風土共創による地方創生
―変革の連鎖による持続的な発展

 
Point
地方創生の鍵は風土共創による地域産業の変革。
風土共創とは地域資源の活用、消費者との共創、地域内外の共創。
共創が地域内の変革の連鎖を生み出し、地方創生の実現へ。

1.風土共創が実現する地域産業の変革

 地域が持続的に発展するためには自立した経済基盤が必要だ。地域外の力に依存した企業誘致などではない。地域産業が自ら変革を続け、新たな産業を生み出すとともに、地域産業の厚みを増し、地域が自律的に成長することである。
 利便性や物質的豊かさを満たすための画一的なモノやサービスがあふれる現代社会では、地域資源や地域風土を活かしたユニークなモノやサービス、そこから感じ取れる今までにない付加価値が、消費者にとって魅力ある存在になる。地方には活かし切れていない地域資源や固有の風土がまだまだ多い。地域内外のさまざまな分野や業種の人たちが知恵を出し合い協働しながら、消費者が共感するモノやサービスを作り出すことが新たな価値創造につながる。今がそのチャンスのときと言えよう。
 三菱総合研究所は、地域それぞれがもつ個性を活かしながら、ユニークな価値を創り出す、このような地域の自律的な産業変革を「風土共創」と称し、これからの地方創生の重要な戦略の一つと考えている。

2.風土共創を実践するものづくり企業

 風土共創は、地域資源の依存度の高い農業や観光だけではない。「ものづくり」においても、風土共創の視点は欠かせない。製造業は地域が生み出す生産高の約2割を占め、地域外での売上比率も大きいため、その変革の効果は大きい。
 地方にも経営者のリーダーシップや卓越したマネジメント、自社の強みを活かした技術戦略などで成功している企業が多々あるが、ここでは市場が多様化する中で、風土共創を実践し新たな価値を創造、海外にも展開し、成長している地方のものづくり企業の中から三つの事例を取り上げ、風土共創の本質に迫る。

(1) (株)スノーピーク

 創業1958年、新潟県三条市に本社を構える(株)スノーピークは、燕三条の金属加工産業集積と豊かな自然環境という地域資源を活かし、アウトドア用品分野で独自のビジネスモデルを開拓した企業である。同社の商品は格段に高い価格帯にあるが、機能性・快適性・耐久性を重視し、永久保証をつけるなど高い品質と魅力的な商品づくりで、国内外のユーザーから圧倒的な支持を得ている。社員数は190名を超え、2014年12月にはマザーズに上場を果たす。ここ数年20%以上の売り上げ増を継続し、海外売上比率も30%以上となっている。同社はアウトドアブームの退潮とともに93年から6年間減収という厳しい状況に陥るが、キャンプイベントでのユーザーの声をきっかけとして大胆な変革を断行する。従来の問屋経由の販売をやめ、小売店との直接取引に変更。1,000あった取扱店は250に激減したが、ショッピングモールやスーパーなどの主要店舗に社員を常駐させ、ユーザーに十分な説明が行き届くようにする。キャンプイベントを毎年数回以上開催し、ユーザーとの直接の交流機会を増やす。他にSNSを使ったコミュニケーションを行うなど、ユーザーとの距離を縮める変革により成長軌道に転じた。
 同社がユーザーから支持されるのは、他社にない独創的な製品そのものの魅力だけではない。ユーザーと一緒にアウトドアライフのすばらしさを共有し、その共感の輪を一緒に広げたいという企業風土や本社をとりまく自然豊かな地域風土こそが支持されている。スノーピークの本社は三条市郊外の自然豊かな高台の広大なキャンプフィールドの一角に建つ。年間を通じて多くのキャンパーが訪れ、イベントのあるときは数千人が来訪する。年間数十泊をテントで過ごす社長を筆頭に社員全員がアウトドア大好き人間であり、ユーザーと共感しつつ新たな挑戦を続けている。

(2) (株)ヤッホーブルーイング

 長野県軽井沢町に本社を構える(株)ヤッホーブルーイングは、96年に創業したクラフトビールの製造販売企業である。創業者が海外留学で出会ったエールビールのおいしさを日本人に伝えたいと起業した。エールビールづくりに適した硬水である浅間山伏流水を活用。第1号ビールの「軽井沢高原ビール」のコンセプトは「軽井沢を愛する気持ちから生まれた、軽井沢を愛する人のビール」。ビールとしての味、香りの追及はもちろんのこと、売り上げの一部を寄付し、軽井沢の自然や景観、文化遺産を守る活動を支援している。
 地ビールブームに乗って創業当時の業績は順調であった。しかし、ブーム退潮のあおりを受け売り上げは低下。その際、同社は店舗営業からネット販売に事業戦略を転換した。おいしいビールづくりへのこだわりと情熱をもった社員は、ホームページやSNSを通じて消費者とコミュニケーションを開始。さらに、東京への公式ビアレストランの開設や地元での醸造所見学ツアーを行うなど、消費者との直接対話の機会を増やした。
 手作り感満載の醸造所見学ツアーは好評だ。今年は全国から3,000人の来場者を受け入れ、参加者は佐久・軽井沢地域の自然環境の中で作られるビールにますます愛着を高めて帰る。ここ3年は売り上げで前年比4割増を続け、社員数も120名にまで拡大。昨年9月にはキリンビールと業務資本提携を行い製造の一部を委託、海外13カ国に輸出するまでに成長している。
 新商品の企画・開発は、チャレンジしたい社員が手を挙げて社内横断でプロジェクトチームを作って進める。このような企業風土はホームページでも積極的に発信されており、これらの企業風土に共感した消費者たちが醸造所見学ツアーに参加する。「消費者の共感を得る企業風土や取り組みによってブランドに磨きをかけなければならない」というのが同社の考え方である。

(3) 四国タオル工業組合

 今治は、豊富な軟水の伏流水を活かし日本最大のタオル産地となったが、台頭してきた新興国にシェアを奪われ、生産量は一時最盛期の5分の1まで落ち込んだ。四国タオル工業組合は生き残りをかけ、クリエイティブ・ディレクター佐藤可士和氏の協力を得て、06年から「今治タオル」という地域名を使ったブランド戦略を展開する。今治タオルの最大の特性である吸水性・肌触りを効果的に伝える手段として、白無地のタオルのみを陳列した展示会を開催するなど、斬新な取り組みを実施。さらに、(1)消費者がタオルを直接手に取れる直営店を東京南青山に開設、(2)タオル選びのアドバイザーを育てるタオルソムリエ認定制度を創設(業界関係者だけでなく今治タオルファンの中にも資格を取得する人が増えている)、(3)欧州の国際見本市へ積極的に出展するなど新しい挑戦を続け、今治タオルの国内消費者の認知度は7割に達するまでになった。
 こうした取り組みは地域に変化をもたらした。まず、経営者のマインドを変えた。かつては、問屋やアパレル企業からの相手先ブランドによる生産(OEM)一辺倒だったが、自社ブランドが消費者に受け入れられたことで、100社以上あるタオル生産者に誇りと自覚がよみがえった。「今治タオル」ブランドの認知はOEM案件の増加をもたらし、各社の業績も改善した。今治タオルの生産は急激に復活、若い人材の就職希望も増え、県外からタオルを購入するために訪れる人も増え、街全体に活気が戻った。

3.風土共創の三つの本質

 上記三つの事例は扱う商品は異なるが、その成功の背景には共通の本質を見いだすことができる。

(1) 地域資源を活かした価値共創

 第一に地域資源を活かしている点。消費者の嗜好の多様化が進み、独自性のある商品にチャンスが生まれている中、価値ある商品を創り出すためには、地域の特徴ある産物や技術、環境などを活用することは不可欠だ。
 スノーピークでは、社内で製品の企画・開発を行うが、実際の製造は、地域の産業の強み(地域資源)である金属加工技術を有する燕三条の企業と連携することで、アウトドア用品市場で従来にない品質の高い商品を生み出した。四国タオル工業組合は、佐藤可士和氏の協力を得て、今治の豊富な軟水と培ってきた製造技術が生み出すタオルの本質的価値を再発見し復活した。

(2) 消費者との価値共創

 第二に、共感できる価値を作り出そうとする消費者との価値共創である。このためにネット販売、自社ブランドの設立、イベント開催、大消費地への店舗展開、工場見学ツアーなど消費者との距離を縮める工夫を行っている。これらの工夫もさることながら、より重要なのは経営者から社員に至るまで全員が、商品に誇りと情熱をもっていることである。消費者はこの誇りと情熱に共感するのであろう。

(3) 地域内外の人々との価値共創

 第三に、地域内外の人々との共創である。ものづくり企業は、往々にして無意識に「自社技術」という制約の中で商品づくりを考えがちである。スノーピークや四国タオル工業組合の事例もそうであるが、マーケティング、IT、デザイン、海外折衝など、異分野の能力や経験のある地域内外の人たちを交えた共創が地域資源の再発見や新たな価値創造につながっている。
図 風土共創による持続可能な地域の実現

4.共創による変革の連鎖で地方創生の実現へ

 挑戦する企業や組織が増えると地域内で相乗効果や挑戦の連鎖が生まれる。例えば、燕三条では、いくつかの企業が工場をオープンファクトリーに建て替えたり、海外販路開拓に挑戦する刃物メーカーが出現している。これは、先行するスノーピークに触発されてのことである。四国タオル工業組合の今治タオルブランドの取り組みでも、当初は様子見であった企業も多かったが、消費者の反応を目の当たりにして積極的に参加するようになった。また、同組合が導入したタオルマイスター制度の認定要件には、最高の技能を有するだけでなく、地域の若手に技術を伝え地域社会に貢献する人格を備えた者と定められている。制度導入当初は「技術をライバルに教えるのか」と反対する経営者も多かったが、今では企業の枠を超えた情報交換が活発となり、地域全体の技術のレベルアップに貢献している。
 こうした挑戦する企業や組織を核に、新たな価値共創を実践することで、地域産業の変革が次々と起こる。この自律的な変革の連鎖が地方創生のうねりとなることを期待したい。

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