、原子力発電所を再稼働させない、あるいは将来にわたり原子力発電を利用しない場合にも、○電力不足を避けられるか?○市民の生活に大きな問題は起こらないか?○わが国にとって大きな問題は起こらないか?といった問いである。以下では、これらの設問に対する回答と原子力発電存廃に対する賛否(「今後、2030年ごろに向けて日本の原子力発電をどうすべきか」)両論の相関関係を分析してみる。

・原子力発電廃止が市民生活に及ぼす影響

 図2を見ると、約3割の回答者が「原子力発電を利用しなくても生活に問題は起こらない」と考えているが、こうした人たちの多くは「原子力発電廃止論」を支持する傾向が認められる。反対に「生活に問題が起こる」と考える回答者は、その半数以上が「原子力発電存続論」を支持している。

原子力発電廃止の生活への影響(単純集計:左)と、今後の原子力発電のあり方への回答との関係(クロス集計:右)

・再生可能エネルギーに対する期待度

 原子力発電の廃止により「生活に問題が起こる」かどうかの判断は、「太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーを大量導入することで、日本の電力の大半をまかなうことは可能か」との設問への回答と相関があることもわかった。再生可能エネルギーで十分にカバーできると考えている人ほど原子力発電廃止の影響は小さいと考える傾向にある。また、こう答えている人の多くは、原子力発電を再稼働・利用しなくても「わが国にとって大きな問題は起こらない」「電力不足は避けられる」という見方に立っている。逆に、再生可能エネルギーでは不十分と考える人ほど「原子力発電廃止の影響は小さくないと考える」という相関関係も確認された。

・原子力発電における日本の技術力への信頼感

 原子力発電のあり方に対する意見は、「日本の原子力発電の技術レベルは信頼に足るか」といった信頼感とも同様の相関関係が認められた。信頼感の低い人ほど「廃止論」への支持が多く、逆に信頼感の高い人は「存続論」を支持する傾向が認められる(図3右)。もっとも、それ以前に回答者の半数近くが、日本の原子力発電技術レベルに不安を感じ(図3左)、技術に対する信頼感が大きく損なわれている点が、より本質的な問題であろう。

日本の原子力発電技術への信頼(単純集計:左)と、原子力発電のあり方への回答との関係(クロス集計:右)

・原子力発電廃止→電気料金値上げへの許容度

 一方で、原子力発電廃止によるコスト負担の可能性については、認識や意見に相違があることが浮かび上がった。1つの例が図4であり、「再生可能エネルギー導入によってCO²排出削減を進めると月々の電気料金が値上げされる可能性がある」ことを前提に、「いくら位までなら値上げを許容できますか」との問い掛けである。原子力発電の「存廃」に関する見方と、電気料金値上げの「許容」「不許容」の見方の間に、有意な相関関係は認められなかった。原子力発電廃止を望む声のなかにも、その負担増に対しては異なる考え方が並存しているようだ。

再エネ導入による電気料金値上げをどこまで許容するか

3.一般市民が重視する視点とは

 では、環境面やエネルギー安全保障など、上記以外の視点を含め、原子力発電に関する国民の認識はどのような構造になっているのか、さらに踏み込んだ分析を行った(図5)。
 分析結果を見ると、「原子力発電利用のあり方」(図5の中心部)に対する考え方への因果関係が大きいポイントとして、前節で相関関係があった以下A)~ C)がまず挙がった。
 A)原子力発電廃止の影響認識(中央下)
 B)再生可能エネルギー・省エネルギーでカバーできるかどうか(Aの認識に影響を与える)(中央下)
 C)原子力発電技術・体制への信頼度(左)
 さらに、「原発事故のインパクトはたとえ直接の人命被害がなくても他の技術による事故より甚大」など「 D)原子力発電技術は特殊」であるとの意識も、原子力発電利用を慎重に考える材料の1つとして重視されている。ただし、「放射線への恐怖感」と「原子力発電の存廃」とは、直接の因果関係は認められなかった。
 このほか、「 E)省エネ・節電より快適さ・利便性を重視するかどうか」(中央上)、「 F)エネルギーセキュリティへの懸念」(右上)も、原子力発電利用のあり方を考える際の影響因子として挙がってはいるが、その影響度は意識 A)や意識 C)と比較して小さい。さらに、「地球温暖化への懸念」(右中)に至っては、原子力発電利用のあり方に対する意見とは因果も相関も認められなかった。
 このような分析を通じて、原子力発電のあり方の議論で考慮すべき前提は以下のように整理できる。○再生可能エネルギーの可能性(誰がどこにどれだけ導入できるのか)○省エネの余地(具体的に、何を省エネするとどのくらいの効果があるのか)○再エネ、省エネのコスト負担はどの程度なのか(結果として電気料金はどうなるのか)○原子力発電の安全性やリスクに関する情報、および、それらがどの程度開示され理解されているか

 言い換えれば、これらの点をどのように捉えるか次第で原子力発電に対する考え方も大きく左右されることから、的確な情報提供と正しい理解の浸透が重要となる。
 まずは、上記に整理したような諸問に対しても有識者・専門家による議論を深め、必ずしも意見の一致・合意は望めないまでも、事実関係について大筋の共通見解を目指すことが優先されるべきであろう。そのこと自体が大きな前進であるし、正しい「国民的議論」に一歩近づく途だと考える。

※2 互いに相関が大きい設問の背景に共通に存在するであろう考え方。例えば、「原子力発電を利用しなくても自分たちの生活には問題は起こらない」と「原子力発電所を再稼働させなくても、電力不足は避けられると思う」という2設問の背景には、共通して「原子力発電廃止の影響は小さい」という考え方が存在すると考察される。こうして抽出される複数の「共通因子」について因果関係を分析する手法を共分散構造分析という。

「原子力発電利用のあり方」に対する意見を形成する心理構造モデル

4.「3E+S」の将来像から総合的見解を

 これまで、日本のエネルギー政策は「3E+S」(経済:Economy、環境:Environment、エネルギーセキュリティ:Energy Security、安全:Safety)と呼ばれる視点を中心に検討されてきた。
 しかし、今回のアンケート分析結果からは、多くの国民が従来の「3E+S」とは別の視点も含めて、原子力発電利用のあり方を考える傾向があることが明らかになった。例えば、経済性は、国としてのマクロ的な経済成長よりも電力不足など直接影響の大小にフォーカスされており、安全性も、日本の原子力発電技術の水準とその運営に対する信頼感という形で意識されている。一方、エネルギーセキュリティや地球温暖化問題は、原子力発電利用のあり方を考える際の重要な判断要素とはなっていないように見受けられる。
 また、エネルギー政策は原子力発電のあり方だけで決まるものではない。日本の産業・経済、環境、安全保障、国民生活などについて将来像を考えた上で、再生可能エネルギー、天然ガス、石炭、石油など各種エネルギー源を、互いに課題を補完しながら位置づけることも必要だ。そのためにも、多面的な視点からの議論を喚起すると同時に、各種エネルギー源の最適な組み合わせをどのようにして目指すのか、丁寧な検討を経た国の総合的・長期的指針が示されることが期待される。


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