2030年、クルマ社会の新たなステージへ
―自動運転、燃料電池などを含む包括的な取り組みを

 
Point
現在のクルマ社会は、いまだ交通事故、渋滞、環境負荷などが課題。
クルマ単体の技術開発にとどまらない包括的な取り組みで課題解決。
自動車産業は総合モビリティ・サービス産業へと変貌する好機。

1.クルマ社会が解決すべき課題

 わが国は、1964年の東京オリンピックを契機に本格的なモータリゼーションの時代を迎えた。1966年度末に300万台にも満たなかった自家用車の保有台数は、今や6,000万台となり全国民の2人に1台の割合にまで達している。
 この間、クルマを取り巻くニーズも大きく変化した。1972年に保有台数が1,000万台に達し、家族が休日に「マイカー」でレジャーに出掛ける生活スタイルが生まれた。大都市での郊外化(スプロール)が進むと、ロードサイド型商業施設や大型ショッピングモールが登場し、消費スタイルも変化していった。1990年代以降現在にかけて、クルマをもたず必要なときだけ借りる生活スタイルも一般化しつつある。半世紀を経て社会環境は大きく変化したが、クルマは社会システム・生活の基盤として定着した。
 一方この50年間、クルマ社会の負の遺産である交通事故、渋滞、環境負荷などの課題に対し、技術開発、インフラ拡充、法制度整備など国を挙げて取り組んできた。
 しかし、交通事故死亡者は、過去最多の16,765人(1970年)から減少しているが、2014年も4,113人が亡くなった。渋滞による経済損失は約12兆円に上ると推計されている(国土交通省)。2013年度末時点の自動車によるCO²排出量はわが国全体の約15%を占め、1億9,400万トンに上る。クルマが社会システム・生活の基盤として定着する過程で生まれた課題は、依然として社会全体で解決すべき大きな課題である。
[図] わが国の乗用車台数とクルマ社会の課題の変遷

2.2030年の技術開発の展望

 こうした課題解決に向け、自動車メーカーは安全で環境に優しいクルマを目指した技術開発を進め、政府も民間の技術開発を後押ししている。これらの技術の多くは、2020年にはあらゆる新車に標準装備されるようになり、買い替え、廃車の期間を経た後、2030年までには既存車両の大半が自動運転、渋滞知らず、CO²排出ゼロが可能な車両に置き換わるだろう。

(1) 自動運転で交通事故を未然に防止

 交通事故防止の面では、衝突被害軽減ブレーキなど事故を未然に防ぐ技術はさらに発展し、速度や道路形状などにかかわらず機能するようになるだろう。自動運転は、周辺環境を感知するセンサーやカメラ、認知した情報から瞬時に状況を判断する解析技術、人工知能(AI)による判断技術、さらにセキュリティ技術やドライバーの状態検知技術など、さまざまな先端的技術を必要とする。
 メーカー各社は、おおむね2020年までには、ドライバーのハンドル保持を前提とした高速道路などでの自動運転を実現、その後にドライバーがまったく運転に関わらない完全自動運転の実現を目指して技術開発を進めている。

(2) 全てのクルマの動きを解析し、交通を最適化

 渋滞解消面では、クルマからリアルタイムで得られるデータと、進化したビッグデータ解析技術により交通管理、経路誘導が進展し、解決に大きく貢献する。大型車走行経路の管理・誘導による物流効率化も課題解決に寄与するだろう。
 今やクルマは、100~200ものセンサーがクルマの状態と周辺環境、ドライバーの状態を常時計測・解析しながら走る「情報端末」である。さらにクルマと道路インフラの情報を全て共有して交通管理を行えば、渋滞の完全解消も可能とまで言われる。そのためには、情報処理技術のさらなる進展が必要である。だが、「1,000ドルのコンピューターの計算処理能力が数年後に人間の脳をしのぎ、近い将来に全人類の脳を合わせたレベルを超える」との予測*1を考えれば、渋滞という言葉がなくなる日も遠くはない。

(3) 燃料電池車普及による環境負荷軽減

 環境負荷軽減の面では、電気自動車、燃料電池車の開発・普及により、CO²排出量が大幅に低減することが見込まれている。中でも燃料電池車は燃料源となる水素をバイオマス、太陽光、風力といった再生可能エネルギーからも製造できるため、期待が大きい。燃料電池車は2014年に商品化されたが、燃料電池や高圧水素貯蔵タンクの低価格化と、安全性・耐久性の向上が課題であり、メーカー各社は研究開発を推進している。例えばトヨタは2015年1月、燃料電池に関連する5,000件以上の特許の無償公開を発表するなど、燃料電池車の市場創出に向けて積極的な動きを見せている。

3.技術開発とインフラや法制度整備を包括的に展開

 交通事故、渋滞、環境負荷といった課題はクルマ単体の技術開発だけでは解決できない。道路交通は人・クルマ・インフラの調和で成り立っているからである。利用者に真に安心・安全で豊かなモビリティを実現するためには、社会システム、法制度を含めた、ハード・ソフト両面の対策を包括的に進めることが不可欠である。

(1) 自動運転技術の標準化と免許・保険・車検の制度整備

 完全な自動運転に至る前の段階では、ドライバーが注意義務を怠ることで、不測の事態に対応しきれず事故を招くことも想定される。これを防ぐには、ドライバーの状態を監視し、居眠りや体調異変に対応してドライバーに注意喚起したり、車両を安全に停止させたりする技術の確立が急がれる。これらの技術開発はメーカーが個別に取り組む競争領域であるが、ドライバーの利便性を考えれば、業界共通の性能要件やインターフェースの標準化への取り組みも不可欠となる。
 制度面では、クルマの保有・管理・運転、さらに事故発生時まで想定した全ての対策を、官民双方で検討することが必要である。例えば、自動運転車用運転免許やドライバー教育などの制度見直し、事故発生時のドライバーとメーカーの過失割合の明確化、これに対応した新たな保険制度、車検制度のあり方(重要チェック項目の見直し)などが考えられる。

(2) プローブデータを安心して収集提供できる環境整備

 ビッグデータによる交通管理などの実現に向けて、公的機関の所有するデータ(道路交通情報など)のオープン化を進めるとともに、一般の車両から収集したさまざまなデータ(プローブデータなど)を統合し、民間も活用可能な環境を整備することが期待される。また、民間によるビッグデータ解析技術開発も促進する必要がある。
 プローブデータは、クルマの属性情報にひも付いた位置情報、走行状態に関する情報など、個人情報やプライバシーに関わる情報である。利用者が安心してサービスを利用できるように、データの所有権や個人情報の取り扱い、情報提供サービスに活用する際の範囲や同意取得の手順などを明確化しなければならない。

(3) 道路空間活用ルールの再検討

 渋滞問題が解消されれば、道路空間に余裕が生まれる。この空間を自転車、超小型モビリティ、次世代型路面電車など人や環境にやさしい移動手段に活用することで、都市の機能性や環境性能がさらに高まる。クルマと新たな移動手段の連携・機能分担を考慮した、限られた道路空間を安全面に留意して活用するためのルールづくりがあらためて重要になる。その過程に道路管理者、警察、地権者、まちづくり団体、一般市民などの関係者が参加すれば、合理的で実現性の高い設計・ルールとなる。

(4) 水素インフラ整備の費用負担、財源確保

 燃料電池車が普及するためには、全国的なステーション整備、水素精製技術の開発、ステーションまでの水素の安全な輸送技術開発が必要である。国は、東京、大阪、名古屋、福岡の各都市圏を中心に2015年末までに水素ステーションを100カ所整備するという目標を打ち出し、水素の供給インフラ整備を急いでいる。
 インフラ整備費用の負担や、揮発油税に代わる新たな財源の確保などは、受益者負担の原則を踏まえつつ誰がどれだけ負担を行うべきか、市民・事業者・行政が参加する場で、関係者が十分に議論を尽くす必要がある。

4.自動車産業は総合モビリティ・サービス産業へと変貌する好機

 以上の取り組みにより、死亡事故やCO²排出はゼロになり、渋滞からも解放される。自動運転などにより、運転の負担を大幅に下げつつ移動の自由が広がり、クルマ社会は新たなステージへ昇華するだろう。その先の日本のクルマ社会を展望してみよう。
 高齢者や障がい者、外国人や子供も含めすべての人に移動の自由が格段に広がるだろう。バスに乗り遅れて途方に暮れることはなく、移動したいと思えば目の前に現れてくれる自動運転タクシーやレンタカーを利用すればよい。都市では駐車場を探して走り回るようなことはなく、クルマを降りたらクルマが自分で駐車場を探してくれる。
 このように多様で便利な移動サービスが豊富に存在すると、もはやクルマは買うものではなく移動サービスそのものを買うという選択が一般的なものとなるかもしれない。一方で自動運転機能付きの超小型モビリティを1人1台もつようになり、近距離の移動を担う新たな社会インフラになるだろう。
 さらに、この頃には新たな産業・市場が生まれる可能性も秘めている。高度に制御された移動中の時間・空間を活用して、情報やコンテンツ、その他のサービスを提供するビジネスも生まれるだろう。自動車産業は早晩、移動サービスに加え、移動中の時間・空間を活用するサービスを提供することで稼ぐ「総合モビリティ・サービス産業」へと変貌する可能性がある。
 欧米でも、クルマを取り巻く未来社会を、都市や地域の将来像と一体でデザインする取り組みが進みつつある。EUでは産官学が連携して自動運転小型バスによる利用者受容性などの検証実験を行っている。また、シェアリングを想定した超小型電気自動車といった新たな概念のさまざまな交通システムが提案されている。自動運転を前提としたデザインは、GoogleやIBMなど交通とは比較的関係の薄い企業が積極的だ。
 地方部の人口急減や超高齢化など、モビリティにも関わる課題先進国のわが国こそ、今を総合モビリティ・サービス産業創出の好機ととらえ、次のステージのクルマ社会をデザインすべく、産官学・業種を超えて知恵を集めるべきだ。

*1 人工知能の権威として著名な未来予測家のレイ・カーツワイルによる。


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