震災復興からの新しい日本の未来

 
Point
震災から2年が経過。これまでの復旧・復興の動きを総括し、改めて復興の針路決定が必要。
社会的合意の下で新しい東北の再興を進めるために、復興のグランドデザイン策定を。
被災地が地域資源を活かしたまちづくりの先進モデルとなるよう支援の在り方を問い直すべき。

 3月11日で、東日本大震災から2年をむかえる。三菱総合研究所は、震災3カ月後の2011年6月に、「東北地方の将来を見据え、従前に戻す復旧だけでなく、地域の復興の中に未来への種を埋め込むべき」という提言を行い、そのなかでは、震災後5年で将来につながる復興の基礎づくりを終えることも提案した。また、同年7月の「東日本大震災からの復興の基本方針(東日本大震災復興対策本部決定)」では、2015年度末までの5年間の事業規模として19兆円の大枠が定められ、本格的な復興が着手された(安倍政権はこの枠を25兆円に拡大する方針を示している)。
 だが、2年が経った現状を見ると、復旧すら道半ばという状況にある。現在、被災地では瓦礫の山は大幅に減りつつあるが、いまだに多くの地域で新しいまちづくりの方針が固まらず、被災者の生活再建もままならない状況が続く。沿岸部の農地の復旧も進んでいない。事業所の新設もある一方、撤退したままの製造業も多く、再開した商店街でも将来の客足への不安が漏れる。福島の放射能問題も考えれば、さまざまな局面、レベルで復興の見通しが立っていないのが実情だ。
 今一度、これまでの復旧・復興の動きを総括したうえで、今後の復興方針やスケジュールを見直す必要があろう。
 そのようななか、明るい材料がないわけではない。阪神淡路大震災と同様、今回の震災でも震災直後から現在に至るまで、多くのボランティアやNPO、企業などの支援が続いている。これらの動きは復旧の支援にとどまることなく、新しいコミュニティやまちづくり、事業の創出にもつながっている。また、各地に建設が進められているメガソーラーや植物工場、都市の消費地と直結した農水産品の生産・販売や、地域に根差したコミュニティビジネスなど新しい産業の萌芽も生まれ始めている(弊社刊『フロネシス』9巻参照)。これらの萌芽に共通するのは、地域の中で核となるまち・地区に拠点を置き、ICTなどを活用したコミュニケーションにより地域外まで結ばれ、さまざまな主体が連携する、次世代の地域の姿である。
 しかし、東北地方は震災以前から人口減少・高齢化と地域産業の衰退という日本の地方部に共通する課題を抱えていた。2050年には宮城以外の東北5県を含む全国16の県で人口が半減するという予測もあるなか、これらの萌芽を育て太い流れとしていかなければ地域の将来への不安は解消しない。

※ 土居英二・静岡大学名誉教授試算

求められるパラダイムシフト

 安倍政権下では、復興事業規模の拡大による更なる復興の加速が提唱されている。しかし、現時点では将来の東北地方のグランドデザインは明確でなく、復興後の地域の目標像が不明確なため、維持管理費を含めて将来にわたり投入するトータルの予算額や予算執行の優先順位などが社会的に共有されていない。
 東北地方の復興は、地域のグランドデザインを策定し、費用負担を含めた社会全体の合意の下で、事業を進めていく必要がある。その際に社会のあり方についての考えを根底から変える、パラダイムシフトが必要だ。さらに復興の過程で芽生えている新しい取り組みの理念を共有・普遍化し、2050年の望ましい地域の姿の実現に向かって、スピード感と持続感をもって取り組むことが求められる。
 ここでは今後の東北地方の復興に必要と思われる、4つのパラダイムシフトを提案する。

復興への4つのパラダイムシフト

①垂直なガバナンスから水平な連携・協力へ

【復興の現状】被害が甚大であった市町村のなかには、震災後相当期間にわたって行政機能が停止したところがあった。そのなかで、応援職員の派遣や物資の支援など、遠隔地も含めた市町村間の連携も見られた。例えば、岩手県遠野市は陸前高田市、大船渡市、釜石市など、被災地域に対する後方支援拠点として大きな役割を果たした。一方で、国の復興交付金が地域の復興の早期実現になかなか結びつかないなど、国主導の復興に対する課題も見えた。
【実現すべき将来】人口減少や経済停滞の続く地域社会の再生、活性化のカギを握るのは、地域が自ら考え自ら動く、地域主権で自立できる行政単位の形成である。そのために、当社では、現在の市町村の境界を越えたより広域的(車でおおむね40~50分で移動できる地域)で一定の人口規模(最低でも人口30万人程度)をもつ、江戸時代の「藩」のような地域が、人口減の続く現在の基礎自治体に代わって地域再生に取り組む姿を提唱している。
 規模的には欧州の小国にも相当する東北地方が、道州制の検討と並んで、「藩」的な地域枠組みを早期に構築し、各地域が水平な連携のもと主体的に復興にあたることが、復興予算の効果的な活用と復興の早期化につながると考える。東北地方の再生の過程で、道州制導入の下地が、他の地方よりも早く形成されることを期待したい。

各地域の自立と水平な連携・協力

②多様な主体の力を結集する社会へ

【復興の現状】地域の復興を進めるうえでは、「人」の力がカギとなる。現在、マンパワーやノウハウ、経験の不足が復興推進のネックとなっている。また、高台移転による新しいまちづくりや、新しい地域産業の創造などには、地域の多様な主体の協力が必要であり、関係者の合意形成が不可欠である。
【実現すべき将来】少ない人口で地域を支えるために、また高台移転などの大きな変化を進めるためにも、行政、企業、個人、NPOなどのプレイヤーが連携する必要がある。多様な主体の力を結集した、新しい地域マネジメントの仕組みが求められる。
 例えば、宮城県気仙沼市の水産加工会社17社が復興のために共同で設立した「気仙沼鹿折加工協同組合」では、施設を市が集約整備し、商品開発は大手商社2社、資金調達は地元金融機関が支援、県内の大学なども幅広く支援するという周囲の産学官が一体となったサポート態勢が構築されている。

③「自然との対峙」から「自然との融合」へ

【復興の現状】震災前、私たちは頑丈なコンクリートの建物や高い防潮堤・防波堤を造ることで、自然の脅威から生命や財産を守るという考えをもっていた。しかし、それらの防潮堤や防波堤が、いとも簡単に津波によって破壊され、自然の脅威に対して力で対峙、克服することの限界を思い知らされた。
 一方、福島第一原子力発電所の事故や震災後の電気などのライフライン途絶の体験から、改めてエネルギーのあり方が議論されている。こうしたなか、東北地方の豊かな自然資源を用いた再生可能エネルギーも、新しい産業の柱としても注目されている。
【実現すべき将来】日本人は、古くから自然と共生しながら生活を営んできていた。岩手県宮古市の姉吉地区の「此処より下に家を建てるな」と記した石碑など、自然と争わない暮らし方は、実は地域に古くから根付いていた。豊かな自然の恵みを得つつ脅威に備えるといった新しい生き方を地域に取り戻すチャンスでもある。日本ならではの自然との共生という考え方に、現代のICTやエネルギー関連技術などをプラスすることで、新しい社会や産業の姿を実現していくべきである。

④あまねく守るから効率よく守る国土構造へ

【復興の現状】在来鉄道などの被害の大きさに目を取られがちであるが、新幹線や高速道路など整備時期の新しい幹線交通網は、震災後比較的早く回復し、被災地の復旧・復興に大きな貢献をした。
 被災地の都市再生はこれからが本番である。その際には、周辺の過疎化が進んでいる地域への対応をどのように進めるかが一つのカギとなる。今回の震災により、農林水産業を生業として「土地」を守ってきた過疎地集落の人口減少がさらに加速されることが予想され、こうした地域のコミュニティ維持、国土保全のあり方が問われることとなる。
【実現すべき将来】今後のインフラの維持管理予算の制約や地域の持続性、防災性を考えれば、ハブ(核)となる地域拠点を、高齢者を含む地域生活者に魅力あるものとし、ハブ拠点への人口誘導と都市のコンパクト化を進めることを提唱したい。これにより、少ない人数が効率よく暮らせる地域・まちづくりを実現することが期待できる。
 集約化された地域拠点とそれらを結んで配置された交通網やICT網、スマートグリッドなど効率的なエネルギー網を整備し、コストのかからない地域を構築することで、効率よく「土地」を守ることが、地域を再生するうえで必須の条件と言えるだろう。また、震災直後の避難所や救援物資の情報は、GIS基盤などを活用し、官民の枠を超えた情報共有が実現したが、ICTは地域の情報共有や意思決定にも有効である。地域の再生を進めるための情報基盤として、オープンガバメント、オープンデータなどを推進することが必要である。

東北被災地を日本の地域再生の先進モデルに

 人口減少・高齢化、人材不足、地域を支える産業の不振などは、単に被災地だけの問題ではなく、日本の地域社会に共通する課題でもある。また、今回の震災を教訓として、今後想定される東南海地震などへの備えが急務である。
 被災地を人口減少社会の日本の先進地域として再生することが、同じ問題に悩む他の地域に再生のモデルを示すこととなる。今回、図らずも全国に先駆けて地域再生に取り組むこととなった被災地では、エネルギー自立、進んだ防災・減災対策に加えて、ICTなど新たな技術を活用したまちづくりと産業育成が進められる。大都市や海外の消費者に訴求する地域産品や観光、地産地消の田園型ライフスタイルなど、地域資源の魅力を活かした経済再生の機会も開かれてこよう。
 東北の被災地が、地域再生と新しいまちづくりの先進モデルとなるよう、多様な視点から被災地の支援の在り方を問い直すべきである。

福島県の再生(原発被害からの脱却)

 4つのパラダイムシフトに加え、福島県の原発被害からの脱却は重要課題である。現在、除染特別地域や汚染状況重点調査地域を中心に、国や自治体による除染事業が進められているが、除染の見通しはまだ明確でなく、住民の安心には程遠い状況だ。
 産学官は、福島県の再生にあらゆる努力を惜しむべきでない。帰還困難区域は10年後にはほぼなくなるとの政府見通しも出されているが、地域の再生のために必要な拠点形成に向けて、住民帰還についての行政側の意思決定を、早期に行う必要がある。また、放射線の健康影響の継続的な把握と客観的なデータ開示を続けるなど、住民が安心して生活再建ができる環境を早期に整えることが喫緊の課題である。


関連するサービス